表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/325

2(59).暗躍する毒牙

僕たちは、旧帝国領を回り終えて王都に戻る途中だ。

報告では廃村になっていたが、そこには人の生活があるように感じた。

そこは人の気配はあるが人は見当たらない不思議な静けさが漂う。

しかしその静けさは、女性の悲鳴で失われる。

僕は、胸が苦しくなり走り出していた。

綺麗とは言えない外壁の民家を何軒か越え悲鳴の元に辿り着く。

そこでは、冒険者の様な出で立ちの3人の男達が女性を取り囲む。

服が破れ肌が露出した女性は、恐怖に顔を歪ませていた。

僕は、正面の男をバスタードソードで切り伏せ、女性の正面に割って入る。

残る男たちの表情には恐怖は無く、むしろ獲物を得た獣の様だった。


「いいね、活きのいい女は好きだぜ。 これで2対2だ。数もちょうどいい。」


2人の体は、先ほど倒した男に比べて見上げる程大きい。

そして、片方の男は獣人だった。

僕はニヤつくヒューマン男性の懐には入り込み、盾の縁を天井に向け突き出し顎を砕く。

そして、あらわになっていた下半身に回転を乗せた横薙ぎを入れ男を沈めた。

血しぶきは辺りを染める。

犬獣人の表情は血に当てられ恍惚なものだ。

僕は、その表情に恐怖を感じ背筋を凍らせつつも盾を構える。

その瞬間、獣人の振りかぶった拳が僕を襲う。

僕は、加速する獣人の拳にあわせることができない。

間一髪盾で防御するも、そのまま飛ばされ、壁を突き破り外へ出た。

そこにファラルドたちが駆け付けてた。

光景を目にした2人の女性から悲鳴があがる。

一方、レドラムは僕と獣人の間に割って入り獣人の正面に立つ。


「貴様がルシア殿にした仕打ち。死して悔め!」


彼のハーバルドは一撃のもと獣人を切り捨てる。

そして彼は、僕に生暖かい視線を向け傷を気遣った。

僕はレドラムの言動に違和感を感じたが、彼の背中にはルーファスを感じた。

家屋を破壊した音で、周りから野盗の様な冒険者が湧いてくる。

村は野盗で溢れていた。

僕たちは、背後を注意しながら、野盗を捕縛していく。

どの野盗も先ほどの3人に比べ大したことは無く、僕たちは怪我をすることも無かった。

野盗を制圧し終える頃には、隠れていた村人も礼を言いつつ顔を出す。

村人は助かったとはいえ、みんな何処となく暗い。

既に日は落ち、町へ向かう時間も無い為、村の空き屋で一泊することになった。

襲われていた女性は、衣服を整え僕たちに食事を振る舞う。

食事が終わるとファラルドは女性に村の近況を訪ねた。

彼女は頷き、近隣の村や町の状況を分かる範囲で語る。

それを聞くファラルドは辛い表情だ。

彼はこの旅でいつもの軽い雰囲気は一切表さなかった。

暖炉の炎はその陰影で彼の表情をよりつらく見せる。



その夜、僕は背後にいやな空気を感じた。

今、外で見張りをしているのはファラルドとファルネーゼのはず。

ファルネーゼは外にいる、そして正面にはミーシャだ。

僕は昼間の違和感を確信に変えた。

しかし、背後を振り向く勇気はない。

僕の背後には、もう一人の仲間が寝ているはずだ。

しかしそこには、ファルネーゼの様な雰囲気は一切ない。

僕は静かに起き上がり、何食わぬ顔で長椅子に座り水を飲む。

小さく燃える暖炉の音だけが包む空間を、隠す様子も無く足音だけが静かに近づく。

軋む床の音は僕の鼓動を早くさせる。

僕は、コップを持つ手が震えている事に気が付いた。

影が僕を覆うも視線を上げることができない。

大きな影は迷うことなく隣に座る。

それでも、子供一人分の空間が開いていた。

ファルネーゼなら絶対に開けたりはしない。

僕は勘違いだったのかと、隣の男を見上げた。

彼はさわやかな笑顔で、空いた空間を軽く叩く。

そして、不快を与えないように注意しつつ話し始めた。


「俺にはね。兄がいたんだ。兄は・・そう、悪食なんだ。」


僕には彼が何を言っているか分からなかった。

暖炉の火が時々爆ぜ、時間が過ぎていく事がわかる。

彼の話す話は捉えどころがなく着地点がわからなかった。

視線は、常に前を向いている。

そして、彼はこちらを見つめ僕に告げた。


「でも、俺は違う。 俺は君の様な女の子が好きなんだ。」


背筋を寒気が走る。それは勘違いではなかったことを告げたのだ。

僕の中で全てがつながった。

町でうつろだった女児への表情、野盗に対する発言。

そして、背後から絡みつくような視線。

偶然が重なり、必然に変わった。

僕は愛想笑いでその場を後にし、彼とは別の部屋へ向かう。

両開きの扉を開け、追いつかれないようにすぐに閉じる。

しかし、ぎりぎりで間に合わなかった。

彼は絞まる扉をその腕力で止め、そして強引に顔をねじ込んでくる。

そして部屋の中を探す様に見回しながら言葉を呟く。


「子豚ちゃん、入れてくれ。」


レドラムの笑顔が扉に挟まれて尚、こちらに圧力を加える。

僕は恐怖の余り半泣きで叫んだ。


「僕は男だ!」


レドラムは一瞬止まるが、それを否定するようにその腕に力を籠める。

必死で扉を抑えるが、次第に扉は開き始める様に思えた。

その時、彼の頭部にファラルドの槍の柄が直撃する。

絶望の根源は沈んだ。

しかし、それに代わり女性の顔が、レドラムと同じ様に隙間から現れた。


「ルーシーアーちゃーん!」


僕は、この連鎖する衝撃に思考が停止していた。

一連の事件を回避する手段は、ミーシャの元へ向かことだった。

ファラルドは、苦笑いで哀憫な視線を僕に向けるばかりだ。

扉を解き放ち、ファルネーゼは抱きしめてくる。

その時の彼女は少し酒臭かった。

抱きしめられたまま時間は過ぎる。

その間、僕はファラルドを呪い続けた。

少し経つとミーシャがあくびをしながら惨劇の現場に足を踏み入れた。

彼女は、器用に毛繕いをしながら挨拶をする。


「おはようございます・・・んッ、みんな集まってどうしたの?」


僕は彼女の声に癒された。

僕はミーシャと共に焚火を見つめ朝を待つ。

夜が明けると村の女性が朝食を作り始めた。

レドラムは何食わぬ顔でこの場にいる。

恐る恐る挨拶をすると、彼は礼儀良く返してくる。

僕は村の女性を間に挟み料理の手伝いをした。

レドラムに昨晩の様な表情は無い。

今の彼は王都で最初にあった時と変わらない武人然としている。

僕は、昨晩の彼は夢だったのではと彼に視線を送っても、あの爽やかな笑顔は帰ってこなかった。

僕は恐る恐る彼に昨晩の話をする。

すると彼は唇をかみ深く頭を下げた。

彼は、夜になると頭の中に声が響き、感情の制御出来なくなるのだという。

レドラムは、もう一度頭を下げ部屋を出ていった。

僕は村の女性に料理を任せ彼を追うも、ファルネーゼがそれを止め事情を話す。

ファラルドは彼の事情を知っていた。

今回の旅は彼の治療も兼ねていたのだという。

僕は彼の去り際の寂し気な表情が心に残った。

食事の後、5人で話してみたが、レドラムにあの時の異常さはない。

ファラルドは、彼が戦争のストレスで変わってしまったと語った。

彼も戦争の被害者なのだ。

小一時間話した後、ファラルドはレドラムに条件を付けて同行を許可した。

僕たちは気持ちを切り替え、村人の話を聞いて回る。

村人は、とある貴族をどうにかしてほしいと懇願した。

僕たちは貴族の館を目指し、村を後にする。



貴族の館がある街は領主も彼らの肩を持ち荒んでいた。

そこは僕の故郷の村と同じ状態だったのだ。

貴族は高利で金を貸し、払えなければ奴隷にする。

悪どく見えるが、借りる側に高利であることは伝えているうえ、証書も偽造ではない。

戦争で生活に困る人々を、この貴族は食い物にしているのだ。

僕たちは不正を見つける為、貴族の屋敷に潜入することにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ