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14(41).男の決意

会議室を出た足音は小さくなっていった。

ルーファスは、長い廊下を進み技術開発局の使う部屋へ入る。

中では、数人の研究者が術式について議論し改善をおこなっていた。

メガネをかけボサボサな頭の若い男性と、ルーファスがよく知る女性技術者以外は頭を抱えている。


「まだ風属性の術式を追加すれば、威力が上がるんじゃないか?」


「所長、無理ですよ。今の構築式じゃ、二属性の複合式が限界です。」

「戦果だって十分じゃないですか。」

「それよりも防衛をどうにかした方がいいんじゃないですか?」


若い女性技術者の反論に、ギリアムはさらに反論で返し提案に補足する。


「アレは、今ある水風混合の術式で十分だよ。」

「そこの術式は変えずに、立体術式でやってる蓄積側に加えられるんじゃないか?」


若い女性技術者は頭を掻きながら、彼の補足を諫める。


「そこは王都で揉めた部分じゃないですか。」

「結構デリケートなところだから、適当にやったら吹っ飛びますよ!」


若い女性技術者の言葉は彼には響かなかった。

それは、ギリアムの動機が結果より目的にしか興味がないためだ。


「近距離で外部負荷がなければ問題ないさ。」


若い女性技術者はギリアムを諫めることを諦めた。

そして、二人の技術者は議論を交わしならが魔法術式を構築していく。

ルーファスは部屋の隅で静かに聞いていたが、深くは分からない。

それでも、攻城戦で使用している集団術式の話だとは理解する。

そんな違う世界の様な話をしているライザの顔は、いつも見るものとは違って見えた。

人に信頼され自分の出来ることを全力でやる姿は輝いて見える。

ルーファスは、我儘かもしれないが、出来る事なら彼女に王都に帰ってほしいと考えていた。

半時ほど経ち、二人の技術者は満足そうに背伸びをした。

ギリアムは、椅子に掛けこちらを見ている大男に声をかける。


「おっ、ルーファスじゃない。用事は姫様かい?」


「主任、その言い方、良くないと思います。」


ライザは、ギリアムを睨みルーファスの元へ向かった。


「も~、ルーファス行こ。」


「おっおう、じゃあなギリアム。」


ギリアムは手を振って2人を送り出した。

そして廊下に消えていく二人の姿に少し後悔を覚えていた。

彼は、ルーファスとライザの微笑ましい光景が好きだ。

それは友人として彼らがこれからも幸せであってほしいと思う気持ちからである。

しかし、戦争という流れに彼女を乗せてしまった。

彼女の力は王国にとっては不可欠だ。

彼女のいないチームでは、ここまで早く技術の完成はなかったであろう。

国の為か友の為か、彼はそんなジレンマに苛まれながらも二人の幸せを願う。



部屋を出た二人の足は夜風に誘われた。

二人は城壁の上で、どこまでも広がる星空を見つめている。

ルーファスが少しぎこちなく、そわそわしていた。

そんないつもと違う彼に、ライザも少し緊張している。


「どうしたの、急に来るなんて・・・なんかあった?」


ルーファスは空を見上げ、一瞬視線だけを彼女に送った。

爽やか眼差しだが、何か含むその表情は長い付き合いのライザには伝えたいことがわかる。


「いや、ちょっとな・・・最近は順調そうだな。」


「何よ急に・・・」


ライザは思った。じれったい。

いつもは、こんなにじれったいことはない。

この空気に付き合うしか正解は無い気がした。

ここで喧嘩してもしょうがないのだ。

平時であればまだしも、戦争中である。

しかも、激戦が予想される帝都戦の前。

弟と最後に話した時も、たわいもないことが原因の喧嘩だ。

ライザはもう、あの想いはしたく無かった。


「そうね、戦果も出てるし、なんか報われたって感じかな。」

「・・・戦争なんて起こってほしくなかった。」

「・・・貴族に戻らなくても、4人でワイワイしてるだけで私は幸せだったもん。」


ルーファスは、彼女の切ない横顔を見て、喉の渇きが収まった。

彼も気持ちは同じだ。

戦争など起こらなければいいと思っている。

そして彼女の、大切な人の笑顔を失いたくはない。

ライザの俯く姿に一瞬視線を向け、また空を見つめながら少しづつ想いを告げる。


「そうだな、4人でまた、ミランダの作った飯食いたいな。」


「フフフッ、どうしたのいつもなら、よし、みんなで食い行くぞーって感じなのに。」

「やけにしんみりね・・・」


ライザは、彼の真剣な眼差しに少し緊張してしまう。

昔、こんな顔で嬉しいことを言われた記憶が蘇る。

貴族だった頃の記憶。

17歳の誕生日パーティで彼に告白された時の記憶だ。

緊張を振り払うようにライザはおどけてみた。


「なによ、騒いでるの私だけじゃん。もしかして受勲するかも~って?」

「今から緊張してんの? らしくないぞ~。」


ライザが、覗き込むようにルーファスの顔を見る。

そこには、星空を見つめる真剣な表情があった。

しかし、いつもの笑顔もそこにはある。


「・・・らしくないかもな。」

「アレキサンドラ様がさ・・・会って来いってよ。」


ルーファスは少し小さな声で話し始めた。

ライザも想定外な話が始まり緊張が解れる。


「ん?・・・アレキサンドラ様がなに?」


「死んじまったら、どうにもならねぇてさ。」


「そう・・・だよね・・・」


ルーファスの笑顔は消え、決意を固めた真剣な表情に変る。

そんな表情に、ライザの鼓動は、また高鳴っていた。


「俺さ、王都に帰ってからって決めてたことがあるんだ。」


「・・・うん」


二人の時間は一瞬が永遠の様に長く感じられた。

ライザは、頭ではわかっているが心が追い付いていない。

ルーファスは真剣な顔でライザの両肩をつかむ。


「ライザ、俺と結婚してくれ。」

「まだ早ぇけど・・・叙勲とかわかんねぇけど、必ず幸せにしてみせる。」


ライザの頬を一筋の涙がつたう。

そこには、気取らずいつも通りのルーファスがいる。

今まで大変な時も一緒に頑張ってきたからこそ、飾らない言葉が何より嬉しかった。


「うん、ありがと、ルーファス」


月明かりは1つの影を映し出す。


「フフフ、幸せにするだなんて・・・一緒に幸せになろ。」


静かな星空は祝福するように二人を照らす。

二人はその時間が永遠に続いてほしいと祈っていた。


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