18(45).帝国の最期
階段の間ではゴリアス率いる第四中隊が異形のモノと交戦する。
しかし今までの勢いを殺し、その場に釘づけにされていた。
「くそ、なんで魔物がおるのだ。」
「第1小隊は儂に続き左のガーゴイルを狩る。第2小隊は右のガーゴイルを狩れ!」
ゴリアスは巨大なハルバートを構え、間合いを取る。
第一小隊もゴリアスのそれに倣う。
灰色の巨像は金切声の様な咆哮を上げ威嚇する。
「儂が、ヤツの正面で注意を引く。お前らは隙を見て、羽と足をやれ。 来るぞ!」
黒い塊が、ゴリアスに突っ込んでくる。
ゴリアスは、ハルバートで受け止めるも引きづれらた。
彼の筋肉は彫刻の様に浮き上がる。
押し込まれる勢いは徐々にが弱まり黒い塊は止まった。
兵士たちは、隙を見て羽を飛ばす。
黒い塊は悲痛の叫びをあげ腕を振りまわした。
ゴリアスは、ハルバートの柄で強引にガーゴイルの顔を殴る。
そして、その反動を利用し、さらに力と体重をかけ、袈裟斬りに一撃を入れた。
青黒い鮮血は辺りを染め、ガーゴイルの右腕が飛ぶ。
隙をつく兵士は、後方から残る羽をねらう。
しかし、兵士は虚を突かれ後方に吹き飛んだ。
兵士たちの幾人かは下半身しか残っていない。
それでも傷ついた兵士の士気は下がることは無かった。
鎧が拉兵達は、体勢を立て直し期を狙う。
兵士たちは、アレキサンドラやゴリアス、そして王国に信頼をおく。
王国は兵士たちに安定した生活を与えてきた。それは絵に描いた餅ではない。
現実を与え、家族の安全を保障してくれていた。だから、兵士たちは命を懸けられる。
帝国とは違う。国と兵がお互いを尊重し、過度な期待などしていない。
その違いは両軍の士気の差につながっている。
ゴリアスは、ガーゴイルの正面から決して逃げない。
そして、ガーゴイルはゴリアスから目を離さなかった。
ガーゴイルは飛び散った自身の腕を拾い、それを武器としてゴリアスとの間合い取る。
ゴリアスは視線を変えず、兵士たちを労わる。
「負傷兵は下がれ、ワシがお前たちを生きて帰す。」
ゴリアスは体を落とし走り出す。
その隆起した筋肉は美しい閃光に変わった。
「ぬぅおおー!」
間合いを瞬時に詰め、大上段からガーゴイルを一閃。
ガーゴイルは間一髪後ろに下がる。
しかし、それはゴリアスの間合いの中だ。
金切声と共にガーゴイルは真っ二つになり、その体を横たわらせた。
「「「うぉーー!ゴリアス様!」」」
士気はさらに上がり、第四中隊は残る魔物を襲う。
残ったガーゴイルはゴリアスの手を煩わせることはなかった。
兵士はボロボロだが士気は高い。
ゴリアスは一瞬悩むが、死んでいった兵士たちの顔がよぎった。
彼は、”彼らの夢を、未来を、奪っていった悪夢をここで終わらせる”と誓う。
そしてハルバートを強く握りしめた。
「残る首級は皇帝のみ!皆の者、ワシに続け!」
階段の間は沸き上がった。
ゴリアスと兵士たちの気持ちは共鳴している。
国に残した家族の為、失った友人の為、この悪夢を終わらせたいのだ。
この鬨の声は場外にも響き渡る。
場外のルーファスの元に状況の変化を告げる伝令が到着した。
「妙に、城内が騒がしいな。伝令どうした。」
「ルーファス様、ゴリアス様が階段広間を占拠していた魔物を討伐した模様です。」
「残るは皇帝のみかと。」
ルーファスは城に視線を送り、ゴリアスに賛辞を贈る。
その表情には傲慢さはなく、信頼できる同僚を称賛するモノだった。
「わかった、本体にも伝令を頼む。もうすぐ帝国は落ちるだろう。」
「やったな、ゴリアス殿。」
ルーファスに倣い兵士たちも、城下から城を眺め、笑顔がこぼす。
ようやくこの戦争も終わる。
兵は沢山死んだが、守られた命もまた多い。
戦った者たちに不義でがあるが、大切な仲間達は無事だ。
ルーファスは表情を戻し、ゴリアスたちの後方支援に向かう。
「第二部隊は、これより城内の敗残兵の討伐に移る。抵抗するもの以外は無視しろ。」
帝国の空は、雲が集まり太陽を覆い始めていた。
城内では、ゴリアスたちが謁見の間の扉を蹴破りなだれ込む。
先陣を切りゴリアスが皇帝の首に刃を向けた。
「皇帝、貴様と貴様の血族の影響で民が苦しみ、国はすさんだ。その首をもって償え!」
「貴様の首は、この王国騎士団第四騎士団団長ゴリアス・トゥアハ・ダナンが頂戴する。」
王座の男の目には、まだ強い光が宿っている。
杖の先端を床に叩きつけ、残る手を大きく薙ぐ様に振りぬく。
そこには腐っても王の威厳があった。
謁見の間の荘厳さと相まって、帝国近衛騎士たちの士気は変わることがなかった。
「なにをぬかすか!儂は神に選ばれた皇帝ぞ。」
「儂の首を貴様の様な下種なものが取れようはずがない。」
「衛兵よ。切り伏せい!」
両国の兵はぶつかり合い、謁見の間は荘厳さを失い廃墟と化す。
その光景は、帝国そのものの様だった。
煌びやかに飾られた謁見の間は、そこに仕える家臣も、守る民兵もいない。
王一人では国にはなりえないのだ。
王は神が決めるものではない。民の長たるものが王なのだ。
民から搾取し、欲望のままに国を動かした一人の男は生涯を閉じた。
ゴリアスはバルコニーから火の上がる国を眺める。
「伝令、皇帝は死んだ。帝国が落ちたことを各隊に伝えろ!」
「皆の者、勝鬨だ!勝鬨を上げろ!!」
帝都は王国兵の声で沸きたつ。
兵士たちの顔は涙でぬれ、不安の消えた笑顔がそこにはあった。
ようやく戦争が終わったのだ。




