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16(73).自由の代償

王に会うという事は意外にも大変だ。

謁見許可を貰う為に登城、そして許可を待つ。

ダンジョンから帰還し3日、ようやく王への謁見が叶った。

王城へ続く坂は長く続く。

そこには、爽やかな風が後押しするように吹いていた。

1人は歩き、もう一人はその背中で風景を楽しむ。

彼女にとっては、3日経っても本当の太陽は嬉しいものだ。


「ウチ、お城に入るの初めて!」


彼女は、目に映る物を逐一伝えた。

他愛も無い会話は、長い距離を短く感じさせる。

城門に着き、門番に名前を告げると、奥に控えた文官に謁見の間まで案内された。

文官は、謁見の間前で深く頭を下げその場を離れる。

僕は、初めて見知らぬ貴族に頭を下げられた気がした。

それが銀等級の効力なのか、王の指示なのかは定かではない。

それでも、貴族は名目に対し弱いことがよくわかった。

僕は謁見の間に進み、王の前に跪き指示を待つ。

以前ほど重苦しい空気はない。

オルハウルの臣下は、僕に振り返り声を上げた。


「ルシアよ、我が王に貴殿の結実を伝えよ。」


僕は、国からの依頼達成、未踏破エリアの発見、そして銀等級への昇級を伝えた。

謁見の間に控えた臣下達はざわめく。

王は、そのざわめきを仰々しい手振りで抑え、報告に賛辞を贈る。


「ルシア、よくやった。貴殿の功績を認めよう。」

「国への貢献に褒賞を与える。その鎧と貴殿の身元を証明する親書・・・」

「そうだな・・・我が義妹ミーシャ嬢との婚姻を認めよう。」


ぼくは、王オルハウルの瞳を見つめ、深くお辞儀を返した。

オルハウルは、謁見の間に控える臣下を下がらせる。

そして、威厳ある表情を崩し言葉を続けた。


「ルシアよ。私からの忠告だ。」

「魔術に才ある獣人は、体が弱く寿命も短い。これだけは忘れるな。」

「ミーシャは、離宮にいる。 さぁ、早く行ってやれ。」


僕は、王に深く頭を下げ、謁見の間をあとにした。

中庭に咲く薔薇は、数を減らし、別の花が咲き始めている。

その彩の中に白いケットシーの姿があった。

ミーシャは両手を合わせ、庭園の墓標に祈りを捧げている。。

風が急に強く吹き、辺りは花弁に包まれ、ミーシャは顔を背け俯く。

その視界の中に僕が入った。

その瞬間、彼女の表情は明るくなり、その瞳に涙を浮かべる。

そして駆け寄り、僕を抱きしめた。


「ルシア・・・おかえりなさい。 心配したんだから・・・」


嗚咽を孕んだ抱擁はしばし続く。

僕は、彼女を強く抱きしめ、彼女の抱擁に答える。

強い風が去ると、庭園からバラの姿は失われた。

僕たちは、彼女の姉の墓標に手を合わせ、中庭を後にする。。

城の外では、フォンランド家の馬車が止まり主人をまっていた。


「ミーシャ様、お待ちしておりました。」


僕たちは、カール領へ戻ることになった。

馬車では、ラスティがミーシャに自己紹介をする。

それは貴族に対する礼儀があるものだ。

そして、ラスティはミーシャにダンジョンであったことを話す。



数日たち、カールの街へ到着しする。

領主の館に案内され、領主一家とその母が出迎えた。

僕は、領主ヨウルに探索準備の件で頭を下げる。

彼は、妹の為だと軽く笑い流した。

僕たちは、応接室でスキュレイアでの出来事を伝える。

話が終わるとヨウルの妻とその息子に、僕は庭園に誘われた。

人はらいされた応接室では、ヨウルとその母、そしてミーシャが静かに話を始めた。


「ミーシャ、これまで領地の為に、良くその身を捧げてくれた。 ありがとう。」


ミーシャは、ヨウルの発言に彼の顔を見返した。

だが、ヨウルの顔は領主の顔ではない。

その表情は優しく、愛する家族に向けるモノだった。


「どうしたの大兄ちゃん。いつも通りオルハウル様の元へ行って来ただけだよ。」


ヨウルは、彼女の言葉に優しく答え、そして質問を投げる。


「お前は、仕事ばかりで出会いを用意することができなかった。」

「ミーシャ、お前はルシア殿の事が好きか?」


ヨウルの質問にミーシャは唇をかみ俯く。

ヨウルと母の表情は、優しい中に真剣さがある。

ミーシャは、スカートを掴み、自分の気持ちを二人に伝えた。


「私は・・・ルシアの事が好き。一緒にいたいと思う・・・だけど」


ヨウルは、ミーシャの言葉を遮り、領主然とした表情に変わる。

そして彼女へ告げた。


「ミーシャ、お前の家名を剝奪する・・・お前は自由だ、幸せに暮らせ。」


ミーシャは、ヨウルの言葉に一瞬呆然とする。

しかし、彼の真意を察し口を押え、涙を溢れさせた。

ミーシャの母は、娘を優しく抱きしめ、彼女に想いを告げる。


「ミーシャ、いつでも戻ってらっしゃい。ここはあなたの家だからね。」


ミーシャは静かに泣き、母の温かさに包まれた。

彼女が泣き止むと、ヨウルは家族を呼び戻し祝宴の準備を始めた。

フォンランド家の使用人たちは、世話しなく事を進める。

そして、盛大に宴が始まり、彼女の思い出を語る家族たち。

それはまるでライザの結婚式の様だった。

ミーシャは寂しそうだが、その中に喜びや希望にも似た表情を湛えている。

僕は、ミーシャからこの祝宴は彼女の門出だと知らされた。

彼女たちは遅くまで会話を楽しみ、お互いをいつくしんだ

僕とラスティは早めに切り上げ、用意された部屋へ戻った。

静かな夜の楽し気な家族の会話は、師匠との記憶を思い起こさせる。

翌日、僕達はフォンランド家総出で見送られ領主館を後にした。



クーデリアに向かう馬車の中で、ミーシャとラスティは不思議な会話をしている。

ラスティは、ミーシャが貴族で無くなったことで礼儀はない。


「ミーシャは、ルシアなんなの?」


ミーシャは、彼女の質問に顔を赤くし俯く。

それを観察し、いたずらに笑うラスティは言葉を続ける。


「ウチはね、ルシアの相棒だよ・・・そうね、親友?」


ラスティは匂いを嗅ぐように鼻を高くしながら、自慢げに語る。

それに対しミーシャは、身を乗り出し彼女に返す。


「私は、か・・・・」


ミーシャは、僕の方を一瞬見るも、すぐに目をそらせ口調を強くした。


「私だって・・・親友だもん!」


僕は、彼女に笑顔を返すが、彼女から笑顔は返ってこない。

ラスティは、その状況を楽しそうに眺め、ミーシャの膝の上で丸くなった。

馬車は、轍を外れ強い衝撃を与えるが、その進路は変わることはない。

やがて、クーデリアの港町が見えてくるのであった。


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