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20(47).共闘する二国

帝都城門前に騎士たちが集う。

そこには帝国の兵士の顔もあった。

アレキサンドラの表情は少し明るくなったが、まだ確信が持てない。


「集まったか。これより、魔物退治を行う。」

「騎士団は魔物を1か所に集めるように牽制、無理に倒そうとはするな。」

「法術隊は1か所に集まった所を叩け。残党は騎士団が刈り取れ。」

「ここまで来たんだ、命だけは捨てるな。皆で凱旋するぞ!」


魔物たちは、魔力の集まる場所を目指す。

それは生物が集まる場所、帝都を意味する。

兵士たちは、ダンジョンから溢れ、帝都に押し寄せる下級魔物を討伐していく。

しかし様子に違和感を感じた。

最初の波を過ぎると全く溢れてこない。

魔物は現れないが、ダンジョンを中心とした地面に強い魔力が集まっている。

それは兵士たちの知る動きではなかった。

帝都はシトシトと雨が降り始めた。



帝国を臨む丘に2つの影がある。

彼らは腕を組みダンジョンの様子を伺っていた。

空は暗く雨が体温を奪う。

おかしな状況に困惑することなく魔窟を睨む二人。


「おいおい、なんじゃあや。魔窟暴走したんじゃなかとか。」


「私もわからん・・・わからんが、あの魔力量は問題だ。」


ダンジョンを含めた周辺の大地が発光し強い光に包まれた。

大地を揺るがし、地響きと砂煙が辺りを包む。

そして砂煙が晴れると、そこにあったものは何も残っていなかった。

ダンジョンは消滅し、えぐれた地面と山ほど巨大な隻眼の白銀竜が姿を現す。

その光景に二人は平静を保つことはできなかった。


ないだあや(なんだあれは)、氷竜じゃらせんか(じゃないか)じゃっどん(しかし)あん(あの)大きさははいめっけん(初めて見る)!?


「アレは・・・あり得ん大きさだ・・・帝の占いはこれなのか?」


びんたん(頭の)痛か話じゃ。呀慶、気ぃ引き締めていっか(気を引き締めていくぞ)!」


二人の影は巨獣にまたがり、白銀の影を目指す。

彼らの顔には今までの余裕の様なモノは消えていた。

それは、この訳の分からない状況を早急に対処しないと、さらなる問題が起こりかねないからだ。

呀慶は巨獣の頭を撫で、白銀の影まで急かす。

異国の戦士たちはアレクサンドラたちに合流していく。



アレクサンドラの目の前で大地は崩壊しダンジョンが消滅した。

こんな見たことも、聞いたこともない状況に兵士たちは戦慄している。

目の前の新たな悪夢に士気が下がり始めていた。

ソレは、ようやく掴んだ希望が絶望へと変わり始めていた為だ。

アレキサンドラは声を絞り出し兵達に激励を飛ばす。


「全隊、体制を整えろ!! 負傷した者は下がれ!」

「私の声を聞け!! 我々は一人ではない、焦る必要はない。皆、落ち着け!」


女傑は声を上げ、兵士たちを鼓舞する。

しかし、それは無に帰った。

砂煙が晴れ、眼前に絶望は現れた。


「なんだ・・・あれは・・・」


場の空気が凍り付く。

目の前に広がる光景は明らかに異質だった。

山ほど大きいドラゴンが姿を現したのだ。

秘境や獣の領域なら可能性はあると聞くが、そんな生物はこの辺のダンジョンでは遭遇しない。

まして、この大きさの生物など御伽噺や英雄譚でしか知らない。

ファラルドは、目の前の現実から意識が離れたアレクサンドラを心配する。


「これは、まずいな。異母姉ねえさんも固っちまった。」

「おい、ルーファス。君ならダンジョン経験がある。君の指揮で引っ張ってくれ。」

「僕は、アレキサンドラ様を引っ張る。」


「任せろ、ファラルド。お前ら、俺に続け! 狩ろうと思うな、牽制して隙を作れ!」


ルーファスの掛け声で凍り付いた彼の部隊は息を吹き返す。

そして、足を止めた馬軍も一つの生物の様に動き出した。


「「「・・・うぉーーー!」」」


ルーファスと彼の部隊は白銀の巨影に向け進軍する。

正面から突っ込むと確実にやられると分かる状況だ。

ルーファスは反時計回りで渦を巻くように間合いを詰めていく。

ファラルドは、ルーファスたちの進軍を見ながらアレクサンドラの元へ急いだ。


「サンドラ異母姉ねえさん、ルーファスに前衛指揮権を。」

「僕にリーファ殿の部隊指揮を下さい。必ず皆を生きて返します。」


後方からファラルドの声が凍り付いた女傑を現実に引き戻した。

そしてアレクサンドラは全軍に指揮を飛ばす。


「ファラルド・・・すまないな、ありがとう。」

「皆聞けー!第ニ・第四騎士中隊は、ルーファス隊に続け!」

「法術隊はファラルドの指揮下に入れ!傭兵隊は法術隊の護衛だ!」


兵士たちも、息を吹き返した。

前衛は一つの生物のように巨影を囲む。

しかし白銀の巨影は未だに動くことはない。

だた、その頭上には赤い人影があった。

それは、詠唱の様な言葉を並べている。

それに共鳴するかのように氷竜の周りには点々と魔力が溜まっていく。

そして、溜まった魔力は禍々しい青黒い光に変わった。

次の瞬間、光からワイバーンが生み出される。

ルーファスの顔は引きつっていた。

初めて見る光景は、人生の中で聞いたことも無いモノだ。

しかし、それを振り払うかの様に声を張り上げ指揮を執る。


「なんだ・・・まだ増えるってことか?これ以上、可笑しなことは、おこるなよ。」

「前衛、上空に警戒、距離を取れ!」


ルーファスたち前衛は、巨影とワイバーンたちが視野に収まる距離まで移動する。

両方から攻撃を受けては全滅しかねないからだ。

まずは、生きることを優先させた。

ファラルドは前衛の位置を確認し、彼に続く部隊に指揮を飛ばす。


「第一法術中隊・南軍法術隊は法術隊の警護!」

「第三法術隊・北軍法術隊は技局と共に集団術式で巨影を含めたワイバーンを一掃!」

「南軍騎士隊は法術隊の警護!北軍騎士隊は前衛に合流!」

「北軍以外は、リーファ殿の指揮下に入れ! 北軍は僕に続け!」


ファラルドは後衛で待機している部隊の指揮をリーファへ移し、北軍と共に前衛部隊の元に急いだ。

法術隊は大規模集団術式を完成させる。

膨れ上がった魔力が巨岩漿に代わり、魔物たちを襲う。

巨岩漿が直撃したワイバーンたちは地に落ち、あるモノは翼椀を失い、あるモノは死に絶える。

巨岩漿により、ワイバーンの数は半数ほど減らすことができた。

一方、巨影は片翼の肉が一部落ち、爛れ、骨をあらわにさせている。

その光景に可能性を見た兵士たちは歓喜の声を上げた。

しかし、巨影からは急激な魔力の増大が感じられる。

次の瞬間、巨影は魔力を解放し同時に大気を震わす。

前衛の兵士たちは耳をふさぎ、間に合わない者はその場で倒れた。

形容しがたい咆哮がやむと世界は一変する。

兵士たちの眼前には季節外れの雪が渦巻いていた。


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