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4(61).親心

帝国領から戻り、僕は冒険者に戻った。

最近は王宮から招集命令が届くことがある。

これは断り続けることもできるが、貴族という者は面子を重んじる。

その為、罪なき罪で罰せられることもあると聞く。

僕は、武器屋のオヤジセレクションでは、また問題が起る気がしたのでマントを羽織って登城した。

門番に書状を見せると、眉を顰められながら行先を指示される。

石畳の廊下をゆっくりと歩いているとファラルドに遭遇。

彼は、僕を引き留めるわけでもなく、たわいもない会話を返すのみ。

その事から彼が僕を呼んだわけではない事がわかる。

僕は、彼に指示された部屋を伝えると、返ってくるのは苦笑いだった。

彼に別れを告げて指定された部屋へ向かう。

扉をノックし名前を告げると、凛とした女性の声で入室許可が返された。

部屋に入るとそこには、見たことのない美しい女性が椅子に掛けている。

彼女は口元を少し緩め、優しい視線で声をかけた。


「急に呼び出しをしてすまないな。 私はアレクサンドリアだ。まあ座れ。」


僕は勧められるまま椅子に座った。

彼女は、僕が宮中の一部の女性達の中で話題になっていた為、呼んだのだという。

その口ぶりには何か含みがあり、彼女の謝罪と相まって嫌な想像がよぎる。

それでも僕は、貴族の暇つぶしで呼ばれたと理解し話を合わせた。


「本当にすまんな。どうしても呼んで欲しいと煩いヤツがいるんだ。」


彼女は事あるごとに苦い表情で謝罪した。

その表情はファラルドに少し似ているようにも思える。

僕は、深く謝る貴族に恐縮し、違和感を感じながらも同じ様に頭を下げる事しかできない。

しかし、その不思議な空気を一瞬で壊す声が部屋の外から聞こえてきた。


「ルーシアちゃーん! ・・・ッア、これは失礼しましたサンドラ異母姉(ねえ)さま。」


色々と可笑しな会話が飛び交い、僕は混乱した。

サンドラという女性は、ファラルドの話では彼の姉という事になる。

その事から王族であり、それを姉と呼ぶ奇女もまた王族。

思考は様々な負荷から遅くなる。

動かなくなった僕の体は、奇女に後ろから抱き付かれ、またしても吸われた。

正面のアレクサンドラは苦笑いだが、微笑ましく光景を眺めている。


「姉さま、ありがと。私が呼んでもルシアちゃん来てくれなくて。」


「お前もほどほどにしておけよ。本当にすまないなルシアくん。」


僕はファルネーゼに連れられ庭園に向かった。

門番の視線の意味をようやく理解したが、交わって欲しいのはこっちだ。

僕は、ファルネーゼズに囲まれながらお茶のお菓子にされながらも勝機を窺った。

諦めない事は時として希望を生む、時は来た。

僕の視界にはルーファスがライザを連れて庭園を横切る姿。

僕はルーファスに声をかける。

その言葉に一部の女性はルーファスに視線を送った。

僕は一瞬緩むファルネーゼに魔力をかけて彼女を恍惚な表情に変える。

その表情に慌てる女性陣の混乱に乗じ、僕はライザの後ろに駆け込んだ。


「ルシア、モテモテだねぇ。 そうだ、明日、家においでよ。」


急な要請だが、明日の安全は確保できた。

僕はライザの提案に了承し、急いでその場を離る。



城門から街へ延びる坂を下っていると、ミーシャの後ろ姿を見つけた。

僕は、ミーシャに声をかけ商店街へ足を向ける。

太陽は真上に昇り、商店街は賑やかだ。

僕達は露天の青年から鳥串を昼食にと購入。

街を臨む高台で、脚を遊ばせながら鳥串を頬張る。

ミーシャと過ごす時間は、師匠と過ごす時間の様に心地いい。

その後二人で、ライザ達へのお土産を探し夕方まで過ごした。


翌日、僕はライザ達の新居へお土産を持て向かった。

そこは、没落貴族の残した屋敷を改装した建物で時代を感じるが美しく荘厳な佇まいだ。

僕は使用人に声をかけお土産を渡し入り口で待つ。

屋敷の中からは、ガタガタとあわただしい音が響く。

そして、焦り顔をした使用人を引き連れたライザが扉から出てきた。


「いらっしゃい、ルシア。 さぁ中入って。」


彼女の背後からは、行動を窘める使用人の声が聞こえる。

彼女は気の無い返事でソレをあしらい、僕の手を引き中に迎え入れた。

館内はまだ引っ越しの最中で、数人の使用人たちが慌ただしくも静かに作業している。

僕は、場違い感を懐きながらも、引かれるまま館内を進んだ。

ライザは両開きの扉を開け放ち、応接室に僕を連れていくと適当な椅子に座らせた。

相変わらす強引だが、久しぶりの感覚に僕は笑顔になる。

正面の長椅子にライザが座り、その隣にはルーファスが既に座っていた。


「ルシア、急に悪いな。」


ルーファスは、僕を呼んだ理由を話し始めた。

最初は、他愛の無い話から始まり敗戦処理の話と続いていく。

そして、時間は昼になり、貴族にしては簡素だがしっかりとした料理が振る舞われた。

ルーファスは一息つき、話を本題に移す。


「ルシア、俺の領地で俺直属の騎士として働かないか?」


僕は、予想していなかった提案に驚いた。

提案は嬉しい話だが、その分悩みも多い。

領地の騎士になるという事は、民の為にその土地を守る必要がある。

それは、師匠の遺言を果たせなくなるのだ。

僕は眉を顰め腕を組み悩んだ。

ライザはソレを予想したかのように、一通の手紙を僕に手渡す。

その手紙は見覚えがあった。

師匠からライザに宛てられた手紙だ。

僕はその手紙を手に、師匠の文字を追う。

彼女の懐かしい文字を追い、内容をかみしめる度に頬を涙に濡らす。

師匠がライザに託したの物は手紙ではなく僕自身だった。

彼女はエルフだ。その為、多くの生き死にを見てきている。

だから、人とかかわらないように暮らしたり、酒を飲み思い出を忘れようとしていた。

彼女の文字で最後に"同じ時間を生きる者と幸せに暮らしてほしい"と。

俯き涙を流す僕をライザは優しく抱きしめた。

僕が落ち着くと、ライザはゆっくりと話し始めた。


「行方は分からないけど、師匠はルシアに幸せに生きてほしいって想ってるよ。」

「ルシアが嫌じゃなければ一緒に暮らそ?」


僕は涙を拭き、ライザの言葉を考える。

師匠の本心は、僕を手放す為だったかもしれない。

それでも僕の脳裏を彼女の言葉がよぎる。

"自分で考えて、色々試したら良いさ。"

僕は、ライザの瞳を見つめて自分の気持ちを伝えた。


「ライザ、僕は旅に出て世界を見るよ。」


ライザは、一瞬不機嫌な顔をしたが笑顔に戻った。

そして、僕の頭を撫で、いたずらな笑顔で告げる。


「またフラれちゃったね。 でもルシア、男らしくなったよ。」


僕は二人に礼を言い、二人の新居を後にした。

そして、僕はミーシャの屋敷へ向かった。


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