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28(316).終末の世界、顕現する邪母神

世界は闇に覆われ、空には赤い稲妻が走る。

大地は悲鳴を上げ、その懐に人々を飲み込んだ。

それは、元凶から遠く離れた東の大地でも出同じ。

蓬莱の山奥で、巫女姿の老婆は西の空を見つめる。


「藻、頑張りなさい。」


同じ様に状況を知る者達は、勇者達の勝利を願い祈る。

一方、知らされぬ者達は、世界の終わりと恐怖。

中央山脈を東西に貫く大隧道の国では、西四国の救援へ向け軍部が動く。

新たな領主となり公務を得た壮年の男は、妻に送り出された。


「あなた、しっかりね。」

「アリシアさんに会ったら、よろしく伝えて。」


「何だよそれは・・・ルシアならまだわかるが、俺がアリシアに言うことなん」

「痛ってえなぁ・・・他の奴らも見てんだぞ。」

「あんまり、どつかないでくれや・・・・」

「まったく、禿ちまうぞ・・・」


新たな軍部の職人長をどつき、笑顔を送るトーア。

その表情に、年甲斐もなく照れ笑いする武器屋のオヤジ(ゲルギオス)


「フフッ、それだけ元気があれば大丈夫ね。」

「あなた、行ってらっしゃい。」


「あぁ、アイツらが埋まっちまったら、掘り出せるのは俺達だけだからな・・」

「考えたくは()ぇがな・・・」

「じゃぁ、行って来るぜトーア、ジェルジア。」


照れ臭い光景に顔を背けるジェルジア。

視線を向けぬまま、父親に声を投げた。


「死ぬんじゃねーぞ、糞おやじ。」

「アタイは、母さんの面倒なんか一人で観たくねえからな。」


「フフッ、だってよ、あなた。」


ゲルギオスは大きな蜥蜴に跨り、背を向け手だけ振る。

彼を中核とした部隊は、ドワーフの国を旅立った。

彼らの向かう先は、雷渦巻く地獄。

オヤジは、その中心を見つめ少女の様な男の無事を願う。



大地の底では、絶望だけがその空間を支配していた。

飛び交う魔法は、ただの視線にかき消され、斬撃は魔人が止めに入る。

表情が無い破壊の女神は魔人に問いかけた。


『"そこの魔人・・・ソラスは何処じゃ。"』


「申し訳ございません。私には分かりかねます。」


女神は、蔑む様に視線を向ける。

しかし、問の答えは変ることが無い。

女神は、牙を剥く有象無象に視線を戻す。

そこには、絶望の中、わずかな希望を抱き挑む者の姿はあった。

一方女神は、表情を変えることなく、羽虫でも払う様に腕を振る。

それは暴風を生み、兵士達を岩壁へと叩きつける。

圧倒的な力の差に、立ち上がることができない兵士達。

女神は、辟易し視線を反らす。

そして、ため息と共に魔人に命令。


『"お前がやれ・・・腕が疲れたわ。"』


「仰せのままに。」


わずらわしい人間たちは魔人に任せた。

女神は、先の事を考える。

それは、どう世界を破壊するかという事だ。

だた、己の力で事を起こしてはダメだ。

彼女の望みは、必死に世界を修復する主神(旦那)の姿。

必死に勤め、一つの事に没頭し輝く表情を見ることだけ。

一瞬、女神には浮世離れした笑みが浮かぶ。

初めて表情を変化させた女神に、魔人は意識を奪われた。

しかし、今そこに在るのは、眉を顰め口をつむぐ不機嫌な女神の表情。

斬撃は、またしても彼の腕を奪う。

カイナラーヤは、唇を噛み魔力を高めた。


「クソ・・・なんだあの女神は。」

「なぜ、俺を睨む・・・」

「俺が無能とでも考えているのか・・・」

「・・しかし、落胆した女神に殺されるぐらいなら・・」

「戻れぬも、致し方あるまい・・・」


魔人は、魔力を高めその姿を変化させる。

その体を2周り程大そして、人の姿を捨て去った。

そして人ならざる者は、驍宗たちに襲い掛かる。

対する驍宗は、魔人の爪を刃で止めた。


「女神ん犬が・・・」

アレ(あい)が解放されたや、貴様(きさん)だってタダではすまぞ!」


「フン、世界が滅ぶはずがなかろう。」

「俺はな、()る前に()られたくは無いんだ。」

「分かるだろ?」


「貴様は、ここで切り伏せっ!」


斬撃は、受け止められるも、魔人の指先を斬り飛ばす。

飛び散る血液は、驍宗の視界を奪う。

その隙をつき、魔人は怯むことなく残る腕をねじり込んだ。

驍宗は呟く。


「間に合わん・・・」


鬼は、衝撃を予想し力を入れる。

しかし、それは発生しない。

そこには、芭紫の姿。

彼女は大小手で打撃をいなし彼を守る。


「驍宗、守りは(わたくし)が!」


「芭紫姉、頼んだど!」


片目を瞑ったままの鬼は、距離感を無視し大太刀で薙ぎ払う。

しかしそれは、魔人には届くはずがない。

防戦が増え始めた二人。

繰り返される攻防の末、芭紫は肩で息を始め、捌きにキレが無くなった。

驍宗は、芭紫の前に陣を取る。


「芭紫姉、下がれ・・・見てられん。」

「芭紫姉が傷つっ姿は、もう見とう無か・・」


「驍宗・・・」

「驍宗!」


意識の外から襲い掛かる爪。

しかし、次に聞こえた物は、芭紫の叫びではない。

視界の外から現れたのは、西の戦士達。


「下がれ、魔王モドキ・・・時間は稼ぐ。」

「下がって、傷を癒せ。」

「ここで、アンタらが落ちたら俺達の負けだ。」

「ゴリアス、俺達は防衛だ。」


「誰に言っとるか!」

「驍宗殿、儂らでは延命が手いっぱい。」

「まして、女神など歯が立たん・・・」

「今は下がれ。」


ルーファスとゴリアスは、大盾を構え魔人の攻撃を受ける。

それは、時に押し返し、時に引き、魔人のリズムを崩す。

その小さな隙を狙い、後方から走り込む二人の影。


「行くよ、レドラム。」


「はっ!」


二人の斬撃は、深く切り込むことは無い。

それは、撹乱することが目的なのだ。

後方に退避した驍宗と芭紫は、戦況を見守りつつ息を整える。

目の前では、魔人と戦う戦士達。

そして、遠巻きに魔術師達は女神に抗った。


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