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至らせ剣士は魔法使いの男の娘 -酔いどれエルフの謡う詩-  作者: 齋藤ミコト
第二詩節 ~ 戦火の絆 ~ 
56/325

29(56).ライザの想い

僕が王都に戻り数日が経ったある日。

ルーファスは医局から呼び出されていた。

ルーファスは、軍部の執務室から走るように医局棟を目指す。

その石畳を駆ける彼の横顔には不安しかない。

しかし、医局受付でその表情は一転、安堵へと変わった。


「ルーファス様、ライザ様の意識が戻りましたよ。 早く、ライザ様の元へ。」


ルーファスは気が付いていないが、彼の瞳には涙が溢れていた。

廊下を走る事を医局員に諫められるも、その響く足音は変わらない。

彼は、部屋の前で息を整え、大小の包みを持ちライザの部屋に入った。

彼の目の前には、外を見つめる女性の姿が映る。


「ライザ・・・良かった。」


彼は涙を拭うも止まらない。

それは戦争が終わってから初めて安らぎを感じていたからだ。

ルーファスはライザの元に駆け寄り、力ずよく抱きしめる。

抱きしめられる女性も同じ様に涙を浮かべるが、何故か瞳に深い悲しみを湛えていた。


「ルーファス。 ありがと。 心配かけちゃったね。」


ルーファスは、抱きしめたまま、彼女に貴族になったことを伝えた。

しかし、ライザの表情はどこか浮かない。

彼女は優しい表情をとるが、流れる涙はそれによるものではなかった。

ライザは彼の腕を優しく解くと床を見つめて彼に告げた。


「ルーファス、私・・・あなたのそばに居られないよ。」


ルーファスには、ライザの気持ちが理解できなかった。

彼はライザの両肩を掴み、感情的にその意味を問いただす。


「なんでなんだよ!どうしたんだ、ライザ。」


ライザは、ルーファスの顔を直視することができない。

それは自分の感情を抑えられるとは思っていないからだ。

だから彼女は俯き、流れ続ける涙を手で拭いながら答える事しかできなかった。

その答えが自分が望むモノではなくても、それが彼の幸せに繋がると信じていたからだ。


「だって、私なんて貴族のあなたに似合わないもの・・・」


ルーファスの脳裏に、幼少からのライザとの思い出が走馬灯のように巡る。

彼は、ライザを諭すように自分の想いをもう一度伝えた。


「何言ってんだ。俺は・・俺はお前が好きなんだよ。」

「あの夜だって一緒に幸せになろうって言ったじゃねか! 俺のことキライになったのかよ。」


ライザは、ルーファスの顔を直視し、感情のままに彼を怒鳴りつける。

その表情は、悲しみしかなかった。


「私だって、ルーファス好きだよ!でも、きっと周りの貴族から馬鹿にされるよ・・・」


ルーファスはライザの言葉を理解したが、同時に本心も理解していた。

ここで感情のままに怒鳴り合っても、彼女の気持ちが変わらないことも理解している。

彼は自分の顔を拭い、彼女の意識がなかった時の気持ちを優しく伝えることにした。


「周りなんて、どうだっていいだろ。 俺はお前が居なきゃダメなんだよ。」


ライザは、俯き咽び泣くしかできない。

ルーファスは、少し落ちついた彼女の目の前に小さな小箱を差し出した。


「・・・だから、受け取ってくれよ。」

「お前の為に作ったんだ。 お前の好きな色の石使った指輪だ。」


ライザは顔を横に振る。そして、悲しいそうな笑顔で涙を流しながらルーファスを諭す。


「ルーファス・・・無理だよ。だって、私・・・」


ライザの視線の先には、ある筈の腕が失われていた。

貴族たちは見た目や面子を重視する者が多い。

特にヒューマン至上主義の国ではそれが顕著だ。

だから、片腕を失った者など軽視され、それを妻にする者もそう見られる。

彼女はルーファスが頑張っていることを知っていたし、幸せになって欲しいと願いいている。

自分が彼の横に居ることで、彼の評価を下げるようなことはしたくなかった。

彼女は感情的にはなりたくなかったが、どうしてもなってしまう。


「だって、指輪・・・ハメられないよ。」

「私、腕無いんだよ!! ルーファスに迷惑かけたくないよ。」


ライザは、ルーファスを見つめた。

その表情は気丈に振る舞う笑顔だが、頬を涙が濡らしている。

ルーファスは彼女の表情に胸を痛めた。

しかし、それ以上に彼女をそうさせている自分が情けなく感じている。

それでも、彼はもう誰も失いたくないと言葉を続けた。


「迷惑なわけないだろ。」


「ルーファスは分からなんッ・・んん」


ルーファスは自らの口で強引に言葉を遮った。

これ以上言い合っても平行線だと感じたからだ。

彼は言葉で彼女を言いくるめることは無理だと分かっている。

それならと、自分の気持ちを行動で伝えるしかなかった。

そのまま彼はライザを抱きしめる。

そして優しく気持ちを伝えた。


「知らねえよ、そんなもん。」

「指輪だって右手にハメれるだろ。 お前は俺と一緒に幸せになるんだろ。」


「だって・・・」


ライザはルーファスの胸を涙で濡らしながら強く抱きしめ返す。

そこには、あの夜の二人がいた。


「もう泣くなよ。」


ライザの顔からは涙が消えている。

表情にも悲しみはなく、むしろ、恥ずかしそうにしていた。

ルーファスはライザの頭を優しく撫で、彼女の想いを強くかみしめている。

部屋の外では入るタイミングを逃した二人。

背の高い女性はニヤニヤしながらもう一人を促す。


「ルシアちゃん帰るわよ、野暮なオトコは嫌われちゃうからね。」


二人の足音は静かに階段へ消えていった。


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