25(52).思慕と恋慕
僕達は、10日山を歩いた。
11日目の昼に森を抜け懐かしいあの空間に辿り着く。
僕はその空間では戸惑いを隠せない。
そんな僕にミーシャは声をかけた。
「ルシア、どうしたの。」
「ミーシャ、ここはね。僕が5年間、師匠と過ごした場所なんだ・・・少し休んでいこう。」
僕はきっと暗い顔で俯いていたのだろう。
ミーシャはそんな僕の姿に心配していた。
僕は、庵の扉を開け、中に入る。
中はあの時のまま、あの惨劇のままだ。
僕はこの惨劇を目の当たりにすると心が痛む。
ミーシャは僕の表情を察して、僕に食料探しを頼んだ。
「わたし、片付けるね。ルシアは食べ物探してきて。」
僕はミーシャの優しさに救われた気がした。
部屋の空気は重いが、それぞれが無言で作業するしかなかない。
僕は倉庫へ向かいあの釣り竿で魚を取りに出かけた。
そして慣れ親しんだ台所で食材を調理する。
庵は食欲をそそる匂いで包まれた。
しかし、師匠が部屋から出てくるのでは無い。
僕は、広間まで夕食を机に運び、ミーシャと二人で食べ始めた。
それでも、空気はやはり重い。それは僕が原因だろう。
頭を切り替えようと口を開くが、無意識に師匠の話がでてきてしまう。
「ミーシャ、師匠はすごい人だったんだよ。」
「僕に、魔法の使い方や剣術、魚の取り方や鹿の取り方とかね。生きる方法を教えてくれたんだ。」
「師匠はすごく色んな事知ってるし、強いし、凄く美人なんだ。」
「・・・いつも、朝は起きないし、ボサボサでガサツで、大切なことは自分で考えろって言うし。」
「・・・でも、いつも笑顔で優しく笑ってくれた。・・・笑って・・くれたんだよ。」
僕は胸が痛くなり言葉が出なくなった。
そして気が付くと、頬を涙が伝わっている。
ミーシャはそんな僕を強く抱きしめてくれた。
「ルシア、大丈夫だよ。 ルシアは師匠が大好きなんだね。」
ミーシャの一言で堰を切った様に涙が溢れ出す。
ミーシャはあの時僕がした様に抱きしめた。
僕が泣き止むとミーシャは席を立つ。
「ルシア、お茶入れてくるね。」
ミーシャの気遣いが嬉しかったし、恥ずかしくもあった。
そして彼女の入れたお茶は、温かく心から安らいだ。
お茶を飲み、落ち着くとミーシャは質問を投げた。
「ルシア、もしかして、あの白銀の竜に乗ってた相手って、ルシアの師匠に何かしたやつなの?」
僕はあいつのことを考えると眉間に皺がよる。
ミーシャは、やってしまったといわんばかりに体をこわばらせた。
ぼくは、できる限り優しい表情で彼女に答えた。
「あいつは、生きてちゃいけない奴だよ・・・師匠とは関係ないけど、あいつは許せない。」
「母を捨て、僕から全てを奪った男だよ・・・」
ミーシャは、俯き僕に謝る。
彼女は耳をたたんで尻尾もぐったりしていた。
「ごめん、変なこと聞いちゃった・・・私。ごめんなさい、ルシア。」
僕はミーシャに謝らせてしまった事に嫌悪した。
そして空気を換えようと師匠からもらった課題を話した。
「僕もごめん。 ミーシャに嫌な思いさせちゃったね。ごめん。」
「僕はアイツを許せない。だけど今は、師匠との約束を守りたい。」
「師匠に言われた通り世界を見たいんだ。」
「僕は、傭兵団だからたぶん解散だし、もし騎士団へ入団ができても軍には入らないと思う。」
「ミーシャはどうするの?」
ミーシャは耳を立て僕を見ながら自分の考えを伝える。
「私は、小兄ちゃんを家に帰してあげたい・・・一緒に帰りたい。」
「だがら、軍を抜けると思う。もう戦争なんて嫌。」
僕は、ミーシャの決意を聞いて少しほっとしている。
ただ、このまま離れ離れになるのも嫌だった。
師匠への感情とは違うが、もちろんルーファスに対するそれとも違う。
それはまだ、ライザやミランダに対する感情に似ている。
僕は無意識に彼女に同行を求めていた。
「もし、よかったらミーシャの街まで一緒に行ってもいいかな?」
口から出てしまった後に、断られてしまったらと頭をよぎりった。
そして僕の鼓動は早くなっていく。
彼女の沈黙は、僕には長い時間に感じる一瞬だった。
「うん。一緒に行こ!」
彼女の笑顔は、僕に元気を与える。
僕たちは未来の旅を語り合い時間は過ぎた。
そして夜も更け、湖畔は静寂に包まれていく。




