7(33).貿易都市バルハンブルクの戦い
ファラルド着任から4日訓練を重ねた。
そして、まだ日の昇らないうちに召集された。
僕たちの前では、ファラルドがこれからの動向を説明する。
「これか物資を運び、本陣に合流します。」
「第一班から第5班は運搬補助、第6班と7班は前方を護衛。」
「第8班と9班はで左、10、11で後方、12,13班は右。」
「残りの班は4小隊と合流し指揮下に。さぁ気楽にいこう!」
朝日と共に5台の荷馬車と兵士たちが王都を後にする。
ファラルドは馬に乗り全体を警戒しつつも、隊員1人1人を気にかけていた。
「大丈夫かいかい。あんまり緊張していると、いざって時に動けないよ。」
荷馬車の御者で手綱を握っているとファラルドから声を掛けられた。
僕は知らぬ顔で気遣いに礼を言うと、彼はこちらに気づく。
「ひどいな~君、魔窟暴走の時の子だよね。一緒に風呂にも入った仲なのにな~。」
彼は覚えていたようだが、嫌な表現をするものだ。
隣に座る女性傭兵は最後の一節で僕を睨む。
僕は何も悪いことはしていないはずだ。
しかし、彼女から僕は罵倒された。
「あなた、ファラルド様の何なの、しかも忘れたふりなんて最低ね!」
彼女の殺気はすさまじい。まだ戦場についていないのに既に戦場だ。
そもそも男同士で風呂に入って何が悪いのだろう。確かに知らないか顔はしたが。
僕はこの状況を打開するべく、ファラルドに謝ることにした。
内容は今回の事ではない、貴族への非礼についてだ。
ファラルドは、笑顔で気にしていないと快く詫びを受け入れる。
その表情に、女性傭兵も満足したのかその場は丸く収まった。
ファラルドは女傭兵を交え少し会話をして、また別の兵士の元へ向かう。
あの時の彼は騎士団で小隊長をしていたという。
彼は魔窟暴走の早期解決で評価され、翌年の御前試合に出場。
好成績を残し、近衛兵団へ栄転したとのことだ。
しかし、何かをぼかしているようにも聞こえた。
僕たちは何事もなく進み本体と合流する。
月は西の空に辛うじてあり、辺りは静けさが包んでいた。
僕たちは、貿易都市バルハンブルクを臨む丘の野営地にいる。
天幕では机を挟み7人の各部隊長が集まり、攻撃をかける貿易都市について論議していた。
会議を進行しているのは、中背で均整野取れた体形の女性騎士アレキサンドラだ。
彼女は騎士団第二中隊隊長で、進軍する部隊の総隊長を務めている。
ゆっくりと東の空がしらけ始め、天幕の明かりは消えた。
アレキサンドラは各隊長に最終確認を行う。
「それでは、日の出とともにラングルス殿率いる第三法術中隊120で東門を攻撃。」
「ルーファス殿率いる第三騎士中隊及び傭兵部隊220で東門破壊を待ち、その後、街へ突入。」
「ゴリアス殿の第四騎士中隊及び傭兵隊200は西門後方の丘で待機、西門が開き次第突入。」
「ザビーネ殿の第四法術中隊120でそれを支援。」
「各隊は、市街地を掌握後、合流しルーファス殿指揮下に入り領主館の制圧に移れ。」
「くれぐれも、市民への危害、略奪行為は禁止だ。」
「ミリアルドは第ニ第四小隊60で東門から逃亡する兵を捕縛、市民は手厚く助けてやれ。」
「リーファ殿の第二法術中隊120と残りの傭兵団は、二手に分かれ両門で、援軍にそなえ待機だ。」
「私は、第一、第三を率いて正門に当たる。以上だ。」
天幕の外では早い時間から兵士たちは仕事をしていた。
辺りを香草の香りが包み食欲を誘う。
ある者は食事をとり、ある者は武器の手入れを、またある者は馬に鞍を乗せていた。
日の出と共に激しい地響きが貿易都市を包む。
巨大な火球群が見張り台を襲い、次々と人影がはじけ飛ぶ。
帝国兵が、城門を魔法土壁で覆うも、間髪入れず、巨大な岩が激しい衝撃と共にそれを襲う。
さらに、王国軍の後方では魔力が急激に膨れ上がる。
帝国兵は城壁から魔力の中心めがけ魔力の火球や岩を飛ばす。
しかし空中で水を孕んだ巨大な竜巻がソレを阻止し消滅させる。
王国軍後方で膨れ上がった魔力は、巨体な熱源となり激しい衝撃と共に城門を貫いた。
王国軍は圧倒的火力で城門を落とすと、喚声と共に兵の波が街に流れ込で行く。
これが大規模魔法による戦闘なのだ。
僕は、街を一望できる後方の丘で息をのんでいた。
まだ太陽は全容を表さない。
やがて街からの喚声が大きくなり、しばらく経つと少し遠のいた。
それから半時もすると太陽は全容を表す。
城門からは敗走兵らしい人影がこちらに向かって来るのがわかる。
ここは僕たちの仕事だ。
僕は必死に逃げ惑う帝国兵を鉈の峰で気絶させていく。
逃げ惑う兵士の動きは予想が難しい。
しかし、彼らには戦意がない分安全ではあった。
後方では、気した帝国兵を縛る姿。
こちらに逃げてくる帝国兵は、踵を返し街に戻る者も現れた。
帝国兵たちは、完全に混乱しているようだ。
太陽が東の空に昇った頃、遠く彼方の丘には少数の騎兵が見える。
アレキサンドラはそれを確認し、兵に号令かけた。
その声で陣形は素早く変化し、敵兵を迎え撃つ体制を整える。
それから半時経っても、お互いの距離は変わらない。
その冷戦とは裏腹に街上空からは、一筋の火球が上がり炸裂する。
その瞬間、王国兵士たちは歓喜を上げた。
「勝鬨だ!勝鬨を上げろ!!」
「「「うぉおおおお!」」」
遠くの丘に陣取る騎兵は踵を返し撤退を始めた。
太陽が西の空に傾くころには、張り詰めていた空気は和らいだ。
王国は貿易都市を占領し、戦線を引き上げた。
戦闘が終わり、僕たちは貿易都市に入場。
僕は兵站の本来の仕事に戻った。
物資を整頓していると、ファラルドが市民に声をかけながら近づいてくる。
「これで補給も楽になるな。明日の進軍分は足りそうか?」
「無ければ倉庫街から持ってくるから言えよ。本部にいるから教えてくれ。」
僕はファラルドに返事をして作業を進めた。
遠くから、コツコツとリズムよく走る足音が聞こえる。
誰かがファラルドを追っているのだろうか。僕は気にせず作業を進めた。
すると後ろから柔らかい衝撃が後頭部を襲う。
その勢いで僕は補給物資の箱に顔をぶつけた。
背後からは聞きなれた女性の声だ。
「ルーシーアーちゃーん!」
後ろから回された腕は逃走を許さない。
僕は首を回し衝撃の主を確認する。
やはりファルネーゼだった。
僕は彼女を思い出しす。
僕の頭を過ったそれは、ファルネーゼの奇行である。
僕は必死に抵抗し彼女を説得する。
しかし、闇を孕んだ笑いと共に彼女は言う。
「安心して。大丈夫だよ・・・うん。大丈夫。フフフッ。」
彼女の脳裏には"合法ショタ"という不思議な言葉が浮かんでいる。
結局、僕の抵抗は空しく、ファルネーゼの"吸い"を受けいれた。
僕の表情は定かではないが、彼女自体に悪いイメージはない。
彼女は少しの間吸うと、僕の頭を撫でてから僕の作業を手伝った。
作業しつつ話を聞くと、彼女は第二補給隊を率いて、これから王都に戻るという。
この発言はある意味で救いだ。
彼女のお陰で作業は早く終わり、僕は彼女と食事をとった。
そして王都へ戻る彼女を見送った。
空はまだ、西の空を赤く染めたばかりだ。




