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23(50).不穏な動き

城の地下牢では風切り音と一拍遅れうめき声が響く。

そこでは、ファラルドが城に残った文官に口汚く尋問する姿があった。

それをアレキサンドラは止めるでもなく、淡々と精神を追い込んでいくように合の手を入れる。


「回復薬の数は限度があるが、無くなっても続けるがな。」


鞭うたれる帝国の文官は、かたくなに口を開こうとしない。

鞭うつ音の中、地下牢への階段を安定しない足音がゆっくり下ってくる。

その音の主は、座った目を血走らせ、酒の勢いのままその輪の中に入っていく。


「なんじゃ、こげんのは(こういうのは)スバッとやった方がしゃべっじゃろ!」

けしんだや(死んだら)まだいっど(もう一度)新しか奴を連れてくればよか! ハハハハハッ。」


その影に帝国の文官は恐怖した。

理解できない言葉が魔法詠唱に聞こえ、挙句見た目は悪魔でしかない。


「何だこいつは、近づけないでくれ!」

「私の知ることは全て話すから、どうかこいつだけは近づけないでくれ!!」


アレクサンドリアは事の進み具合に笑いがこみ上げてきた。

かたくなに口を開かなかった者が一瞬でこれだ。

彼女は表情を戻し、文官を改めて尋問する。


「っフフ、鬼は効くな。」

「では、貴様に問う。今回の魔窟暴走に関わる事柄を全て話せ。」


帝国の文官は恐怖で表情をこわばらせつつも語り始めた。

この度の戦争における魔物関連の全ての責任者はリューゲと呼ばれる騎士だという。

このリューゲは5年前に帝都に現れ、王や貴族に取り入り、今の立場をてにいれた。

そして、王は男の言動に賛同し、称賛を贈る。

さらには、政ですら、家臣達よりもリューゲの発言を採用した。

1年前の王国王妃の問題も、このリューゲが先導していたというのだ。

しかし、魔窟暴走については彼も憶測はあれど確証はないという。

判ることは、2日前からリューゲは魔生洞窟に姿を隠した事だけだ。

その話を聞いていた呀慶は、アレキサンドラに了承を取り文官へ質問する。


「この城に魔物封じや、それに関係する宝物はあるのか?」


重臣は、この城には2つ存在したことを伝えた。

1つはこの帝国が建国した翌年に紛失したと伝わっていると話した。

そして残る1つは封印の間に保管されているという。

封印の間は、この王城の地下にあり、入室には王家の血筋の者いなければ入れないことを伝えた。

呀慶は眉を顰め腕を組んだ。

彼は、アレキサンドラから戦争の終結と簡単な状況を聞いている。

それは、皇帝は死に帝都にはその血筋はもういないことを理解させた。

そして王国王妃、その血を引く手あろう王国第三王子も行方は不明だ。

ファラルドはため息をついた。

しかし、アレクサンドラはそんなことかと鼻で笑い飛ばす。

呀慶は文官から欲しい情報を聞き出し、命乞いする文官を一瞥した。


「そうか、わかった。」

「アレキサンドラ殿。こいつにはもう用はない。殺しても構わないぞ。」


アレキサンドラは、絶望する文官を横目に呀慶の行動に苦笑した。

そしてファラルドに文官を頼む。


「貴殿は、真面目な顔でそれを言うのだな。」

「ファラルド、こいつに回復薬を与え、牢に放り込んでおけ。」


ファラルドは承諾し、文官に回復薬を与え牢へ連れて行った。

暫くして牢獄の扉が閉まり、鍵が掛かる音が地下室に響き渡る。

呀慶はアレキサンドラに帝国の血筋で知り合いがいないか確認を取った。

アレキサンドラは特に考え込むでもなく気楽に答える。


「あぁ、たぶん大丈夫だ。帝国と王国は元をたどれば同じ国だ。」

「我が王国の血筋でも扉は開くだろう。ダメならまた考えればいい。」


呀慶はアレキサンドリアの答えが的を得ていないように感じ質問を投げた。


「して、王族様へのご依頼なのだが、いかがなものか?」


アレキサンドラは、眉を顰め若干上目使いの呀慶に、狩を共にする猟犬にも似た愛嬌を感じた。

しかし、あまり弄っても悪いと感じ彼の求める答えを返す。


「私がいるだろ。私は第二王女、ラトゥール王国当主の娘だ。」


淡々と出自を語られ、困惑する狼人族。

そして事に気が付き、すぐさま平伏する。

その光景を予想していたであろうアレクサンドラは含み笑いを浮かべた。


「礼儀を掻き、誠に申し訳ない。」

「知らぬとは言え、王家の者にこのような振舞、平にご容赦ください。」


酔っ払った鬼は、平伏する狼を軽く足蹴りしつつ声を投げる。

その背中からは殺意も感じた。


なよしちょっんだ(なにをしているんだよ)犬、しいぼ(尻尾)までたたんで?」


アレキサンドラはさすがに耐え切れず声を上げて笑った。

そして、ファラルドもその光景に頭を掻きながら苦笑いしている。


「ハハハッ、気にするな、私には大した権利はないよ。」

「それでは行こうか。お犬様。」


「ガハハハッ、お犬様じゃと。」


呀慶は酔っぱらいに牙をむいて怒るが、酔っぱらいを見ていると自分が馬鹿らしく感じた。

一行は、謁見の間から隠し階段を降り封印の間をを目指す。

城下の賑わいとは裏腹に場内は静まり返り、足音だけが響き渡っていた。

長いらせん階段を下ると、そこには仰々しい両開きの門が控える。

アレクサンドラはその血を以って扉を開いたが、目の前の光景をを疑った。

そこには何かを納めていたであろう台座が1つあるだけだ。

4人は台座のもとに向かうが、やはり何も変わることは無かった。

呀慶は言葉を選びつつ状況を整理した。


「何もないだと・・・」

「何があったにしろ、皇帝とリューゲという男が関わっていることは間違いないだろ。」


「呀慶殿、あなた方が懸念することは何なのだ?」


アレクサンドラは呀慶の顔を見つめ答えを待つ。

少し間を置き、呀慶は誠実に彼女の瞳を見つめ答えを返した。


「姫君よ。ここの魔物封じが、何を封じていたのかは分かりかねます。」

「しかし使い方によっては、魔力だまりを増幅し、空間を広げ黄泉につなげると聞きます。」

「この度、私どもは崑崙(こんろん)蓬莱(ほうらい)の両帝に命を受け西諸国を調査しておりました。」

「我が帝からは、"祭儀で不吉な相が現れた為、西に不穏な動きがないか"と。」


アレキサンドラたちは封印の間を後にした。

薄暗いらせん階段を上がりながら、西方の調査内容と今回の出来事を照らし合わせていく。

アレキサンドラと呀慶は、今回の戦争がその"不吉な相"そのものではないと考えた。

そして、特殊な魔窟暴走も戦争の一部であると予想している。

この二つは、同じモノの様で別モノである。

しかし、両事象の重なりに1人の存在が浮かび上がった。

二人は顔を見合わせるも、安易には断定ができない。

それは、一人の人間が他国の王たちを動かす程かということだ。

それこそ怪しいく、たわごとにしか聞こえなかった。

この4人という小さな輪で論じても情報も考えも大して得られない。

アレキサンドラは、確定情報だけを王都に持ち帰ることにした。

そして、呀慶に視線を送り声をかける。


「私たちは、明日には帝都を立つ。君たちも来るか、魔獣討伐は立派な功勲だがどうだろう?」


「いえ、私たちは報告があります故、このまま都に戻ります。」


アレキサンドラは、助けられた相手に恩を返せないことに貴族として歯痒さを感じた。

自らの腰の袋に手を突っ込み金貨を数える。

しかし、あの氷竜討伐には見合わないが無い袖は振れなかった。


「そうか・・・う~ん。私の手持ちでは金貨20枚が限度だ。」

「すまん、軍お金は勝手には動かせないのだ・・・これでいいか?」


「姫君よ。十分にごさいます。」


「そうか、ありがとう。では、一緒に飲もう。」

「足りないが、功勲の代わりだ。祝勝を楽しんでいってくれ。」


アレクサンドラたちは、帝都広場で行われていた祝勝会にまざる。

彼らは、この戦争に参加した全ての者を称え、死んでいった者の分も幸せをかみしめ騒ぎあかした。

星空は晴れ渡り、月明かりがまぶしく輝く。

それは、勝利した兵士たちを祝う様に感じられる程だった。


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