26(314).最古を祀る祭壇
洞窟を抜けた先に人工的な空間が広がる。
中心に祭壇が設けられ、その奥に巨大な女性の像。
巨漢の鬼は、ため息をつきながら見上げる。
「・・・っかぁーー、首が痛か!」
その姿に目を顰める白狼は、驍宗とは逆に地面へ向けてため息。
「驍宗、歳は取りたくないものだな。」
「せがらしか!」
「 おまんも似たようなモンじゃろ。」
隣では、藻が眉を顰め瞳を細める。
そして、一息つき指示を出す。
「崑崙の方は、祭壇の下を調べておくんなまし。」
後方で騒ぐ2人へ睨みを利かす赤毛のハヌマーン女性。
それらを窘める肌の白い長身の優男は意を返す。
「御意に。」
「・・・お前達、蓬莱の姫に失礼だ・・場をわきまえよ。」
「そうよ・・・豚野郎。」
「あなたみたいな豚には、玄褘様のお言葉は勿体ありません。」
「さっさと、首をお吊りになりなさい・・・邪魔です。」
美斉の無駄に鋭さだけの暴言に眉を顰める沙簾。
相変わらず、どこからくすねて来たのか判らない食料を喰らう剛蓬は呟く。
「何時から、お前が偉くなったんだよ・・・」
「嫌だ嫌だ・・・クチャクチャ・・・自分まで偉くなった気になりやがって。」
「偉えのは・・クチャ・・師匠だろ・・・この糞猿娘が・・・」
「止めなさい、豚・・・色恋の先なんて、そんなもんよ。」
「まぁ、あれでお師匠様もまんざらでも無いんだからいいんじゃないかしら。」
「これも天淵様の言ってらした通りなんだし・・・」
「口は汚いけど、拳は飛ばなくなったじゃない。」
パンを喰い終え、豚足にかぶり付くオーク。
その姿に、沙簾は目を瞑りため息。
「あんた、共食いって知ってる?」
「あぁ?・・・てめぇ、俺は豚野郎であっても豚じゃねえ。」
「ったく、どいつもこいつも碌な奴がいねえな・・・クチャクチャ。」
「はいはい、豚野郎。蓬莱の姫様の指示に従いましょ。」
4人は祭壇の奥へ進み、壁際を念入りに調査する。
魔力探知の光や、壁や床を叩く打撃音が部屋を埋め尽くす。
半時、半日と進む時間に、驍宗は苛立ちを覚えた。
「あぁぁ、面倒じゃ! 像をぶった切って終わりじゃあ、終わり!」
「誤チェストするなよ驍宗・・・」
「上層で破壊した影法師の石像・・・忘れてはおるまいな?」
「フン。 魔力を込むれば空間ごと斬り裂くっ!」
大太刀をポンポンと叩き、構えに入る驍宗。
その後頭部を強くどつく呀慶は、眉を顰め視線を強くした。
「お主は、破壊神か?」
「芭紫殿が泣くぞ・・・」
「泣いちょるって姉貴が?」
「そげんこっは無かど、なぁ、芭紫姉?」
驍宗の言葉に声だけを返す芭紫。
彼女は、藻と共に彼らとは反対側の壁をを探している。
その表情には、彼への同意も会話への興味もまったくない。
「驍宗、真面目におやりなさい。」
「あなた方のお話を聞いていると、どちがら犬か分かりかねますわ。」
驍宗は、呀慶に眉を顰める。
そして、犬の鳴きまね。
白狼は、深いため息と共に目を瞑り眉を顰める。
一通り部屋の中を調べた一行は、祭壇の前に集まり状況を整理。
この部屋を後に、本体へ合流することにした。
呀慶は、やり場のない感情をため息に変える。
そしてゆっくりと視線を藻へと向けた。
そこに返る藻の表情は、どこか不安そうな造られた笑顔だ。
「藻様・・・何か気になる事でも?」
「いえ・・・何もありんせんが・・・」
「不安は誰にでもございます。」
「悪い事ではございません。」
一行は、人工の廊下を抜け、自然洞窟へと差し掛かった。
遠くには、魔導の明かり。
駆け付けたのは兎月だった。
「呀慶様・・アリシア様が・・ルシアとラスティちゃんが・・・・」
「落ち着け、落ち着くんだ。」
「ほれ、深呼吸・・・・・・・どうだ?」
促されるまま兎月は、息を吸いゆっくりと息を吐く。
そうこうしているとファルネーゼ達本体も到着。
話を受け、呀慶は表情を鋭くした。
「不味いな・・・」
「呀慶様、アリシアさん達を助けて!」
兎月は、驍宗に縋る様に懇願。
対する呀慶は、視線を兎月から祭壇部屋があるであろう闇に向ける。
「・・・あぁ、わかった。」
「お主は、後方へ下がれ・・奴らの事はどうにかする。」
洞窟の分岐を確認した部隊も本体へ合流。
行き場のない一行は、また祭壇へと戻ることに。
何も起こらない道中は、逆に精神を削った。
祭壇部屋へと戻ると、藻は異変に気付く。
彼女の指さす先には3つの影。
一つは、悪夢を作った魔人。
もう1つは、魂が抜けた様に虚ろな表情の女性。
そして、ブツブツと何かを詠唱している術士だ。
藻は、驍宗に視線を飛ばす。
しかし、そこに鬼の姿はもう無い。
走り出した鬼は叫ぶ。
「呀慶、加護じゃ!」
「オン・シュチリ・キャラロハ・ウン・ケン・ソワカ!」
「行って来い、驍宗!!」
「藻様、合唱を!!」
「ナウボウアラタンナウ・タラヤヤ・ノウマクシセンダ・マカバサラクロダヤ ーーーーーーー」
藻は呀慶の叫びに従い呪言に合わせ魔力を同調させていく。
一方、飛び出した驍宗の姿は消る。
次の瞬間、爆発音だけを残し大太刀が術士を襲う。
「けしみ晒せ!」
しかし、それは叶わない。
黒光りした剛腕がそれを受け止めた。
「何と口汚い・・・それでも守り人か?」
「守る事は、騎士たるものの勤め・・・」
「優雅に振る舞えぬ者が、守り人であって良いはずがない!!」
振り払われる剛腕は、風切り音を立てて驍宗を吹き飛ばす。
後方に退く驍宗は、軸をずらし魔人の隙を伺う。
だが、彼の視線は、魔人越しに術者を狙う。
「気持っ良さそうに唱えてやがっ。!」
「芭紫姉、頼ん!!」
「お任せなさいまし、あなたは術士をおやりなさい!!」
芭紫は、魔人の横から二人の間に割り込んだ。
放たれた魔人の腕は、彼女の大小手に吸い込まれる。
そして、いなされ体勢を崩す魔人。
「お沈みなさいまし。」
芭紫の打刀は鞘を走る。
剣閃は消え、鞘口には爆発音だけが残った。
打刀の刃は白熱。
逆袈裟に走り終えた刃は、青紫の液体をまき散らす。
魔人を置き去りに、驍宗は大上段に構え魔力を込める。
そして、音を残し白熱した刃が現れた。
「チェストォォォーーー!」
「鬼如き、止めぬわけが無かろうが!!」
空中で足を掴まれた驍宗は、そのまま地面へと叩きつけられる。
顔面から着地した驍宗の口からは赤い血が滴る。
視線を向けることなく、二人の間に入る芭紫。
「驍宗・・大丈夫ですか?」
「あぁ、芭紫姉、奴っから切っしかなさそうじゃな・・・」
一瞬の出来事に戸惑う東西の戦士達。
それでも、玄褘は指示を出す。
「美斉、剛蓬、頼めますか?」
「クチャ・ゴクッ・・待ってたぜ師匠。」
「沙簾、援護だ!」
手を服の裾で拭き、釘鈀に魔力を込める。
その姿を睨む美斉は、眉を顰め怒りの矛先を魔人へと変え呟く。
「玄褘様は私だけのモノ・・・一番は私。」
「まずはアレ・・・豚は後でいいわ。」
「起きなさい、金箍棍!」
膨大な魔力が棒状の武器に吸われていく。
直接的な変化は分からないが、美斉の腕に浮き上がる血管。
そして、彼女の靴は地面に沈む。
玄褘は、兄弟子に言葉を投げる。
「呀慶様、あの畜生は我々が引き継ぎます。」
「驍宗様たちを術士へ!」
「相分かった。」
「驍宗! 術者を討て!!」
「魔人は美斉らが抑える。」
「「ナウボウアラタンナウ・タラヤヤ・ノウマクシセンダ・マカバサラクロダヤ ーーーーーーー」」
駆けだす男女は魔力の光に包まれる。
風の様に呀慶を掠め声だけを残す。
「任せっ!」
「芭紫姉、奴を斬る抜けっ!!」
「わかりました、道は私が切り開きますわ!」
魔人の攻撃を芭紫がいなし隙を作る。
その間、魔力を溜め独特の動きで精神を集中する驍宗。
そして、覇気と共に叫ぶ。
「避けっ、芭紫姉!!」
声を返すことなく射線を開ける芭紫。
出来た空間には、爆発音と鉄の焦げる臭い。
次の瞬間、魔人の背後で納刀する驍宗。
空中には、魔人の腕と駆け付けた美斉。
魔人の眉は動く。
一方、美斉は叫び、金箍棍を振り下ろす。
「はぁぁぁぁーーーー!」
加速する金箍棍。
それは、次第に大きさを増し、さらに加速。
金箍棍は、魔人の頭を捉え、加速した質量が襲う。
鈍い音を立て魔人の首は曲がり、下半身は地面へと突き刺さる。
さらに終わる事の無い連撃。
そこに加わる剛蓬のフルスイング。
「異界に変えれやぁあ!!」
しかし、体が引きちぎれることは無い。
魔人は、曲がった首をその筋肉だけで強引に戻す。
「・・・フン、獣がほほざくな。」
どう見ても折れている首は、皮を突き破り骨が露出している。
その異様さに眉を顰めるファルネーゼ。
「何よアレ・・・どうして真っ直ぐに戻んのよ。」
「・・・レドラム・・・アンタも出来んの?」
「・・・俺は人間です。」
青ざめる西の戦士達は、各々の方法で自身を奮い立たせる。
戦況は良い方向へ動いている様に思えた。
しかし、次の瞬間リーファの声が絶望を呼ぶ。
「何よあの結界・・・反則じゃない・・」




