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8(65).要求と想いの真相

フォンランド家の朝は早い。

領主も含め、朝日が昇る頃には皆作業んをしている。

朝餉前の画商が終わり、朝食の席でミーシャの兄から依頼を受けた。


「ミーシャ、悪いが外交でスキュレイアの王都へ向かてほしい。頼めるか。」


ミーシャは耳をたたみ一瞬眉を顰めるが、耳以外はすぐに元に戻った。

彼女は仕事と割り切り、領主の申し出を了承する。


「お兄様、ルシアを同伴しても構いませんね。」


僕の視線は、ミーシャからその兄に移る。

ミーシャの兄の表情は、それまでの友人・家族に向けるモノではない。


「構わないが、外交という事を忘れるなよ。」


「ええ、お兄様。」


僕は、淡々と進む会話とその場を支配する重苦しい空気に気圧された。

ミーシャは、僕に視線を送り、兄にはスカートの両端を摘みお辞儀をする。


「行こ、ルシア。」


僕はミーシャに手を取られ、その場を後にした。

僕たちは用意されたフォンランド家の馬車に乗り件の国へ向かう。

2日程、馬車に揺られるが、一向にミーシャの機嫌は直らない。

道は次第に石畳に代わり、揺れが静かにしていく。

馬車は王都に入り、速度を抑え城を目指した。

民の表情はフォンランド領と同じく明るい。

僕たちは謁見の間へ案内された。

そして、外交相手である王オルハウル・フォン・スキュレイアの前で跪く。


「よく来た、顔を上げよ。余とフォンランド家の仲だ、気楽にしろ。」


その発言に家臣は、王に視線を向けるが、彼はそれを一瞥し話を進めた。

まず彼は、ミーシャが無事に戦争から戻ったことを労りる。

そして、今は亡きアンリへの追悼を捧げた。


「スキュレイア王、本日はなに様でごさいましょうか?」

「以前に頂きましたお話はお断りしたかと思いますが・・・」


ミーシャは王の前でも耳をたたんでいる。

それに対し、王は表情を変えず淡々と返した。

僕にはこの状況が理解できない。

それでも、服装やミーシャの兄とのやり取りから想像は付く。

しかし、ミーシャはケットシー、大して王は、スコル(狼獣人)だ。

婚姻をしたところで子は得られないはず。

王は視線をミーシャから僕へ移す。


「ミーシャよ、その者はなんだ。何のつもりで傍らにおく。」


謁見の間の空気は、戦場の様に重く苦しい。

ミーシャは仰々しく僕の手を取り小さく囁く。そして王へ啖呵を切る。


「巻きこんで、ごめんね。」

「私は、この方と婚約いたします。王の申し出にはお答えできません。」


場の空気はさらに重くなり、謁見の間に控える家臣はざわめいた。

王は席を立ち、僕に手袋をなげる。

そして、その手袋は僕の足元に落ちた。


「面白い。しかし・・・よりにもよってヒューマンとはな。貴下に決闘を申し渡す。」


僕は王に後に続き闘技場へ向うことになった。

ミーシャと臣下が見守る中、それは始まる。

王は、家臣から手渡された見事な設えのバスタードソードを鞘から抜く。


「真剣で構わん・・・構えるがよい。」


僕は周りを見回すが、良しとする者はミーシャの他にはいない。

王はその態度に対し口調を荒くする。


「貴様、それでも男か! その態度は守るべきものへの侮辱と知れ!!」


王はゆっくりと歩を進める。その動きには隙など一切ない。

僕はその圧倒的な圧力に剣を抜かざるを追えなかった。

王の初撃は予想より軽い。

しかし、それは二撃目の布石だった。

王は体を横に捻り回転を加え、担ぐように剣を振り放つ。

僕の盾が間に合うも、膝をつく程に重い。


「貴様にミーシャ嬢が守れるのか。 貴様の様な小僧にできるか!」


王の言葉は斬撃と共に重く圧し掛かる。

僕は、奥歯に力を入れ立ち上がりつつ、王の剣を払いのける。


「それでも僕は、ミーシャといたい!」


僕は体勢を立て直し、盾を引き剣を前に半身になる。

王は正眼に構えを変えた。

そして初めて王は表情を変える。


「フッ、男なら僕などというな!」


剣戟の衝撃で砂煙が舞い上がる。

刃同士が擦れ合い火花が飛びぶ。

お互いの汗が日の光に反射し、それらを彩った。

王は横薙ぎに強い一撃を放つ。

僕は間合いを詰め、地面に刃を突き刺しソレを止める。

そして、王の腹部を目掛け盾を見舞う。

風圧が王の腹部を押す。

盾の縁は王に当たる前に止まった。


「ミーシャ嬢に好かれるわけだな・・・ついて来い。」


王は家臣を掃い、僕を連れて離宮に向かう。

王の表情は、柔らかいものになっていた。

そこは、バラやキャットニップが植えられた庭園の中にあった。

3人は後宮の扉を開き中へ入る。

中は人気(ひとけ)がないが、掃除が行き届いていた。

一番日当たりのいい部屋へ僕たちは向かう。

ミーシャは光景に口を押えるも、強い口調で王に投げ掛ける。


「何のつもり!」

「あなたは、王妃の・・・姉さまの事を愛してはいなかったじゃない!」


そこは王妃の肖像画が飾られ、その部屋の主が今も生活しているかのように整っていた。

王は、ミーシャの問いかけに優しい表情で答える。


「私は、リーベの事を愛している。それは昔も変わらない。」

「ミーシャ嬢、貴女を我スキュレイア家に誘うのも彼女の想いを汲んだにすぎん。」


ミーシャは床に崩れ落ちる。

彼女は姉への気持ちを見せない王に不信を懐いていた。

さらに姉が、結婚後子供をもうけるも数年で姉は他界したことでその気持ちは増す。

そして、自分への誘いが決め手になり、嫌悪感さえ懐かせていた。

しかし、王はその心を言動に表さずとも姉を愛し慕っていたのだ。

王は、僕に視線を投げ静かに話す。


「貴殿に、義妹(いもうと)のミーシャを任せたい。」

「しかし、王族という者は面子がある。一つ条件を受けてはくれぬか。」


僕は王の言葉に深く頭を下げ、了承の意を示す。

王の依頼は、僕の実力を家臣に示す為、領内に存在する魔生遺跡の攻略を命じるモノだった。

ただし、攻略は僕1人でだ。

それを聞いたミーシャは耳をたたみ、王に牙をむく。


「オルハウル!なんおつもりだ!」


王の表情は変わらない。

本当の妹を諭すようにその怒号に返す。


「ミーシャ嬢、すまない。」

「試合で負けた程度で妃を取られては、臣の信頼も落ちる。」

「私はこれでも王なのだ。取られた相手が優秀な冒険者ならそれも叶おう。」

「貴殿にも世話をかける。今回の件、達成できたなら親書もあたえよう。」


ミーシャも次第に落ち着き、貴族の面子というモノに嫌気がさした。

僕は、心配するミーシャを王城に残し、ギルドへ向かった。


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