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4(30).姉の想い、オヤジの記憶

ライザを担ぎ、ミランダに案内されてライザの家に向かう。

街の光は消え、静かな時間だけが過ぎていた。

すれ違う人々は、僕たちを微笑ましく見ている。

背中からはスヤスヤとライザの寝息が聞こえた。

家に着き、肩を揺らすとようやく反応する。

ライザは反応するが、起きる気配は全くない。

ミランダは明日の準備もあるからと、ライザを託し帰ってしまった。

僕は鍵を開け、ライザの家に入る。

5年ぶりのライザの家は以外にも整頓されていた。

しかし、彼女の部屋は彼女らしい荒れ具合だ。

僕は、ライザをベットに寝かせ、どうするものかと思考する。

鍵を開けたまま帰ることは心配でできない。

とりあえず、椅子に座り彼女が起きるまで待つことにした。

だんだん眠気が強くなる。

どのくらい時間が過ぎただろうか、窓から日差しが差し込み、小鳥のさえずりが聞こえる。

少し経つと二階が騒がしくなりライザが起きてきた。


「フフッ、ルシアだ。昨日はごめんね。ちょっと待ってて。」


彼女はせかせかと身支度を整えて台所へ入って行く。

まな板を叩く音が心地よかった。

次第に芳ばしい香りが部屋を包んだ。


「ご飯、食べてくでしょ?」


ライザは朝食をテーブルに置くと、紅茶を飲みながら師匠からの手紙を読み少し考える。

彼女は机に両手で頬杖をつき、食事をする僕に質問を投げた。


「ルシア、アンタこれからどうすんの?」


僕は母の墓に行くことを彼女に伝えた。

彼女は少し目を細め、口を横に強く閉じ別の答えを求める。


「それもいいわね。それはいいんだけど、仕事はどうするの?」


彼女が求める回答は、これからどう生きていくのかだった。

僕は、ライザと話していると思考より感情が先になってしまう。


「まだ考えてないんだ。一応お金はまだあるし、依頼を受ければ何とかなるかなって。」


ライザは少し不安な顔をし、僕を諭すように話を続けた。


「冒険者は危ないよ。わかってると思うけど・・・」

「それと、これから戦争が激しくなると"まち"の出入りが厳しくなるわよ。」


彼女の言う事はもっともだ。すでに移動は制限され始めている。

僕の様に冒険者という身分が不明瞭な者は特にそうだろう。

彼女は、片腕で頬杖をつき視線を斜め上に流す。


「そうだ、私の助手でもやる?」

「人手があった方がありがたいし、たぶん大丈夫だと思うけどどう?」


僕は彼女の提案が嬉しかった。それでも師匠の言葉に従いたい。

師匠の発言にはきっと意味がある。

僕は食事を終え、悩みながらライザの提案に返答する。


「ライザ、いつもありがと。」

「でも、ライザには師匠を紹介しもらってるし、何度もライザに頼るのは悪いよ。」

「師匠から雑だけど課題も出てるし、国仕えになるんだったら自分の力で入りたいかな。」


ライザは少し残念そうだが、嬉しそうにそして優しく視線を送る。


「そっか、じゃあしょうがないか・・・お姉ちゃんフラれちゃったな。フフフッ。」


僕は彼女と食器を片付ける。

そこには5年前から変わらない彼女の後ろ姿。

ゆっくりした時間が進み、気づくと僕は彼女の部屋の掃除をしていた。

窓から差し込む陽の光は傾斜を強める。

僕は昼食を作り、そしてライザと一緒に食事。

そこには、いつの間にか彼女の世話をしている自分がいた。

それは強制されたわけではないが、逆らえない何かが存在する。

僕は、ライザにお礼をしてライザの家を後にした。

玄関まで見送りに来たライザは、思い出したかのように言う。


「そうだ、ルーファスにも会っていきなよ。」

「今は軍の遠征で家にいないけど、明日には帰ってくるはずだよ。」

「アイツの家は、あそこにちょっと見える青い屋根の家よ。 」

「それと、時々顔見せなさいよ。何もなければ5年も連絡ないんだからぁ。」


彼女の笑顔は外の寒さを忘れさるほど優しかった。

きっと僕に姉がいたらこんな存在なのだろうか。

それは師匠に感じる想いとは少し違う。

太陽は低く、肌寒い、重苦しい雲が北の空を覆っていた。



翌日、鉈を買った武器屋を訪れた。店内は相変わらずだった。

だた、奥の棚は空になっている。


「いらっしゃい、初めてか?」


武具屋のオヤジはコチラをなめるように見ると、腰にある鉈を見て僕を思い出す。


「おぉ、あん時の嬢・・・小僧か。」

「いっこうに顔出さねえから、死んじまったもんだとばかり思ってたぜ。」

「今日はどうした。俺に会いに来たわけでもあるめぇよ。」


5年前と変わらず、濃いオヤジだ。

もちろん、1度あっただけのオヤジに会いに来たはずがない。

僕は苦笑いを浮かべ、オヤジに依頼をする。


「武具の整備を頼みたい。」


僕は鉈と盾、鎧をカウンターに置く。

オヤジは渋い顔で独り言を言いながら見分する。


「ほお、大分くたびれちまったな・・・」

「ふむ、手入れはちゃんとしてたんだな・・・いい心掛けだ。」


一通り確認すると、渋い顔が一転し明るい表情に変わる。


「おめぇ、大事に使ってんだな。俺はうれしいよ。」

「そうだな、この程度なら大して時間は掛からねぇな・・・半日もありゃ終わるわな。」


オヤジの表情は少し曇った。僕の鎧の表面を指で優しく撫でている。

僕は、オヤジにヤバい趣味でもあるのかと、ジトッとした目でその顔を見つめた。

すると、オヤジの表情は苦笑いに変わる。


「鎧は買い替えた方がいいな。直せねぇわけじゃねえが、もう強度の担保ができねぇ。」


ミノタウロスの攻撃が効いているのだろう。撫でている場所はそこだ。

僕はオヤジに新しい鎧を見せてもらうことにした。


「おいオヤジ。なんだこれは。」


オヤジは頭を掻き、笑いながら答える。


「おめえは胸がねえからな。今、流行りのデザインだとこんなとこだ。」


そうではない、基準が狂っていた。

なぜ肩が出ている。なぜ首元と胸の間の生地が透けているのだ。

僕はオヤジを睨み、数ある問題点を指摘する。

しかし、オヤジは悪乗りするかのように別の装備を提示した。


「じゃあ、これならどうだい。少し値は張るが、魔力の強化効果も付いている。」


聞く限り性能は良いし露出もない。男女共有のデザインにも見える。

僕はとりあえず試着した。

見た目はやはりというべきだった。

ショートケープで可愛く肩を覆い、ワンポイントにリボン。

腕は動きやすく7分丈。全体の丈も腰を少し覆うぐらいで動きを妨げない。

オヤジの視線は満足げだ。

腹立たしいが性能面では今の倍以上だという。

この流れは前と同じ気がしたが、同じ価格帯の男性用ではこの性能は出せない。

オヤジが言うには、この装備は僕の装備と同じ者の作品だという。

今の装備も使って分かったが、使用者の事を考えられていた。

正直悪くないというよりも、むしろよかった。

悩む姿をオヤジは逃さない。

この装備は流行りから外れていた為、1割負けてくれるという。

僕は考えるのをやめた。


「全部で銀貨10枚と銅貨30枚ってとこだな。気になる所はあるか?要望は聞くぜぇ。」


僕は、盾を打撃武器として使っていることを伝えグリップを硬くしてもらうことにした。

そして、防具のリボンを外してくれと依頼する。

するとオヤジは首を横に振った。

それは、このリボンが魔力強化になっているという。

僕は心底作者を恨んだ。

お金を渡すと。おやじは武具を店の奥にもっていく。


「明日の今頃取りに来いや。」


僕は店を出て、街を散策し宿へ帰る。

道すがら武器屋の前を通ると、金属を叩く高く澄んだ音が風景に彩を与えていた。


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