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17(44).帝都の攻防戦

太陽は低く、冷たい風が肌を傷つける。

高原にできた”かがり火”からは、その炎さえも焦がす想いが感じられた。

設営された拠点の中央天幕では、各隊長が集まり今後の方針を固めている。

ある将は勝利を確信し、またある将は不安をいだいて幕を閉じた。

アレクサンドラは後者だったが、兵に不安を与えるわけにはいかない。

自身を奮い立たせ、正面に整列する兵士達の元へ向かう。


「我が軍は、先の襲撃で兵站を断たれてしまった。状況から南北の2軍も同様だろ。」

「私たちにできることは進む以外にない。よって、予定通り作戦を進める。」

「斥候による帝都兵糧貯蔵地区への襲撃後、混乱に乗じて帝都を叩く。」

「帝国諸侯の援軍が来る前に王の首を取る。帝都での戦闘は激しいものになるだろう・・・」

「すまん・・・お前たちの命を私にくれ。」


兵士たちは一人の女傑の意志に賛同し、静かにしかし力強く敬礼で返す。

作戦は兵士たちの意気込みとは逆に、静かにそして冷静に準備を進めた。

東の空がしらけ始めた頃、アレキサンドラは全軍に指示を出した。


「第三・第四騎士部隊は前に。城門解放後、突撃。以降、ルーファス殿の指揮下で王の首を狙え。」

「第二騎士部隊は後方部隊を援護、第一陣突撃後、合図を待つ。」

「合図確認後、城壁内に突入し、帝都を占拠。」

「第二・第三法術隊及び傭兵隊は大規模集団術式発動。帝都城門攻略後、第ニ陣と共に帝都に突入。」

「占拠後、帝国諸侯の援軍に備える。伝令は逐一南北軍と連絡をたのむ。全軍、配置につけ!!」


半刻が過ぎた頃、帝都内より幾本もの煙が上がる。

警鐘と感情が孕む叫びが入交り混乱の波が帝都を襲った。

そして、上空に赤い閃光が上がり炸裂した。

アレキサンドラは馬上から、声を張り上げ全軍に指示を出す。


「第二法術隊、第一波、術式開始、完成次第発動!」

「第三法術隊、第ニ派、術式開始!」


深紅の巨大な魔力が帝都城門を襲う。

轟音と共に赤黒い液体を散らしながら城門を貫く。

城門を守る帝国兵たちは王国軍の進軍を想定していた。

しかし、城門が1度の攻撃で落ちるとは予想していない。

城壁ではその衝撃で落下する者や、狼狽し状況を把握できない者が溢れかえる。

アレキサンドラは間髪入れず城壁を狙う。


「第二陣、第二波放て!」

ーーーーーーーーーーー

巨大な岩漿は城門を失った帝都を容赦なく襲う。

それは、あまりにも残酷なように思えた。

しかし、アレキサンドラには兵士たちの命がかかっている。確実性が必要なのだ。

帝都が瓦礫になろうとも、帝国兵に圧倒的な力を見せつけ戦意を喪失させる。

これは、無用な死者を出さない為でもある。

アレキサンドラにとっては王国民のことが全てだからだ。


「第四破放て!続いて第一陣突撃!!」


「「「ウォーーーー!」」」


王国兵士たちの咆哮は、土煙と共に王都へなだれ込む。

城壁の裏に隠れていた帝国兵士たちは既に戦意を失くしたものが多数だった。

帝国本土まで進軍され、挙句容赦ない攻城魔法の嵐だ。

背水の陣でも、帝国上層部はまとまっていない。

ある貴族は帝都を離れ、またある貴族は自邸に籠る。

只でさえ帝国軍の士気は低い。そこにこれだ。

ルーファスはこの光景が心底いやになる。

10年前に自国を失った光景を思い出す。

奪う側も奪われる側も、民にとっては変わらない。

貴族たちが好きな様に荒らすだけだ。


「お前ら、無抵抗な兵は無力化後、放置しろ!抵抗されない限り、帝都民には手を出すな!」

「第四騎士隊は城前面の敵兵を片付けろ!第三騎士隊は街内の敵兵を殲滅!」


作戦は順調に進む。

そして戦場の喧騒とは裏腹にダンジョンは沈黙している。



二時間後、帝都は落ちた。残るは王城のみだ。

王国軍は帝都に本陣を移し、帝国の援軍に備え防衛を固める始める。

アレキサンドリアは、城壁の復旧と共に王城の陥落を目指す。


「第二法術隊は大規模集団術式の準備にかかれ。さっさと城を落とすぞ!」

「第三法術隊は救護班と共に負傷者の手当てに当たれ。」

「伝令、城門の復旧は南北軍に要請しろ。」

「動かない様なら、第一王子の名前を使え。問題があれば、私が責任を取る。」


兵士たちは指示に従い、それぞれの場所へ向かう。時間は限られている。

帝国全軍と戦闘になった場合、それは敗戦以外ありえない。

その為、アレキサンドリアは速攻をかけているのだ。

行わなければならない事を最低限に済ませる。

それは遂行できれば完璧でなくてもいい。

アレキサンドリアはその上で最善を目指し、指揮をとり続ける。


「ファラルド、お前は後詰めだ。帝国諸侯とダンジョンを警戒してくれ。」

「南北軍はお前の指揮下に入れる。無理はするなよ。」


「了解、サンドラ異母姉ねぇさん。お前ら行くぞ!」

「傭兵隊は城門の警備、伝令は南北軍に城門修復後、城門の警備と伝えろ。」


王国軍は、自ら破壊した帝都城壁を土魔法により復旧させ、防衛の準備を完了させていく。

一方ゴリアス率いる第一波は、主城門を落とし城内へ足を進める。

主城門を突破された城内は静けさを失う。

帝国近衛兵は王国兵とぶつかり合うも、士気の低さがひびき次々と切り伏せられていた。

王の間ではその主が取り乱す。

しかし、それを落ちつかせる臣下は片手で数えられるほども残っていない。


「リューゲはどこじゃ。帝国はまだ負けてはおらぬ。」

「儂はまだ落ちてはおらぬのだ。リューゲを探すのじゃ。」


取り乱す皇帝は、その威厳を失ってなお、駄々を起こす子供の様に周囲に命令する。

その光景に見かねた数少ない臣下は、皇帝を落ち着けようと良い情報だけを伝える。


「皇帝陛下、リューゲ殿より、階段広間に使いを配置したと連絡がありました。」

「王国兵はリューゲ殿の使いにより足止めされている模様です。」


「ほぉ、そうか。」

「リューゲじゃ、リューゲがおれば、王国なぞ取るに足らんのじゃ。」


皇帝は落ち着きを取り戻すも、慕う兵はもう誰もいない。

それでも、衛兵たちは彼らの家名の為に威厳無き皇帝につき従うしかなかった。

王の間には、王の信用を得た者はいない。

その者に期待し狂信した王は、相手の本心がどこにあるかを理解することはできない。

それは、"相手も同じ考えだ"と押し付けているだけなのだから。


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