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37(325).悠久の愛詩

英雄達の帰還から数日後。

後衛部隊に合流していたドワーフ王国の兵士達はラスティを発見した。

そして、彼女の要請を受け武器屋のオヤジことゲルギオスは兵を動かす。

数日のうちに彼女の通った小さな抜け穴は拡張され行動となった。

その結果、ルシア達は地上へと帰還。

ようやく、アナスタシアの迷い森に帰る事が出来た。

湖畔の家に帰り着き、家中のほこりを払う3人。

氷室には何もない。

ラスティは、アリシアに上目使いで視線を送る。


「ウチ、お肉が食べたい!」


「肉か・・・この辺では鹿ぐらいしかいないな。」

「ルシア、頼めるか?」


その返答は、ルシアからではなくラスティだ。


「ウチ、牛が食べたいなぁ?」


「フフッ、甘える様になったなラスティ。」


アリシアは、表情を崩し微笑みを返す。

そこにルシアは声を掛けた。


「町に行こうか。」

「小麦粉も旅の残りしか無いしね。」


「そうだな・・・」

「では、明日にでも3人で行くとしよう。」


アリシアに飛び付くラスティ。

それを撫でる彼女の表情は、慈愛に溢れ明るい。

翌日、3人は森を後にアナスタシアの町へ向かった。

町は未だにお祭りムードだ。

そのせいか、カップルや家族連れをよく目にする。

ラスティは、相変わらす前を駆け回り周囲を観察。

一方、後ろを歩く二人は、どこか落ち着きのある夫婦の様にも映る。

しかし、そこに熟年さは無い。

互いの手が触れ、ぎこちなくそれは繋がる。

そこは、戦闘での出来事とは違う。

二人にとって、これはまだ非日常寄りの日常なのだ。

アリシアは視線をそのままにルシアに声だけ掛ける。


「人前では恥ずかしいものだな。」


「うん、でもいいんじゃないかな。」

「僕は、繋ぐの好きだよ。」


一見夫婦だが、姉妹にも見える二人。

しかし、気軽に声を掛けて良いオーラは一切ない。

それが、落ち着きのある夫婦に見せているのかもしれない。

先を歩くラスティは鼻を上げ匂いを嗅ぐ。

そしてチョコチョコとその匂いに導かれた。

アリシアはその姿に微笑むが、ふと現実に戻る。


「おい、ラスティ勝手に行くな!」


二人は急ぎ小さな小猫を追う。

そこは広場からは少し離れた教会。

雰囲気の違う賑わいは、式を上げる2人を静かに祝う。

その姿に見入るアリシアとラスティ。

ルシアは、そっとラスティを抱き上げた。


「ダメだろ、勝手に行っちゃ。」


「ごめんなさい・・・」

「ルシア達は、何時するの?」


ルシアは、ラスティの視線を追う。

式は進行し、新たな夫婦は、互いに誓いお互いを感じ合う。

そこに投げられる門出を祝う拍手と喝采。

互いに頬を赤らめながらも、家族や友人たちに笑顔を返す二人。

ルシアは、アリシアの胸元のリングに視線を向ける。

そして、彼女に言葉を贈る。


「アリシア、式挙げよう。」

「僕達も、幸せになっていいんじゃないかな。」

「あの夫婦みたいになろうよ。」


「・・・私でいいのか?」


アリシアの手は少し汗ばみ震えがある。

ルシアは、その手を強く握り表情を変えた。


「君がいい。」


二人は、ラスティを抱きかかえたまま抱きしめ合う。

それは新しい夫婦を挟み教会の前での出来事。

その時、白い鳥たちが舞い上がり新たな夫婦、新たな家族を祝福。

ルシアは改めて誓う。


「アリシア、ラスティ。」

「僕は、二人を幸せにするよ。」


「フフッ、頼むぞルシア。」

「では、買い出しの続きだ。」


3人は、食べ歩きながら買い出しを続けた。

アリシアは、相変わらず奇声を上げる。

それは、ラスティにも伝播した。

1人頭を抱える少年も、本心では喜んでいる。

帰り際、ギルドを訪れた3人は、予期せぬ災害に見舞われた。

衝撃は2人を襲う。

それは、悪魔や邪母神のそれと見紛う程だ。

二人はそろって頭を抱えた。

その元凶は、目と眉を顰める。


「アンタ達・・・連絡しろって言ったじゃない!」


目の前では頬を濡らすリーア領領主婦人。

彼女は、熱を持った手を振り冷ます。


「生きてんなら、連絡しなさいよ!」

「どれだけ心配させるの!」


隣で苦笑いを浮かべる巨漢は、手を引く少女に質問される。

少女は、初めて見る3人を不思議そうに眺めた。


「お父様、どうしてお母様は怒っているの?」


「ハハハッ、連絡ってのは大事だって事だよ。」

「パパだって、ママにぶっ飛ばされただろ?」


ライザは、横にいる気の抜けた巨漢の靴をヒールの踵で強く踏む。


「ルーファスのは違うでしょ。」

「もう、涙返してよ。」


二人は。ライザに頭を下げるも一人は腑に落ちない。

アリシアは、その感情を弟子にぶつけた。


「おいライザ、お前は私の弟子だよな?」


「連絡しない師匠が悪いんです。」


アリシアは、腕を組み悩む。

そして顔を明るくした。


「そうか・・・」

「では、急だが私たちは結婚する。」


「はぁ?」


困惑するライザは、状況がつかめていない。

死んだと思った3人が現れ、そして一人は結婚だと告げたのだ。

アリシアは、どこか悪戯な笑みを浮かべ言葉を繰り返す。


「だから、私たちは結婚するのだ。」

「お前が報告しろと言ったではないか。」


「・・・ちょっと、そんな大事な事、なんで立ち話なのよ!」


ライザは、ルシアを睨む。

しかし、彼にはその理由が少しだけ理解できたが知らぬふり。

悪びれることなく笑顔で頷く弟の様な存在に、ため息をつくライザ。

その日は、ライザたちと共にアナスタシアで宿をとった。

次の日、ライザは、ルシアと繋がりがある者達に文を送る。

それは、彼らの生存報告と共に婚姻の報告でもあった。

それから1月ほど過ぎ、アナスタシアの森には人々が集まる。

そこには様々な種族、家柄、本来はあり得ない光景だ。

森の小さな教会(巨木)に鐘の音が鳴り響く。

二人は、静かに歩みを進める。

小さな教会を模した木陰には、神父姿の小さな淑女。

そして、法王ピエトロの姿。

ルシアは、純白のドレスに包まれたアリシアの瞳を見つめる。

そこへ軽い咳払いと共にピエトロは告げる。


「ルシア、汝は主神ヴェスティアの名の下に、アリシアを伴侶と認め愛する事を誓うか?」


ルシアは真剣な表情でピエトロにそして主神ベスティアへ宣言。

それは、アリシアへの強い誓いでもある。


「はい・・・」

「遅くなったね、アリシア。」

「君に気持ちを押し付けることになるかもしれない。」

「それでも僕は・・・僕は君を、アリシアを愛しています。」

「君を今生の伴侶とし、愛することを誓います。」


ピエトロは、ルシアから視線をアリシアに移す。

そして彼女に笑みを向け静かに囁く。


不協和音(不協)が消えたね、アデライード。」

「僕は、君が幸せになれると信じていたよ。」

「君達は素敵な家族だ。」


アリシアの瞳には大粒の涙が溢れだした。

ピエトロは、また軽く咳払いしアリシアに続けた。


「アリシア、汝は主神ヴェスティアの名の下に、ルシアを伴侶と認め愛する事を誓うか?」


そこには彼女にしては何処かしおらしい声。


「はい・・・私も貴方を、ルシアを今生の伴侶とし愛することを誓います。」


ピエトロは、視線を二人に向ける。

そして、仰々しく告げた。


「それでは、互いの指に誓いを。」


ラスティが仰々しく二つの指輪を差し出す。

二人は簡素だが、少し変わった素材の指をを贈りあった。

それは、ヴァーヴルで出来た薄っすら桃色が掛かった銀色の指輪。

ドレス姿のアリシアは、少し中腰になりルシアと視線の高さを合わせる。

ルシアは、優しく手を重ね彼女に指に指輪をはめる。

アリシアは、頬を濡らしながらも悪戯な笑みを浮かべた。

そして、ルシアの指にも同じデザインの指輪を。


「フフッ、今度はピッタリだな。」


「大切な君だからね・・・もう間違わないさ。」

「愛しているよ、アリシア。」


見つめ合う二人、互いに唇の感触を確かめ合う。

その姿を見つめ小さな淑女と小さな修道女は、イタズラな笑顔を浮かべている。

木漏れ日の溢れる小さな教会には動物達も集まり、二人の門出を祝っているかの様だった。

太陽は西の空を紅く染め、月明かりが宴を静かに彩る。

東西の友人たちは、新郎新婦の生存を喜び新たな門出を祝い飲み明かす。

それは、宮廷には無い解放感だろう。

空を彩る星々は、珍しく騒がしい。

空を翔る星々は、まるで二人を祝っているかの様だった。



それから時が過ぎ、各地に勇者たちの詩歌が広まり定着し始めた頃。

湖畔を望む家からは、青臭さと甘い香りが混ざり合う不思議な空気が漂っていた。

窓には柔らかい西日が差し込む。

静かな部屋で横たわる少年は半身を起こす。

弱々しくルシアの声が、寝室から聞こえた。


「・・・今日は暑いな。」


毛布を避けるか細い腕。

あの冒険から、そこまで時間は経っていない。

アリシアは濡れた手を拭い、ルシアに薬を手渡す。


「毛布を掛けてないとダメじゃないか。」


彼女は心配そうに、彼の肩に毛布を羽織る。

そして、彼の手を優しく包む。

ルシアは、弱々しく握り返し、アリシアに視線を返した。


「キミの手はいつも温かいね・・・」


その日、窓辺に飾られた青白い花は静かにその花びらを散らせた。



時は静かに流れ、彼女の頬から涙を乾かす。

彼女は彼を想い、娘を連れ旅に出た。

彼を忘れない様に思い出の地をめぐり、詩歌を広めながら・・・


悠久の時が過ぎ、彼女は髪を染めるのをやめていた。

もう自分を知る者は、誰もいないのだ。

静かに吹く優しい風は、美しい銀色の髪を靡かせる。

夜のとばりも落ち、静かな星空だけが彼女を慰めていた。


~ 第一詩歌集 完 ~ 

お目汚し頂き、ありがとうございました。

これで、ルシアとアリシアのお話はお終いです。


今作が処女作とは言え、諸々至らない部分しかございませんが、

最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。

これからも至らない部分を改善しながら、

2025年中を目標に新しい何かをお届けできればと考えております。

御機会がございましたら、またよろしくお願い致します。

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