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19(46).悪夢再び

帝都が陥落した頃、1台の馬車と追走する巨獣があった。

馬車には帝国に属する貴族の紋章がある。

帝都で状況を見定めていた連中の一人だ。

中に乗る領主は唇を噛み、今後の身の振り方を思案している。

それをゴミを見るかの様に一瞥し、帝都を振り返る男が二人がいた。


「何じゃ、帝国はもう落ちてしもたんか。」


「しかたなかろう、術兵の差だ。驍宗、しっかり座ってろ。落ちるぞ。」


驍宗は巨獣の背で仰向けに寝て帝都の空を見つめる。


じゃっどん(しかし)嫌なっうきじゃな(嫌な空気だな)。」

帝ん占いはこれなんか(帝の占いはこれなのか)。」


「どうだろうな・・・おい貴族、金の分は働いた。ここまででいいな。」


白狼の獣人は馬車の外から貴族に投げかける。

その表情は何もない、ただ仕事相手と話をしているだけだ。

貴族は揉み手をしながらそれに感謝を返す。

白狼の獣人は巨獣の踵を帝都に向けた。


「おい驍宗、戻るぞ。」


そうこんにゃな(そうこなくてはな)!」


巨獣は馬車から離れ反転して帝都を目指した。

どこまでも晴れ渡る空が、暗雲に包まれ雨が降り始る。

それは嵐の前触れでしかない。



一人の兵士がふらふらになりながら帝都の門を叩いた。

彼は帝国が落ちたことを知らない。

目の前の兵士は王国兵、それでも彼には関係なかった。


「誰か・・誰か助けてくれ。魔物が・・・魔物が溢れ・・・・」


ぼろぼろの帝国兵らしい男は城門の前で息を引き取った。

体はボロボロだが剣の様な鋭い切り傷ではない。

それは爪や牙で引き裂いたような傷だ。


「何かあったのか?」


ファラルドは兵士から状況を確認する。

兵士たちは帝都のダンジョンが暴走を起こしたと彼に伝えた。

ファラルドは腕を組み思考を巡らるが、情報が噛み合わない。

それは、帝都ギルドの情報にはその兆候は見られていないためだ。

ファラルドは違和感を感じつつ、部隊に戦闘準備を急がせた。


「伝令、アレキサンドラ様に魔窟暴走が発生したと連絡してくれ。第二法術隊のリーファ様にも頼む。」

「僕は城に向かうよ。魔物相手にコレじゃ効率悪いからね。」


雨は雪に変わり、風も強くなっていく。

まだ雪の降る時期ではない。

ファラルドは異常さを感じ、歩く速度を速める。

伝令は息を切らしながらアレクサンドラの元に急ぎその旨を伝えた。


「アレクサンドラ様、ファラルド様から帝都ダンジョンが魔窟暴走を起こしたとの報告です。」

「直ちに、リーファ様の隊を中心とした討伐隊編成をお願いします。とのことです。」


アレクサンドラは下唇を噛む。

予想はしていたが、可能性はきわめて低く見積もっていた。

皇帝も魔窟暴走は望んでいないと考えていたからだ。

しかしその考えは間違いだった。

皇帝はどこまでも利己的で、目的の為なら結果は二の次なのだろう。

アレキサンドラは皇帝への怒りを振り払い、思考を巡らせる。

王国兵の半数は戦えるレベルではない。人員が必要だ。


「各隊長を集めよ。そして怪我の無い帝国兵に声を駆けろ。半時後に会議する。」


伝令は帝都を駆けまわった。



帝都王城宝物殿で、ファラルドは辺りを見回しため息をついた。

そこには大量の金貨や宝石、価値のありそうな物があちらこちらに保管されている。

その光景に反して、帝国民の生活は暗く、王国より貧しく見えた。

ファラルドは宝物庫で目録を作るゴリアスを見つける。


「これはゴリアス殿。 武器を借りたいんだが、大丈夫かい?」


「ファラルド殿、目録に記載しておいてくだされ。」

「くれぐれもお返しください。部下に示しがつきいませんからな。」


ファラルドはゴリアスと別れ、目的のモノを探し始めた。

目的の物がここにあることは分かっていたが何分物が多すぎる。

ガサガサと武具のある場所をあさり、ようやく目的の物を見つけた。

ファラルドの手には1筋の槍が握られている。

数回素振りをし、ソレに魔力を込めて感覚を確かめた。


「本物の様だね・・・じゃあ行ってみようか!」


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