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6(32).軍属する男の娘

翌朝、入団テストを受けるべく軍事地区にある訓練場へ向かった。

そこは、ルーファスに連れられてきた場所とは違う。

訓練場には仮設のテントが3棟ほど設営されている。

そこには軍服を着た受付が待機していた。

受付には長い人の列ができている。

並ぶ者はヒューマン以外おり、身なりも様々だった。

半時ほど経つと僕の順番が来た。

ここでは適正を調べるようだ。

受付の試験官は、顔を合わせることも無く淡々と作業を進める。


「あー、できる事を申告して、あと名前ね」


僕は、接近での戦闘ができる事、魔力操作ができる事を伝た。

試験官は適当で、魔導具に表示された結果を確認するも顔を合わせることはない。

彼は書類に何かを記載し、僕に指示をする。

彼の指示した先には3つの集団があった。

3つの集団は、見るからにガタイがいい集まり、魔力の大きい物の集まり、そしてどちらでもない者だ。

僕は3つ目の集団へ行くように指示された。

2つの集団は、実技試験を行っている。

試験官と武器を交える者、魔法を使い事象を発現させる者。

片や僕のいる集団は、何もせず時間を待つ。

そして最後まで実技試験が始まる事はなく時間が過ぎた。

太陽は真上に昇り、ようやく動きを見せた。

試験官が僕たちの前に立ち結果を告げる。

結果は合格。入団テストは通り入団を許可されたのだ。

配属は、王国軍独立兵団第ニ傭兵部隊である。

この集団は、流れから予想はしていたが、戦闘がメインではない。

主な作業は兵站だと教わった。

僕たちは軍服の騎士に案内され宿舎へ向かう。

そこには宿舎は2つあり、男女で別れていた。

僕の予想は悪い方にはよく当たる。

想像はしていたが、僕は女性の宿舎を指示された。

僕は試験官の雑さに怒りを覚え、書類を確認するように怒鳴りつけた。

その反応に試験は謝らない。

そして、僕の宿舎を男性側へ変えようともしかなった。

試験官は腐っても貴族、平民に頭を下げ間違いを認めることは無いという事だ。

その状況を遠巻きに見ていた、明らかにガラの悪い冒険者の様な男達が仲を取り持った。

彼らは試験官に金を渡し、僕を男性宿舎へ入れる事を懇願し、僕の男性宿舎入りは決まった。

僕は、ガラの悪い男に礼を言いその場を後にした。

ここの宿舎は奴隷時代と同じ作りで個別の部屋はない。

一言で言えば、大きな倉庫といった感じだ。

僕は荷を置き、体を伸ばした。

すると先ほどの男達が遠巻きについてくる。

彼らの表情は下種そのものだった。

その中で一番ガタイのいい男が近づいてきて、僕に耳打ちする。


「嬢ちゃんも好き者だな。今夜は可愛がってやるよ。」


予想はしていたが、碌なものではなかった。

僕は、両手を男の首に伸ばし、優しく首を絞めるよう首を掴む。

男は、いやらしいク表情を崩した。


「おいおい、もう始めようってか。」


僕は、魔力を調整しながら男に魔力譲渡を行っていく。

男の表情は徐々に恍惚なものに変わる。

先ほどの手前、ある程度はと考えて少しもて遊ぶ。

そして、ゆっくりと気を失させ、その場に転がす。

僕は、男が試験官に払っていた金額を男に投げつけ、宿舎の端へ移動した。

来て早々、面倒ごととは嫌気がさすが、明日からの訓練がこうならない事を祈しかない。

日が沈み、にぎやかだった宿舎も静寂が包んだ。



翌日の訓練は、座学から始まる。

僕たちの前に立つ魔術師風の文官は、王国軍についての説明を始めた。

王国軍には4つに分かれる。

1つは物理による活動を中心とする騎士団。もう1つは魔法による活動を中心とする法術団。

そして、王直属の近衛騎士団。最後に戦時下以外は解体される独立傭兵団の4つだ。

前者2つは、3中隊4小隊編成で1小隊辺り30名で構成。

近衛騎士団は各中隊150名の貴族のみで構成された。

大規模な有事の際は、これに独立傭兵団が結成さる。

最終的に諸々合わせ全体で1500から2000人規模の軍隊になるという。

話をする文官は受付の様な雑さはない。

しかし、農民や、荒くれ者の多い冒険者には良い子守歌にしかならなかった。

それでも文官は気に留めることは無い。

中には最初から寝ている者もいるが、ソレも想定済みなのだろう。

話を聞いている中で、僕は意外なことに気づく。

中隊長の一人はルーファスだった。

僕は、彼が高い立場だった事に驚いた。

講師の文官は雑談の様に彼の話をした。

ルーファスは、生まれを重要視する貴族からは良い顔はされていないという。

しかし、人柄とその実力から多くの軍部や兵から信頼を寄せられているそうだ。

彼は、この戦争で功績を上げると、正式な爵位と領地をあたえられるらしい。

ルーファスの事を話す文官の表情は明るく、彼にとっても良い上司であることが窺えた。

僕はルーファスの話は鮮明に記憶に残ったが、自分に関係ない話をされていると眠くなる。



昼食を終えても座学はまだ続く。

周りを見渡すと誘惑に負けた者がちらほらと目に付いた。

文官は、ようやく僕たちに直接関係のある話を始める。

僕たちの参加する独立旅団は軍司令部直下であり、近衛騎士団二番隊副隊長が指揮するという。

その兼任する隊長はというと、リッケンバッハ公爵の次男で名をファラルドというそうだ。

彼は、槍の名手で魔窟暴走の終息に一役買い、近衛騎士団に抜擢されたという。

そして5年で、中隊の副隊長の座に就いた。

僕は、その隊長と同じ名前の兵士を知っている。

話を聞きながら、共に魔窟暴走に奮闘した同名の兵士長の事を思い返した。

文官の説明はよどみなく進み、兵站部隊の説明に変っていく。

僕たちが配属された兵站部隊の作業は、正規軍の兵站部隊補助と警護だそうだ。

文官は配置されるものは戦闘力の低いものが多いという。

しかし、見回すと獣人族のような身体能力の高い種族もいる事がわかる。

僕には審査基準がわからなかった。

文官が説明を終わると別の講師と入れ替わる。

始まったのは、基礎訓練だの隊列訓練だの物資運搬の講習。

そして、救急の講習だ。

この実技講習の中で救急の講習は僕の記憶に残った。

内容は、傷の手当、骨折の対処、怪我人の運搬方法、そして溺れた者の対処法だ。

知識としては師匠の持つ本にも記載があり知っている。

しかし、実際に体験するのとでは大きく違がった。



3日ほど経ち、見たことのある顔が部隊に顔を見せた。

彼は、爽やかだが捉えどころがない雰囲気で挨拶をした。


「僕が、この傭兵団を指揮するファラルド・リッケンバッハだ。」

「所属は衛兵団第ニ中隊だ。みんなぁ、よろしく。」


あの兵士長だ。相変わらずフランクに接しているが公爵家。その上は王族しかいない。

あの時は無知だったとはいえ、僕の対応はよろしくない。

僕は苦虫を嚙み潰したような表情で彼の話を聞く。

そして、心の中で謝ろうと深く決意を固めた。

そうこうしているとファラルドの話は淡々と進む。

それを聞く女性傭兵は、彼に憧れの眼差しを送る。

妥当だろう、見た目も実力も生まれの全てが完璧だ。

男の僕ですら憧れるし、羨望も抱く。


「君たちは、僕の指揮の元、法術団第四中隊と共に兵站を行ってもらう。」

「あまりないと思うが、戦闘する想定もしておいてほしい。」


ファラルドの話に渋い顔をする者が現れる。

彼らは戦闘し功績を上げたいのだ。

それはファラルドには関係がない筈だが、彼らの矛先はファラルドに向かう。

その意を感じながらもファラルドは意に返すことなく話を進めた。


「あんまり嬉しそうじゃない人もいるね・・・」

「まぁ、功績を上げたいって者には悪いけど、これも大切な仕事だ。」

「僕は痛いのが嫌いだからね。気楽にいこうよ。」


先ほどからファラルドを睨む男は席を立った。

僕にちょっかいを出してきた変態だ。

彼は、周りのガラの悪い連中を煽りつつ、ファラルドにつっかかった。


「アンタみたいなイイとこのお坊ちゃんが俺らの大将で、挙句、仕事は荷物運びかい。」

「あんまり笑わせねーでくれよ! おめぇらもそう思うよなぁー!」


山賊モドキの周囲からは、同意するような声も聞こえる。

山賊モドキはファラルドへ近づき、品定めでもするように彼を睨む。


「もうちっと、はなうあぁ・・・」


山賊モドキは、ファラルドに触れた瞬間、腕を後ろ手にされ床をなめている。

その時、その場の空気は一瞬で張り詰めた。


「オッサン調子に乗んなよ。この程度じゃ、戦場で何もできねーぞ。」

「アンタの実力なんざ、騎士団の新人以下だ。」


馬乗りのファラルドは槍を突き立てる。

槍の穂先は山賊モドキの頬をかすめた。

そして、ファラルドは凍り付いたような笑顔で彼を諫める。

場は凍り付き、山賊モドキに便乗していた者も愚かさを認め静かになった。

山賊モドキを席に戻し、ファラルドは笑顔に戻り話を続けた。


「ハハッ、怖がらせちゃってわるかったね。じゃあ、これからの動きについて話そうか。」


日は沈み街は夜の帳を下すが、鉄を叩く音は止むことはない。

戦火は確実に近づいていた。


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