表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/325

10(36).山岳砦ザルツガルドの攻防

ミーシャに励まされた翌日。

日が真上にさし方た頃、ザルツガルドでは角笛が鳴り響く。

極限まで高まった魔力の塊が、巨大な岩漿となり帝国軍を襲う。

要塞前面に展開していた帝国兵士は、土の魔力防護壁と共に跡形もなく消滅した。

前面を失った陣形は、号令と共に両翼を中心に集めて、その形を変えていく。

城塞から炎の雨が王国軍を襲うが、兵士たちはその中を突き進む。

地響きと共に2つの人波がぶつかり合う。

しかし炎の雨は降り続け、降りやむことはない。

魔力を孕む風が大気を震わし、行く手を阻む炎の雨を散らす。

号令により帝国軍は城塞に撤退。

そして城壁は硬く閉じられる。

王国軍は追撃しつつ、左右から城壁にとりつく。

帝国術士隊の魔力は無尽蔵かと思わせる様に、散らされた炎の雨は勢いを増し降り続いた。

王国軍本陣では、また魔力が高まり始める。

そして一拍置いて、巨大な魔力を孕んだ岩漿は城壁に咬みつきそれを食いちぎった。

穴の開いた城壁に王国軍が流れ込む。

主戦場は城内に移り、戦闘はさらに激化する。

炎の雨がやみ、半時経つと城門が開く。

アレキサンドラの透き通るような声は、凛とした指揮振舞と相成り王国兵の士気を高くした。


「第二中隊は本陣で待機、第三中隊はルーファスに続け!」


アレクサンドラは馬上から指揮し、陣形を動かす。

その号令に従い、一騎の騎馬が集団の前に陣取り声を張り上げた。


「第三中隊は俺に続け!!」


「「「うぉおおおおおーーー!!」」」


王国兵士の波は城門をくぐり中庭まで攻め込む。

帝国の歩兵たちは騎馬に踏み倒され、戦意を失い逃げ出すものも出始めた。

そんな中、一人の老将が居城区画前の広場で馬に乗り待ち受ける。


「お前が常勝の隻眼騎士、ルーファスか。」

「敵将に頼むことではないが、願いを一つ聞いてくれまいか?」


その場の空気は不思議なものだった。

戦いの喧騒はそこにはない。

場の空気は静まり返り、その場に二人しかいない錯覚すら起こす。


「私が負けたら、場内の女子供は解放してほしい。兵士たちは降伏させる。」


老兵の騎馬は微動だにせず、さも主人と一つの存在のように振る舞う。

一方、ルーファスの騎馬はその場の空気に耐えきれず、首を振り地団太を踏む。


「・・・賜った。王国騎士団第三中隊隊長ルーファスが、その願い、聞き届ける。」


「ルーファス殿、痛み入る。」

「帝国軍西方戦線総司令官総督、バルバス=フォンデミリオン参る!」


空気が張り詰める。

一方の馬は主の指示を待つことなく、主の想いを汲み走り出す。

また一方は自らを奮い立たせるように嘶き、主人の命令に従った。

両者は馬をかり、間合いを見合い動き出す。

ぶつかり合う軍馬、飛び交う鋼の火花、そして結び合う剣戟はその場の空気をゆがませる。

鋼がぶつかり合う衝撃と共に、戦士達の間合いは広がる。

ルーファスは戦慄の中で、魂のぶつかり合いを楽しんでいた。


「強えぇなこの爺さん。魔物とやり合ってる方がよっぽど楽だぜ。生きた心地がしねぇわ。」


2頭の軍馬が互いに向けて駆け出し交差する。

甲高い音と共に、折れた剣先が舞う。

一人は落馬し、一人は馬を駆り踵を返す。

ルーファスは受身を取り、後方に転がる。そして、騎馬を駆る老将を睨む。

老将の馬は初めて嘶いた。馬上の老将はハルバートを構え、そして呟く。


「幕引きだ・・・」


老将の軍馬が駆けだす。

それは砂煙と共に加速する。

まるで軍馬と騎士は、さも一つの刃であるかのように。

一方武器を失った騎士は、折れた剣を地面に突き立て、片膝をつき身構える。

その顔には焦りが見えるも、諦めた表情ではない。

僕は、その場の空気に圧倒され、生唾を呑むのが精一杯だった。

それでも、足元に転がるバスタードソードを両手でつかみ。友の元へ投げ飛ばす。


「ルーファス!これを!」


一本の大剣がゆっくりと回転しながら、ひざまずく男の前に突き刺さる。

そして次の瞬間、大きな衝撃波が辺りを包んだ。

ルーファスは目の前の大剣を引き抜き、頭上から迫る衝撃を受け止めた。

お互いの刃が拮抗し鍔競り合う。

ルーファスは一瞬、手元に引きつけた。

その一瞬の緩急で均衡は崩れる。

ルーファスはハルバートの刃を流し、強引な勢いで馬と老将の体を一息に飛ばす。

それは不思議な光景だった。

赤黒いの雨の中に二つの影がある。

一つは片膝をつき、もう一つは首を失い歩を進めていた。

そして人馬が崩れ落ちると静寂が破られる。

城内からは王国兵の歓喜の声が上がった。


「隊長が勝ったぞ!勝鬨を上げろー!」

「「「うぉおおおー、隊長が勝ったぞー!」」」

「難攻不落のザルツガルドを落としたぞ!」


場内が湧きたつ。

その中で片膝をつく男は冷静に指示を飛ばす。


「伝令しろ、降伏する兵は捕縛、場内の女子供には手を出すな。」


その場にいるすべての王国兵に、このことが伝達された。

ルーファスの勝利、ザルツガルドの占拠、僕たちはこの戦の勝利に沸き立っている。

一方時を同じくして、遠くから軍馬の足音が静かに近づいていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ