22(49).様々な想い
ファラルドはアレキサンドラをつれ、呀慶達の元へ戻った。
彼女は二人の異国の民に感謝し、自身の名前を名乗る。
「私は王国軍騎士団第ニ中隊長のアレキサンドラ・フュルスト・ラトゥールだ。
「この軍の総指揮をとっている。」
異国の民2人は、彼女に名を名乗り、その目的を伝えた。
彼らは帝の命で西方の調査をしているという。
帝とは蓬莱という国を治める王の名称だそうだ。
二人の内、白狼の獣人は呀慶といい、呪禁道士だという。
呪禁道は、精霊魔法に近いが魔術体系が違うそうだ。
残る1人は驍宗といい、魔鬼族という種族で鍛冶師だという。
呀慶はアレキサンドラに氷竜戦に参加した旨を伝え、何故氷竜が出現したか質問した。
しかし、アレキサンドラたちは、この状況はつかめていない。
彼女は眉を顰め腕を組み悩む。
思い当たる節は、原因が帝国関係者ではないかというぐらいだった。
アレキサンドラは、その事を時系列で彼らに伝えた。
その中で、アレキサンドラは氷竜の周りにワイバーンが現れた時のことを思い出す。
そして考えをまとめる様に俯き呟く。
「そういえば、竜の上に赤い影があった様だがどうだろうか。」
「しかしまあ、考えても無駄だろう。捕虜にでも聞きに行くか。」
アレキサンドラは、顔を上げ呀慶達へ提案する。
その表情は真面目だがどこか闇があった。
「貴殿らも同行すればいい、情報が得られるかもしれないぞ。」
アレキサンドラは2人の異国の民を連れ帝都に戻った。
空を覆う闇は晴れ、吹雪いていた雪も止み、太陽が顔を出している。
兵士たちは、悪夢から解放され祝勝ムードになっていた。
彼らは、驍宗達に感謝をし食事を勧めている。
それは彼らが大山脈を抜け西方に来てから珍しい事だ。
その為、呀慶達は自分達に接する王国兵達の物腰に好意を抱きその意を伝えた。
「西側は亜人に当たりが強いと聞いたが、そうでもないようだな。」
「食事か、そやいいな。酒はなかとか?」
「驍宗、仕事だぞ。場を考えろ!」
驍宗と呀慶の言い合いにアレクサンドラたちは笑顔がこぼれた。
しかし、消滅した魔生洞窟と、あの氷竜のことが頭から離れない。
アレクサンドラは伝令を呼び、各部隊への指示を伝えた。
「伝令、各隊に死傷者の回収と帰還準備命令、それと魔物の解体作業を急がせろ。」
「各隊の作業が終わり次第祝盃だ。」
「私は東方の者たちと捕虜の取り調べに向かう。」
アレクサンドラは伝令に残りの作業を伝え、各隊に作業を振った。
街の外に横たわる氷竜は騎士たちにより迅速に解体さていく。
その周辺を覆う魔力溜まりも法術団が掃う。
その他の隊は王都への帰還準備を行い始めた。
空には美しい月が昇り、彼らを祝福するかのように穏やかだった。
ようやく戦争は終わったのだ。
帝都にある倉庫街では、あわただしく石畳を駆ける足音が、建物の前で止まり扉を叩く。
「ルーファス様はコチラに?」
ルーファスは、不安そうな表情で辺りを見回す女性兵に声を返す。
彼女から伝えられた話にルーファスは血の気が引いた。
彼は部隊に指示を出し、彼女に急かされるまま後を追う。
ルーファスの表情は暗い、不安が的中してしまったようだった。
二人は医療天幕に着き、救護班の女性はその場に控える。
ルーファスの頭の中は、後悔と自責が渦巻き感情を埋め尽くしていく。
彼は不安を振り払うように手を伸ばすが、天幕を開ける手は一瞬止まる。
その光景を見ることが怖かった。
「第三中隊ルーファスだ。入るぞ!」
ルーファスは意を決し天幕の中に入ると、そこには最悪に近い状況があった。
彼はライザに駆け寄り、視線外の医師に容態を聞いく。
それに対し、医師はこれ以上はどうにもできないと首を左右に振る。
「私共にはこれ以上どうにも・・・今夜が峠かと・・・申し訳ありません。」
ルーファスのライザを見つめるその瞳には涙が浮かぶ。
医師は隣の天幕で控えていることを告げ、その場から退出した。
場の空気は重く苦しい。
ルーファスはライザの横に座り、彼女の右手をにぎった。
そして、返答の無い問いかけを続ける。
「ライザ、大丈夫だよな・・・俺はお前が居なとダメなんだよ。」
「なぁ、いつもみたいに言ってくれよ・・・」
「俺はどうすりゃいいんだよ・・・」
「ルシアも逝っちまったし、お前まで逝ったら・・・」
「なぁライザ、ミランダの店で一緒に飯食おうぜ・・・」
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医療天幕からは男の嗚咽が静かに聞こえてきた。
天幕の外で控える女性衛生兵はその声に耳を塞ぐ。
その姿に医師は彼女の肩を叩きその場を下がらせた。
遠くの宴会の声は彼の心に空しく届いく。
様々な想いと共に帝都の夜は更けていった。




