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312/325

24(312).始まりの贄

朝餐の中、壁際に造られた魔鉄の檻。

そこには、蹲り爪を噛む女性の姿。

彼女に近づく鉄靴の音は、他の兵より軽い。

囚われたカーミラの前に一人の女性兵。

差し出される食事は雑に渡される。

少し冷えたスープは彼女の手に掛る。

カーミラは眉を顰め、いつもの様に怒号を飛ばす。


「ちょっと、何のつもりよ!」


「アンタ、何様よ・・・」

「・・・アンタのせいで・・・トーマスは。」


目の前で変わる形相に、カーミラは目を細める。

そして、眉尻を動かす。


「何いきなり泣いてんのよ・・・訳分んない。」

「どうでもいいけど、あっち行ってくんない?」

「目障りよ・・」


壁に視線を向け食事を始めるカーミラ。

その背を見つめる女性兵は、格子を強く握りしめる。


「アンタに・・・彼を奪われた・・・」


「は? 誰よ?」

「そもそも、アンタの彼なんて知らないわ。」


ぶつけられた声に、動じることなく背を向け続けるカーミラ。

食事を続ける姿に、眉を顰め目を見開く女兵の声は大きくなる。


「アンタが募集した研究助手よ!」


新たに投げられた情報に眉尻を上げるカーミラ。

しかし、視線は依然として壁を見つめている。


「・・・?」

「研究助手なんて雇った覚え・・無いわ・・・・」

「いや、助手・・・フッ、被験体のことね。」

「アンタ馬鹿? 被験体は研究者じゃないの、おわかり?」


女性兵士は、彼女から洩れる嘲笑を振り払う様に腕を薙ぐ。

それは格子に触れ、軽い金属音を響かせた。


「助手も被験体も一緒よ!」

「彼は、日を重ねるごとに変な笑顔であなたの名前を呼ぶ様に変わって・・・」

「私の前からいなくなった・・・返してよ!」


女性兵士は、縋る様に格子を掴む。

そして、徐々に崩れ落ち咽び泣く。

後方に控えていた二人の兵士は振り返り、二人へ視線を向ける。

そして崩れ落ちた女性兵を見つめ、それ以上の事など起こらないと考え反転。

崩れ落ちた女性兵に視線を落とすカーミラはゆっくりと近づいた。


「アンタが捨てられただけじゃない。」

「そんな事、私は知らないわ。」


俯く女性兵の涙が地面を濡らす。

静かなため息が後方の兵士からは漏れた。

すすり泣く彼女は、そのまま話を続ける。


「荷物だって残っているのに・・・何処にやったのよ・・」

「トーマスを返して・・・・・返してよ・・・」


腕を組み、嘲笑を浮かべるカーミラは意識を思考へと向ける。

そして一度鼻で笑い、崩れ落ちた女性兵へ言葉を投げた。


「フッ・・・そういうこと。」

「彼は、いい結果が出てたみたいね。」

「なら、兵士として死んだんじゃないかしら。」

「ほら、こないだの戦争・・・」

「もしかしたら、アンタ達がこの洞窟に入る前に戦った中にもいたかもしれないわ。」

クフフッ、残念ね。」


首をゆっくりと上げる女性兵士。

その瞳には強い憎悪の光が宿る。


「・・・」

「許さない・・・」


嫌な金属音を立て飛び散る火花。

鈍い音と共に崩れ落ちる女性。

一方、それを見つめながら壊れた笑みを浮かべる女性。

後方で控えた兵士達は、女性兵を取り押さえる。

どこか耳障りな笑い声は、聞く者に悲しみを与えた。

カーミラは、自らの腹部を押さえながら思考するが、うまくいかない。

その手には人の温もりを感じるが、全身の力は抜けていく。

そして、その温もりは寒さへと変わった。

意志に関係なく体は泥の様に崩れ、傾いた視界は狭く暗い。

意識が薄れる彼女の瞳には、ぼやけて浮かぶ人影が一つ。

それは、目の前の兵士達には見えていない。

あの時、死んだはずの魔人が目の前で佇んでいた。


「・・・たす・・けな・・さいよ。」


口からは、血が溢れ、壁際に造られた魔鉄の檻。

そこには、蹲り爪を噛む女性の姿。

彼女に近づく鉄靴の音は、他の兵より軽い。

囚われたカーミラの前に一人の女性兵。

差し出される食事は雑に渡される。

少し冷えたスープは彼女の手に掛る。

カーミラは眉を顰め、いつもの様に怒号を飛ばす。


「ちょっと、何のつもりよ!」


「アンタ、何様よ・・・」

「・・・アンタのせいで・・・トーマスは。」


目の前で変わる形相に、カーミラは目を細める。

そして、眉尻を動かす。


「何いきなり泣いてんのよ・・・訳分んない。」

「どうでもいいけど、あっち行ってくんない?」

「目障りよ・・」


壁に視線を向け食事を始めるカーミラ。

その背を見つめる女性兵は、格子を強く握りしめる。


「アンタに・・・彼を奪われた・・・」


「は? 誰よ?」

「そもそも、アンタの彼なんて知らないわ。」


ぶつけられた声に、動じることなく背を向け続けるカーミラ。

食事を続ける姿に、眉を顰め目を見開く女兵の声は大きくなる。


「アンタが募集した研究助手よ!」


新たに投げられた情報に眉尻を上げるカーミラ。

しかし、視線は依然として壁を見つめている。


「・・・?」

「研究助手なんて雇った覚え・・無いわ・・・・」

「いや、助手・・・フッ、被験体のことね。」

「アンタ馬鹿? 被験体は研究者じゃないの、おわかり?」


女性兵士は、彼女から洩れる嘲笑を振り払う様に腕を薙ぐ。

それは格子に触れ、軽い金属音を響かせた。


「助手も被験体も一緒よ!」

「彼は、日を重ねるごとに変な笑顔であなたの名前を呼ぶ様に変わって・・・」

「私の前からいなくなった・・・返してよ!」


女性兵士は、縋る様に格子を掴む。

そして、徐々に崩れ落ち咽び泣く。

後方に控えていた二人の兵士は振り返り、二人へ視線を向ける。

そして崩れ落ちた女性兵を見つめ、それ以上の事など起こらないと考え反転。

崩れ落ちた女性兵に視線を落とすカーミラはゆっくりと近づいた。


「アンタが捨てられただけじゃない。」

「そんな事、私は知らないわ。」


俯く女性兵の涙が地面を濡らす。

静かなため息が後方の兵士からは漏れた。

すすり泣く彼女は、そのまま話を続ける。


「荷物だって残っているのに・・・何処にやったのよ・・」

「トーマスを返して・・・・・返してよ・・・」


腕を組み、嘲笑を浮かべるカーミラは意識を思考へと向ける。

そして一度鼻で笑い、崩れ落ちた女性兵へ言葉を投げた。


「フッ・・・そういうこと。」

「彼は、いい結果が出てたみたいね。」

「なら、兵士として死んだんじゃないかしら。」

「ほら、こないだの戦争・・・」

「もしかしたら、アンタ達がこの洞窟に入る前に戦った中にもいたかもしれないわ。」

クフフッ、残念ね。」


首をゆっくりと上げる女性兵士。

その瞳には強い憎悪の光が宿る。


「・・・」

「許さない・・・」


嫌な金属音を立て飛び散る火花。

鈍い音と共に崩れ落ちる女。

一方、それを見つめながら壊れた笑みを浮かべる女性。

後方で控えた兵士達は、女性兵を取り押さえる。

どこか耳障りな笑い声は、聞く者に悲しみを与えた。

カーミラは、自らの腹部を押さえながら思考するが、うまくいかない。

その手には人の温もりを感じるが、全身の力は抜けていく。

そして、その温もりは寒さへと変わった。

意志に関係なく体は泥の様に崩れ、傾いた視界は狭く暗い。

意識が薄れる彼女の瞳には、ぼやけて浮かぶ人影が一つ。

それは、目の前の兵士達には見えていない。

あの時、死んだはずの魔人が目の前で佇んでいた。


「・・・たす・・けな・・さいよ。」


"契約の報酬を頂く・・・汝との契約は終わった。"


「・・嫌・よ・・・嫌ぁーー!・・・」


それは、カーミラから呼吸奪う。

血溜まりの中心で瞳から光を失くす女。

それは血だまりに沈み消える。

そして、それを追う様に血だまりへ飛び込む魔人。

その瞬間、空間に禍々しい魔力が広がった。

そこに響き渡る男の声。


『カイナラーヤ、賢者の石を連れてこい。』


地面から生える様に姿を現す魔人。

それは1体ではない。

次々と現れる異形の存在。

それは周囲を薙ぎ払い、血の雨を降らせた。

朝餐は惨劇へと変わる。

そこには、驍宗たちの姿は無い。

彼らは、先発部隊として既に攻略を始めている。

悲鳴の中、響き渡る凛とした女性の声。


「戦士は、防壁を作れ!」

「術士は距離を置き戦士へ加護だ!」


ファルネーゼは、檄を飛ばす。

そこには、先ほどまでのやさぐれた彼女はいない。

その姿に、笑顔を溢すミランダは、料理人たちをまとめる。


「アンタ達は、陣形の中心に移動するの!」

「兵士達の邪魔だけはするんじゃないわよ!!」


魔人たちの激しい攻撃を耐える兵士達。

血の雨は止み、戦闘は硬直する。

それは、ファルネーゼの指揮もあるだろう。

ただ、彼女の意を汲むルーファスやリーファ、ファウダの将達の働きもあっただろう。

僕は舞姫を抜き放ち魔力を込める。


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