9(66).想いの先にある闇
スキュレイアのギルドは活気がある。
獣人のパーティーの他にヒューマンのパーティーも見られた。
そこには、新規加入者を探す姿も多い。
しかし、その対象は獣人だけだ。
どのみち僕には関係はないのだが。
僕は周りを気にせず掲示板へ向かう。
張り出される依頼書は、どれも高難易度のモノばかりだ。
そこからわかることは、今までのダンジョンよりも高難易度という事。
その上、城主の依頼はこの魔生遺跡の攻略。
言い換えれば最下層に座するダンジョン主の討伐だ。
目的の依頼も出ているが、銅等級5人以上となっている。
多少予想はしていたが、それを簡単に越えていく基準に頭が痛い。
僕はダンジョン主の討伐依頼は諦めた。
出来ることは間接的な達成。
僕が受注できる依頼はワイト3体以上が上限だ。
どうせならと、その依頼書を取り受付へ向かった。
「次の方どうぞ・・・んっ、おこちゃまの悪戯はダメだぞぉ!」
僕を頭ごなしに怒る受付嬢。
その容姿は、師匠の様な金色の髪、ただ肌の色は透き通るように白く耳は尖っていた。
僕が登録証を見せると、彼女は涙ぐみ言葉を続ける。
「君も大変なんだね。そんなに小さいのに・・うっうっぅ」
彼女は何故か泣き始める。
それに気づく初老のギルド職員。
彼女の隣に立ち肩を軽く叩き受付から下げた。
そして、彼は軽く会釈し僕に対応する。
「すまないね。彼女共感性が強すぎるというか、感情表現が強くてね。」
初老のギルド職員は、依頼書と僕、そして登録証を確認する。
そして咳払いを1度、モノクルを指で直すと、真剣な表情で確認をとった。
「ふむ、君はオルハウル様から連絡のあった子で間違いないね。」
「君は自分の意志で依頼を受けた・・・そうだね。」
初老のギルド職員は、僕に依頼受注の意志を確認する。
これは初めての事だ。
ギルドは冒険者に介入することはない。
この依頼は余程の事があるという事だ。
僕はその質問に深く頷き意思を伝える。
初老のギルド職員は、事務的な対応で20日の攻略設定を提示。
依頼書に許可の印がドンと音を立てて押された。
これで受注は承認されたのだ。
ギルドから出てると、そこにはフォンランド家の従者が待っていた。
「ルシア様、ヨウル様からでございます。」
フォンランド家の従者はミーシャの兄からだと背嚢をよこした。
中には探索に必要なモノが一通り入っている。そして金貨が2枚。
僕は眉をひそめたが、従者は無反動だった。
手切れ金とも取れたが、頭を横に軽く降りその考えを改める。
「ヨウル様によろしくお伝えください。」
僕は従者に頭を下げ、足りない物を買いに商店街へ向かう。
探索の準備を終え、広場の片隅でダンジョン地図を広げ階層数を確認した。
予想はしていたが深い。
全部で8層アリ、階層によっては解放と密閉と記載がある。
このダンジョンはただの遺跡ではない上、空間すらもおかしい事になっていた。
今まで攻略して来たダンジョンは、密閉型に分類される。
この解放とは、その階層は空間自体が洞窟であって洞窟ではない。
階層の全体が地上の様に木々が生え、昼夜がある空間だ。
ミーシャが怒った理由も納得だ。
僕は後悔しつつも、遺跡に向かう馬車に乗った。
遺跡の敷地は、旧帝国領で見た古代魔法王国の遺跡の様に、周りを巨大な策で隔離されている。
僕は門をくぐり遺跡表層を目指す。
表層には大理石の様な石柱が何本も立ち並ぶ。
何本かは途中で折れているが、屋根は崩れることなく宮殿の姿を成している。
僕は地下と続く階段を下っていった。
階段は上層よりすべてを吸い込むように風が流れている。
長い階段を下ると、そこは闇が全てを包み隠す。
この階層には全く光がない。
僕はランタンを取り出し魔力をおくる。
視界は大して伸びないが、それでも寂しさは和らいだ。
魔力は20、内人らしきものは12、3パーティーで別れていた。
僕は人が群がっていない魔力を確認に向かう。
そこにはグールがいた。
こいつらは討伐対象ではない為、僕は迂回して第二層を目指す。
第二層は、どこまでも闇が広がっているだけだ。
想像できる風景は、死者の街。
第一層から続く長い階段を下る。下からは甲高い鳥の鳴き声がする。
魔力は近くには感じない。嫌な緊張感が他意欲を奪う。
遠くには明かりがチラホラあった。
しかし、魔力感知できる距離ではない。
階段を下るうちに視界が消えた。
僕はランタンを持つ手を確認するも、その光すらも見えない。
何かの力で見えなくなったのだろうか。
気が付くと底につく感覚が足に伝わる。
何も見えない事が、これほど精神を蝕むとは思わなかった。
僕はバスタードソードを抜き、地図をイメージしながら進んだ。
地面は固い土か岩のように靴が砂を噛む。
突き出した手には壁を触る感覚が返ってくる。
地図通りに壁を見つけた事になるが、嫌な魔力を感じた。
壁に手を当て少しずつ魔力に向かう。
時々聞こえる甲高い鳥の声が精神をすり減らす。
淡い青白い光が見えた。
それは可笑しな状態だ。
フワフワと漂うそれは、次第に大きくなっていく。
僕はその不思議な光に見入っていた。
気づいたときには、僕は光に取り込まれてしまう。
そして光からは感情が流れ込んでくる。
それは体が燃えるように熱い。
切られたわけでもないのに全身が痛い。
僕は膝から崩れ落ち、ある筈のない痛みから叫び声をあげていた。
その時、師匠にもらった腕輪が食い込み。幻覚から現実に引き戻す。
歪んだ魔力に当てられ、上から施された術式が壊れた様だった。
僕は、自分を覆う魔力をさらに外へ発散させる。
次第に光は終息し、小さな結晶に変化。
僕はゴーストとやり合ったのは初めてだ。
流れ込んできた感情の中には冒険者の記憶も流れ込んできていた。
僕は、その違和感に疑問をいだくが、答えを見つけることはできない。
ゴーストの結晶を背嚢に入れ、先を進む。
闇は続き、3度ゴーストと遭遇した。
僕は取りつかれる前に発散させる。
以前はギクシャクしていた魔力の流れも、今では滑らかになっていた。
師匠に叱られていた頃を懐かしく思い出す。
迷いながら第3層への階段を見つける頃には、空腹で倒れる寸前だった。
階段で食事をとり少し休む。
闇しかない静かな空間には心休まる場所はない。
第3層から帰還する灯火と挨拶をし、気分を入れ替え階段を下った。
闇は希望すら飲み込むように、口を開けて待ち構えている。




