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21(48).絶望の吹雪と東の鬼

リーファは焦っていた。

気候変えてしまう魔法など聞いたことがないからだ。

それでも彼女は指揮を優先させる。


「なによこれ、あり得ないでしょ。第二波、撃て!」


巨岩漿が白銀の巨影に咬みつく。

巻きこまれた周りのワイバーンは完全に消滅した。

しかし、巨影の表皮には赤黒い塊が鱗のように付着するだけだ。

そしてまた、魔獣の咆哮が空間を支配する。

リーファは唇を噛み、無力さを振り払うかのように指揮を飛ばす。


「第三波用意!」


法術士たちは、自らの魔力を術式に流し結果をイメージする。

白銀の巨影は天空を仰ぐように首を伸ばし、勢いよく振り下ろしながらその口を開いた。

魔獣の口から放たれた氷を孕んだ暴風が、人が造る魔力の塊を襲う。

人が成す術式陣に魔力を孕んだ氷塊がぶつかる。

その瞬間蓄積された不安定な魔力は、均衡を破りその場を光が包む。

白銀の巨影は術式陣の崩壊など気にする様子はない。

崩壊した魔術師隊の戦列を、無慈悲に大小さまざまな氷刃と冷気の束が過ぎ去っていく。

その場には生き絶え絶えの法術士たちが残った。

そんな中、リーファはギリギリの意識を保ち任務を全うする。


「ほ・・法術隊!・・状況・・確認・・・状況確認だ!」

「動・けるものは・・・負傷者を・回収後・・後方に退避。」

「奴・・の正面に入るな・・・」


「「隊長、リーファ隊長!」」


辛うじて動ける者たちは、気を失った隊長の命令を全うする。

その術式崩壊による爆発を目にしてなお、速度を落とさず巨影を目指す巨獣。

二人の男は状況を簡単に分析し、勝機の可能性を見出す。


「どうにもなりそうになかね。あや。・・・無理んし過ぎだ。」


「あの規模で無詠唱は無理だろうな。ヒューマンにしては・・といったところか。」

「驍宗、私は奴を抑え込む。お前は、騶虞(スウグ)(巨獣)と共に奴を叩け。」


任せちょけ(任せておけ)さっからほんしき(最初から本気で)行かせっもらうぜよ!」


呀慶は騶虞から飛び降りながら、呪印を結び真言を唱え続ける。


「ノウマクサンマンダバサラダンセンダンマカロシャダヤソハタヤ ウンタラタカンマンダ ーーーーーーー」


氷竜は、牽制する兵士たちを大木の様な腕で薙ぎ払い遠ざける。

その勢いは、大きさに反し恐ろしく速い。

ルーファスたちは攻め倦ねていたが、アレクサンドラの部隊がそれを打開する。


「クソ、間合いに入れねぇな・・・アレキサンドラ様、危険です!」


「ハァーー!」


アレキサンドラは、迫りくる大木をかわし、巨影に一太刀入れ離脱する。

氷竜の鱗を切り飛ばし、青黒い血しぶきが舞う。

兵士たちからは歓喜が沸き起こるが、すぐに沈黙が支配した。

それは氷竜の胸の傷は、凍り付いて止血されたからだ。

氷竜はアレキサンドラを追撃するように、咆哮と共に上半身を浮き上がらせた。

そして、その体重を乗せた両腕で地面をえぐる。

氷竜の周りで牽制していた兵士たちは、その衝撃で吹きとばされた。

ファラルドはアレキサンドラを目で探す。


「姉さん大丈夫か!」


アレキサンドラは、ファラルドに向かって頷き、兵士たちに指示を飛ばした。

その姿は兵士たちに力を与える。


「普通の武器では、歯が立たない。」

「ファラルド! お前を軸に攻撃を仕掛けるぞ!」

「ルーファス殿。ゴリアス殿。私たちで攪乱する!」


ゴリアスは、部隊を率い先陣を切り、氷竜正面から牽制を仕掛けた。

彼を中心に部隊は氷竜の打撃を躱し隙を作っていく。

戦闘の中、ルーファスは先ほどの爆発が頭から離れなかった。

あそこには技術局もいたはずだ。

彼の頭にはあの夜のライザの笑顔がちらついた。

しかし、このままでは全てが蹂躙されかねない。

ルーファスは頭を振り、最悪の事態を振り払うべく声を張った。


「・・あぁ、了解した。俺の部隊でヤツの右側をつく!」


アレキサンドラの部隊は体勢を整えて、再度戦線へ復帰する。

兵士たちの士気はまだ高い。アレキサンドラは恐怖を振り払うように声を張り上げる。


「第二中隊、我々は左面から行くぞ!」


三つの部隊は、それぞれが1つの生き物のように動く。

氷竜は前足で兵士たちを払い、それでも迫る兵たちを強靭な顎で襲う。

後方ではファラルドの槍に魔力が籠る。

そして彼は馬から降り駆け出した。


「北軍は僕の支援だ。死ぬんじゃねーぞ!」

「・・・そんじゃーいくか!!」


空を切った氷竜の顎を目掛け紅蓮の刃が襲う。

強力な一撃は氷竜の顎を深く抉った。

ファラルドはその勢いのまま、氷竜の頭の上で魔力と力をさらに籠め脳天に刃を突き立てる。

紅蓮の刃は炎を纏い、その肉に食いつく。

そしてその刃は、肉を食いちぎり天を仰いだ。

氷竜の額には鮮血の舞と共に炎の残像が乱れる。

ファラルドは止めとばかりに全体重を乗せ、重い一撃を見舞う。

しかし、氷竜は槍が刺さったまま首を激しく降り、ファラルドを吹き飛ばした。

そして、氷竜はファラルドの落下先に目掛け頭から突っ込んだ。

大きな鈍い音と共に砂煙が立つ。


「ぬぉぉぉ、やらせはせんぞ!!」


氷竜とファラルドの間に巨大な盾を持つゴリアスを中心とした数人の男たちが立ちふさがった。

腕の筋肉は隆起し、血管が浮き上がる。

彼らの体は1周りも2周りも膨れ上がっていた。

そして、鎧の留め具は飛び、上半身をあらわにする。

そこには芸術の様な筋肉の塊がファラルドを救う姿があった。


「ゴリアス殿、助かる。このまま追撃するよ!」


遠くから不思議な詠唱が聞こえてきた。

氷竜は何かに束縛されたかの様に動きが緩慢になっていく。

そこに新たな一閃が氷竜を両断していった。


「チィェストォーーー!!」


禍々しい赤紫の炎が氷竜を横ぎり、剛翼は肉体から離れ宙を舞う。

赤紫の閃光の先には大きな砂煙が立つ。


「次で仕舞じゃ!」

槍つけは頭を狙え(槍使いは頭を狙え)わしゃ本体を断つぜよ(俺は体を断つ)!」


ファラルドは一瞬戸惑うも、その強い眼光に従う。

二つの刃は白銀の巨影を目掛け走り出す。


「えっ・・わかった、いくよ!」


二つの炎は氷竜を断ち、肉塊に変えた。

場の空気は変わらない。

兵士たちは、あの氷竜を一太刀のもとに葬る剣士に戦慄する。

味方なのかわからない剣士は、無操作にファラルドに近づく。


よか太刀筋じゃ(いい太刀筋だ)おまんは強か(お前は強いな)。」

「今度サシでやってみよごたんな(戦ってみたいな)!」


ファラルドは手を差し出され、それに答える。

ようやく場の空気は穏やかなものに変わった。

ファラルドは礼を言うが困惑が解けない。

その状況を大太刀の剣士は豪快に笑う。


「ありがとな。って誰だよあんた。」


豪快に笑いう剣士に巨獣が近づき、頭をこすりつける。

巨獣の背から白狼の獣人は降り、困惑するファラルドに声をかけた。


「終わったな。アンタがこの軍隊の大将か? 私は呀慶と申す。こいつは同郷の驍宗だ。」


「っあぁ、言葉がわかるよ。討伐協力に感謝する。」

「僕はファラルド・リッケンバッハ。 総隊長を紹介するからここで待っていてくれ。」


驍宗はファラルドの言葉にムッとするが、呀慶はその事に頭を抱えた。


なんじゃ(なんだよ)、言葉がわかって(わかるって)!」


「驍宗、お前は月山訛りが強すぎるんだ。」


せからしか(うるさいよ)!」


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