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30(318).思いそめてむ人は忘れじ

光無き洞窟を駆ける足音は、静かに闇に響き吸い込まれる。

しかし、そこに一切淀みは無い。

時折聞こえる小さな少女の声。


「足元、気を付けて・・・」

「別れ道だよ。」


声は、僕のフードから聞こえる。

掛けられる言葉に僕は頷き、想い人の魔力を辿る。


「・・・左の方だ。」

「ラスティ、左側へ行けそうな道はあるかい?」


「うん、10時くらい?の方向だよ・・」

「・・・もうちょい左‥‥そっち!」


僕は、ラスティの指示に従い魔力を追う。

闇の中を駆け、洞窟を進んだ。

半時ほど経つと遠くには小さな光。

近づくにつれ鎖の擦れる音と共に、女性の怒声が聞こえた。


「ソラス、何をする気だ!」


「・・・」


「おい、答えろ!!」


怒声に返る視線は無い。

しかし、繰り返される問いにうんざりする魔術師。


「相変わらず煩い女だ・・・」

「私が欲しいのは、貴様の力だよ。その賢者の石のな。」


ソラスはアリシアに背を向け作業を続ける。

その背を睨みつけるアリシアには、男から魔力が漏れている事に違和感を感じた。

その魔力は、上層階へと続き、まるで何かに力を与えているようにも思える。

アリシアは、尚も体を揺らし、拘束に抵抗する。


「賢者の石など、術士の戯言ではないか!」

「世界をどうする気だ!!」


「・・・」


鎖に繋がれたアリシアは鎖を強く引くが、魔力も力も入らない。

空しく闇に響く鎖の擦れる音が、彼女に無力感を与えた。

アリシアは、男に尋ねる。


「貴様の言う賢者の石など私は知らない。」

「欲しければくれてやる。」

「だから ─── 」


彼女の言葉が終わる前に男の笑いは、その言葉を掻き消す。


「だから、解放か・・・」

「クックック、時の流れは恐ろしいものだな。」

「私は、賢者の石・・力が欲しいと言った。」

「奪えるものなら、その様に魔人に命令している。」

「察しろ、アデライード・・・いや、今はアリシアだったか。」

「貴様は、あの時から人ではないのだ・・・誤算だがな。」

「・・・ここ迄言えば、わかるよな・・・・」

「貴様の言う、 ” だから ” は無い。」


ソラスの後方では、ゆっくりと擦れる鎖の音。

しかし、彼の想定外の音が混じる。


「ラスティ、もう大丈夫・・・君は、アリシアの元へ。」


足音は2つに増える。

一つは力強く、もう一つは身を隠す様に静かだった。

闇の奥から投げられる強い意志。


「ソラス! アリシアは返してもらう!!」


足音は早くなり、複数の金属が擦れる音。

僕は武具へ魔力を喰わせる。

それに応える様に全身は赤黒い炎が纏う。

対する魔導士は、細めた瞳のまま口元だけを緩めた。


「器より、貴様を器にするべきだったか・・・」

「まぁ良い、姫共々我が力に変える。」

「・・・ククッ、あの糞女神(くそおんな)・・・終わらせてやるよ。」


呟きの様な声は、僕には届かない。

僕は封魔鬼盾で殴りかかる。


「アリシアを返せ!!」


それは、空を切る。

しかし、まだ打撃範囲に男は居た。

腰を入れ、盾で薙ぎ払う。

打撃は、またも空を切る。

魔導士は消え、後方で現れた。


「フン、才無き者の拳など。」


魔導士は僕に指をさす。

その瞬間、閃光が僕の肩を貫く。

衝撃は、体を浮かせ壁面まで吹き飛ばす。

対面の壁面からはアリシアの叫び。


「嫌あぁ!」


僕の視線は、彼女の声に一瞬奪われる。

そこには、鎖に繋がれた姿があった。

あの時の様に、憔悴はしていない。

僕はラスティに目配り。

そして、直ぐに父親の面影が無い男を睨む。

ソラスを軸に円を描き、男の注意を集める様に言葉を飛ばす。


「なぜ、アリシアを連れ去った・・なぜだ親父!!」

「なぜ、世界を壊そうとするんだ!」


「なぜ、なぜと煩い奴だ・・・」

「お前のオヤジなど、当にこの世には居ない。」

「お前にも分らぬ事では無かろう?」


「・・・」


僕は、彼の視線を集めながら、立ち位置を変えていく。

奴の視界からアリシアは外れた。

僕は盾を改めて構える。

一方、ソラスは笑みを浮かべ魔力を高める。


「何をしようと、もう遅い。」

「お前如き凡人が何をしようと何も変わらん。」


男を中心に広がる魔力。

急に重くなる僕の体。

男は表情を歪め、蔑む様に告げる。


「父子のよしみだ・・・痛みは与えぬ。」


男の翳した手は、僕には視界を覆うように大きく映った。

次の瞬間、僕の魔力は急激に失われた。

同時に、全身を覆う赤黒い炎も消える。

僕は膝を尽き項垂れる。

それでも盾に支えられ、片膝で男を睨みつけた。


「ふざけるな・・・クッ。」


男を挟み、視界に映るアリシア。

彼女の魔力も徐々に失われていた。

男は笑みを浮かべ鼻で笑う。


「所詮、壊れた魔術師。」

「されど、研鑽は認めよう。」

「だがな・・・愚かな器の子、お前はそれ以上でもそれ以下でもない。」

「クックッ・・・私を蔑んだ連中は、こんな気持ちだったのだな・・・胸糞悪い。」

「・・・全てを終わらせてしまおう。」


ソラスは、魔力を更に高める。

男の後方からはアリシアの声。


「やめろー! もう、やめてくれー!!」


僕の視界は、暗い闇へと沈んでいく。

もう魔力も無い、指先も力が入らない。

僅かな視界は傾き、地面の冷たさだけが肌に残る。

洞窟内には、男の高笑いと女性の叫びだけが響いた。


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