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30(57).祝福

翌日ライザは退院した。

そのことを知った知人たちは、彼女の家を尋ね彼女の退院を祝う。

ライザが退院して3か月後、ルーファスは、正式に子爵となり家名ワイズマンを賜った。

そして、子爵となったルーファス・ワイズマンは一人の宮廷魔術師と婚姻し式を挙げる。

その日は空も青く澄み渡り、心地いい風か頬を撫でる日だった。

式は王宮の大聖堂で行われた。

これは異例の事だが、ライザの功勲に対する褒賞だそうだ。

彼女はルーファスに嫁ぐ為、彼女に叙勲されるはずの爵位をアレクサンドラに相談した。

そして上手いこと式の場所を借りたのだという。

こういう時の女性はしたたかだ。

アレクサンドラも快くこれを請け王族を説得したようだった。

その為か、かなり大きな式となり様々な貴族が列席。

僕の様な一般市民の場違い感は異常この上なかった。

そんな中、式は始まる。

拍手と共に二人は身廊を内陣に向かい一歩づつ進む。

そこには、いつものルーファスと、顔を赤く染め少し俯き、彼の服の裾を掴むライザの姿がある。

ライザの姿は、左右に違和感の無い魔法義手をつけているが、それを忘れる程美しい花嫁姿だった。

二人は司祭の前まで進み、神への誓いを行った。

その中で二人は、お互いを伴侶とし生きることを誓う。

ぼくは遠目にミランダとソレを眺めた。

その光景にミランダの表情はうっとりとしている。

僕はミランダにも同じように幸せになって欲しいと思っているた。

それは僕にとってミランダは大切な家族だからだ。

ルーファスとライザが結婚したことは本当に嬉しかった。

式も進み大聖堂から出て別の広間で立食パーティーになった。

新郎新婦の二人は、彼らを祝う者たちの元を周りお礼を述べていた。

そして、二人が僕たちを見つけ、笑顔でこちらに来る。

久しぶりのライザの笑顔に僕はホッとした。


「ルーファス、ライザ、おめでとう。」

「ライザすごくきれいだよ。なんか女神様みたいだよ。」


「うんうん、ありがとね。ルシア。」

「それでね、師匠も呼びたかったんだけど見つからなかったの。ルシアごめんね。」


ライザは、自分の晴れ舞台なのに僕や師匠の事も考えてくれていた。

そもそも、僕の師匠への感情をどこで察したのだろうか。やはり、ライザには頭が上がらない。

僕は、師匠を探してくれた彼女の心遣いが嬉しかったが、それでも心が苦しくなる。

しかし、暗い表情をしては、彼女たちに悪い。

その為僕は、彼女たちに心配させないためにもファラルドを見習った。


「今日はライザ達が主役なんだから、あやまらないで。ライザは笑顔がいいよ。」


ライザは、少し照れながらも、ルーファスの方を振り返り、ジトッとした目で諫めた。

やはりライザは、こうでないとしっくりこない。


「もう、誰に習ったのよそんな言葉! ・・・ルーファス、アンタでしょ。」


「俺じゃねえよ。たぶんファラルドかミランダだろ。」

「ルシア、少し堅苦しいかもしんねえけど、楽しんで行けよ。」


二人のやり取りは、僕の落ち込む心を和ませた。

そこには、もうあの時のルーファスはいない。

彼は、これからの未来に向けて歩き出していた。

ライザも、少しぎこちない動きの腕と共にルーファスを支えていくのだろう。

いや、手綱はライザが握っていくはずだ。

新郎新婦は来賓者たちの中に消えていった。

僕はミランダとソレを見送り会場を散策する。

会場には様々な貴族が招待されていた。

ミランダ情報では王都にいる貴族はほぼ出席しているという。

僕の服装はライザが用意してくれた。

しかし、立ち振る舞いは農民でしかないが、その点ミランダはこなれている。

ミランダはライザの上司を見つけ彼の元に向かう。

僕は、彼女の表情からそれについて行くのは野暮だと判断し一人で回ることにした。



庭園の出ると、そこには見覚えのある女性が佇んでいる。

彼女の耳をたたみ尻尾は垂れ下がっていた。

僕はそんな貴族の女性に声をかける。


「ミーシャ様、ご機嫌麗しゅうございますか?」


僕は貴族令嬢に対し、場に合わせた挨拶をしてみが、少し違ったようだ。

この辺はライザとミランダに、式にあわせて叩きこまれた教養の一つだったのだが付け焼刃は良くない。

しかし、彼女の浮かなかった表情は笑顔に変わっていた。


「フフッ、ごきげんよう、ルシア様」

「フフフッ、なにそれ、らしくないね。」


彼女は、長男の代わりに出席したという。

王国は帝国程ではないが、ヒューマン至上主義が幅を利かせる国だ。

それだけに、彼女はそれを信仰する貴族達から良い目で見られないらしい。

そのため場の空気を悪くさせないようにと会場の端にいたのだ。

そんな彼女だが、僕が何故この会場にいるのか疑問に思ったようだった。

それについて、新郎新婦の友人だと知ると納得する。

彼女と会話をするにつれ、そのの表情も柔らかなものになり、耳も尻尾もいつも通りになった。

会場では優雅な音楽が流れ、中央でダンスを踊る姿が見られ始めた。

その中心で踊るライザとルーファスの姿は、衣装も手伝い幻想的だ。

遠目にそれを見るミーシャは、先ほどのミランダの様にうっとりしている。

そして尻尾が左右に揺れて、なにかそわそわしていた。

僕は彼女の前に両足をそろえて立ち一礼する。

僕は、ミランダに教わった通りに彼女を誘った。


「お嬢様、一曲いかがですか?」


ミーシャは、少し顔を赤らめ、恥ずかしそうに手を取った。

僕達は夜空の下で、遠くに聞こえる演奏に合わせ踊る。

僕のリードが下手なだけだろうが、お互い少しぎこちない。

それでも、彼女の白い被毛は月の光と室内から漏れる光で、きらきらとして美しい。

室内のダンスが終わると、僕たちのダンスも終わった。

彼女は嬉しそうな表情で令嬢然としたお礼をする。

やはり、貴族なのだと実感するところであった。

式はつつがなく進み、ライザ達二人は皆から祝福され幕を閉じる。

それは、まるで一枚の絵画のように美しく、そして幸せに満ちたな光景だった。

師匠の事をライザが探してくれたことは嬉しかった。

しかし、国の力を利用しても見つからないということは、そういうことなのだろう。

母の言葉"期待すると自分が傷つく"は僕の心をかき乱した。

真意はわからないが、僕にはもう質問する相手はいない。

ただ、ライザたちやミーシャの笑顔は僕の大切な宝だ。

昔の様に失いたくはない。

月は以前より少し低く、風は温かいくなっている。

城から見える無数の煌めきは、空との境を失わせた。


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