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5.日常と成長

朝起きると、昨日感じた視線が増えていることに気づいた。

確か1部屋10人のはずだが明らかに多い。着替え始めるとさらに増える。


「そんなにジロジロ見るなよ・・・」


眉を顰め睨みつけると大半はいなくなった。しかし奴がいた。領主だ。

明らかに男を見る表情ではない。こいつはロリコンか?それともゲイか?

彼が笑顔で近づいてくる。久しぶりに背筋が凍りついた。


「女性はこの棟じゃないよ、ルシアちゃん。 私が連れて行ってあげようね。」


「領主さま、僕は男ですよ。」


領主は昨日の様に凍り付いたが、解凍は思いのほか早い。

僕は、さらに冷たくあしらう。しかし領主は聞く耳を持たなかった。


「男です。」


「・・されん。騙されはしないぞ!」


領主は自分に言い聞かせるように、そして覇気を放ちながら叫び腕をつかんだ。

そして、部屋から連れだそうとしている。

いい加減めんどくさい。僕は魔力を少しずつ流し込む。

領主の顔は緩み恍惚な表情になる。覇気は完全に消えた。

そこから一気に魔力を込める。ついにボスを倒した。

取り巻きたちはほーぜんと立ち尽くす。

僕は、領主を廊下に押し出し、扉を閉めた。翌日から同じことが起きることは減った。


ダンジョン奴隷になり3か月が過ぎた。日々の繰り返しは力になる。

魔力感知で索敵をし、状況を伝える。

魔物に遭遇したら、ライザの前に陣取り彼女の盾となる。

戦闘が終わると、魔物の素材を剥ぎ取り回収。必要なら、ライザの魔力を回復。

そして、討伐対象を求め探索。

途中で魔鉱石や、鉱石、宝石を見つけると、小さいものはその場で採掘。

大きいものはマッピングして、帰りにこれを採掘する。

ココのダンジョンでは、大きい魔鉱石や宝石は、放置しても無くなること殆どない。

必要以上に体が重くなれば、それだけ動きが鈍くなる。それは戦闘に余裕がなくなり自殺行為になるからだ。

そんな日々の中、ダンジョンで休憩している時の事だった。ライザから魔力について面白い話を聞いた。


「ねぇルシア、魔力が減っていない人に魔力を譲渡すると、どうなるか知ってる?」


「恍惚になる?」


「フフッ、誰に教わったのそれ、お姉さんがちゃんと教えてあげる。」


ライザは、魔力を基本から教えてくれた。

魔力は全ての存在が持っていて、魔力が減っていくと、気力もそれに合わせて無くなる。

魔力が尽きてくると、精神状態は不安定になり、魔力が尽きた状態が長期的に続くと廃人になる。

逆に魔力が、その持ち主の最大量を超える状態が続くと気分が良くなる。

さらに魔力を与え続けると、人としてのタガが外れ、無意識に働く心理的防衛が壊れる。

その結果、一時的に自傷しても限界を超えた力が発揮できる。

この状態は、気分もよくなり、痛みを感じない。

しかし一時的な為、効果が切れると反動とそれまで蓄積された疲労や痛みが返ってくる。

さらに厄介なことに、中毒性が高く、常用すると精神が徐々に崩壊を起こし廃人になる。

魔術研究者の間ではこれをオーバードーズ状態といい、強力なメリットもあるがデメリットの方が大きい。


説明は続き、オーバードーズを引き起こすには2つの方法があるという。

1つ目はマナポーションを与える方法。

2つ目は魔力譲渡により魔力を与える方法。もちろん両者の併用は可能だ。

どの方法も前提として対象の最大魔力量が少ない者に限定されている。

ただ、どの方法においてもオーバードーズを使うぐらいなら、別の戦法を選んだ方が安全性も効率も良い。

その為、魔導士達のたわごととして伝わる技術になっているが、今は法王庁から禁忌とされ各国家の法により禁止されている。

後々知った話では、魔力操作は基本譲渡と索敵以外は廃れた技術でいまは使える人間はいないという。

不思議なことを聞いた気がした。現に朝は領主に時々使うし、これを教えてくれたアリシアも多用する。

不思議な顔をしていると。ライザはキョトンとした。

僕はその意味が分からず首をかしげると何故か撫でられた。

ライザはいつも色々なことを教えてくれた。

最初は真面目に話していた講義は、最後にはいつも冗談交じりになっていく。


ライザに指導が終わるころには、食欲をそそる匂いが辺りを包んでいた。

少し離れた場所で、討伐対象とは別の魔物を躊躇なく捌く男の姿があった。

ミランダだ。彼女は解体した魔物(可食)やその辺の植物(可食)を、熱した岩の上で焼く。

本人はとても楽しそうに作業を進める。その光景は料理人のソレだった。

この時間は、自分が奴隷である事すら忘れるほどに見入ってしまう。

いつもライザは肉の出所を気にしていた。

ミランダはライザの反応を、好き嫌いする子供をあやす様にあしらった。


「おまたせ、できたわよ。」


「おいしそー・・・だけど、人っぽいヤツ入ってないよね?」


「あんたがうるさいから、素材に余裕があれば入れないわよ!」


「よかった。ルシアもたべよ。ミランダありがとね、いただきまーす。」


「「いただきます。」」


「はい、めしあがれ。」


僕は食事の時間が好きだった。

笑い合い食事をする。

ただこれだけのことだが、僕は彼らに出会うまで、こんなに楽しい事だとは思わなかった。

僕はこの時間が、いつまでも続くことを望むようになっていた。

この日も依頼を達成し、いつもの通りにダンジョンを出て夜が過ぎていく。


ダンジョン生活も日を追うごとに環境が変わる。階層を1層下るごとに、生息する魔物も強力になった。

そうなると前衛を抜けてくる魔物も増えてくるものだ。

僕は盾を構え、魔物の注意を引き、ライザが安全に魔物の側面を取れるように動く。

最初は魔物の攻撃で吹き飛んだりもしていた。

ライザもそれを予想して、魔物を火炎の弾を飛ばし、魔物を狩る。

半年もすると、僕は吹き飛ばなくなり、少し余裕も出て、多少周りが見えるようになってくる。

ダンジョン奴隷を始めて1年が過きる頃、ライザの奇行が気になった。

彼女は入り口付近の壁に向かい、毎日フラフラになるまで火魔法を放ち魔力を空にしている。

彼女の瞳はまっすぐで、意味が無い事には思えなかった。

ライザに声をかけると、隣からルーファスが声をかけるなと言わんばかりだった。


「ライザ、いつも何してんの?」


「ルシア、やめとけ。アイツ、イライラしてんじゃねーのか。」

「触らぬ神になんとやらってやつだ。ほっとけ」


ルーファスは眉を顰め小声で僕を諭すが、ルーファスの声は通る。

正面の女性の表情は笑っているようだが、ルーファスの言葉の意味を簡単に知ることができた。


「聞こえてるわよ。ルーファス!!」


「まんまじゃねーか。」


「ルーファス・・・ぶつわよ。・・・ルシア、違うのよこれ。」


ライザはルーファスに対し、睨みつけるが、そこには怒りではなく、それとは違う感情が垣間見えた。

彼女は、ルーファスを一瞥すると、その表情のままコチラに視線を落とし会話を続ける。

ライザには逆らわない方がいいのだろう。

少し恐縮した表情でいると、彼女の表情は少しづつ優しいものに変わっていく。


「魔力っていうのはね、枯渇させてから、睡眠とかで自然回復すると最大量が増えるの。」

「属性も使い続けると魔力との相性っていうか、精度みたいなのが高くなるのよ。」

「でね、ダンジョンの外だと、奴隷の首輪の影響で魔法使えないでしょ。」

「だから入り口で魔力を吐き出すの。意外とスカッとするわよ。」


ライザは魔術の鍛錬だと教えてくれた。

ライザの講義のお陰で知識は増えているが、魔法能力は昔のままだ。

僕は、少し悩み、自分にもできないか相談する。

すると彼女も悩み始めた。そして彼女の顔は明るくなり手を叩く。


「それじゃあねぇ、背嚢の中みせて。」


背嚢の蓋を開け、ごそごそと探る。時々荷物が頭にぶつかり痛い時もあった。

彼女は鼻歌まじにソレを続けると、何かを取り出し、背嚢の蓋を無理やり閉め、上から数回はたく。

ガサツな光景に、後ろに控える2人の仲間は苦笑を浮かべる。


「これに、魔力譲渡してみて。私に魔力譲渡する感じで、魔鉱石にやれば簡単だよ。」


「うん、やってみる・・・・っう・・・」


「ルシア、だいじょうぶ!?」


実際やってみると、えらい勢いで魔力を奪われ、ヒュンとする感覚が襲う。

ライザは少し心配そうな顔をしたが、大丈夫だと分かると、イタズラな笑いを浮かべた。

少しの時間これを続得ると魔鉱石はひび割れ、粉々に砕け散った。

ライザは驚き口元に手を当てた。二人は何やってんだと苦笑いだった。


「えっ、ルシアの魔力ってどのくらいあるの?」


僕は魔鉱石を破壊したことを謝り、別の魔鉱石で調整しながら魔力を空にした。

僕はふと疑問に思った、領主に魔力譲渡をした際、奴隷の首輪は反応していない。

これについてはライザは知らないという。頭に浮かぶのはあの飲んだくれの長身女だ。

翌日から僕はダンジョンから出る前に、欠かさず魔鉱石に魔力を吸収させるようにした。


時が過ぎ日々の生活の中で、体が小さいなりにも、体力や力はそれなりにつき、動きにも余裕がでた。

そうなると視野が広がり、ルーファスやミランダが、どのように立ち回っているかも見えて来る。

結果として、前衛を抜けてきた魔物の対処も早くなり、より安全に戦闘をこなせるようになった。

安全に対処できた戦闘は小さなことでも3人から褒められた。そのため鍛錬へ向ける熱意も高くなる。


そんなある日、ルーファスが盾を使い、魔物の攻撃を捌く姿に目を奪われた。

僕は、盾の使い方をルーファスに相談した。

彼は前のめりに嬉しそうな表情で、相談に乗ってくれる。

そして快く講師をかってくれた。

ルーファスは、1対1の場合と、誰かを守る場合で何パターンか方法を教えてくれた。

どちらの場合でも、基本は相手の力を利用し体勢を崩す方法だ。

実際に、ルーファスやミランダと練習し、実践でも鍛錬を積んだ。

稽古を始めて1年も経つと、吹っ飛ぶ事も、ぶつかった衝撃で激しい音がすることもなくる。

盾で捌いた魔物は、ほとんど地面に転がせるようになった。

同じ要領で、領主を捌くことも簡単にできる様になるが、腐っても領主だ。

執事たちは行動は起こさないが、視線は良いものではなかった。

それはどちらへ向けての視線かは誰でも理解できる程だ。

彼らが愛想をつかし、領地から消えないことを祈るばかりだった。


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