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20(308).想いの篝火

洞窟内に築かれた新たな拠点には、何処か寂しさを与える紫の灯火。

煙無き炎は、静かに揺らめき兵士達に光だけを与え、そこに癒しは無い。

それでも、食事は出来る。

拠点の中心には、料理人が集まり魔道具を利用していた。

僕は、ため息と共に長椅子に腰かける。

後方からは、チョコチョコと駆ける2つの影。

勢いよく飛び付いたのは毛玉の淑女だ。


「だたいま、ルシア!」


「お帰り、ラスティ!」

「怪我はない? ご飯は食べれてた?」


「フフッ・・なんか、照れちゃうな。」

「ウチ、元気だよ。 ご飯もいっぱい食べた!」


懐かしい感触が首回りを覆う。

僕は、そっと彼女の背を撫でた。

少し遅れて、もう一つの小さな影が隣に座る。


「ルシアさん、お帰りなさい!」


「フフッ、ありがとナナイちゃん。 ただいま。」


小さな修道女は、目を煌めか毛玉に視線を送る。

その視線に毛玉も気づき顔を向けた。


「あっ! ナナイちゃんだ!!」


「やっぱり、ラスティちゃんだ!!」


毛玉の淑女は僕の首を離れ、二人の間に潜り込む。

小さなお尻は狭い空間に収まるも、やはり狭い。

僕は、ラスティへ声を掛けた。


「ラスティ、仲良くしているんだよ。」

「僕は、ご飯を持ってくるね。」


「うん、ありがとルシア!」


僕は、視線を小さな修道女へと向ける。


「ナナイちゃんも、まだだよね?」

「嫌いな物はあるかな?」


「あたしは・・・大丈夫・・」


少しだけ俯く小さな修道女。

僕は、優しく頭に手を置く。


「いいんだよ。」

「子供が大丈夫なんて言っちゃダメだよ。」


「あたしも一緒に食べていいの・・・?」


「いいに決まってるよ。」

「ここに居る人たちはね、明日がある確証なんて無いんだ。」

「それは、支援部隊の君も一緒・・・ごめんね、怖い話しちゃったね。」

「君達は、僕が必ず生きて帰すよ・・・必ずね。」


小さな聖女は、不安そうな表情で見つめる。

僕達の間から飛び出す様に顔を出すラスティ。


「ナナイちゃん、ルシアは守るよ・・・約束。」

「だって、ウチの大事な家族だよ。」

「ボロボロになっても、約束守ってくれたし。」


「・・・うん。」


両手を握り合う小さな淑女たち。

どこか絵本の一幕の様に温かい光景に僕は表情を崩した。

同じように、小さな修道女の表情は明るく変わる。

しかし、少しだけ恥ずかしそうだ。

僕は、首を傾げ目を瞑る。

似た姿を時の彼方で、今もなお色あせない記憶に見つけ出す。


「ナナイちゃんは、ダメな物はあるかな?」

「・・・僕はね、香りが強くて苦い野菜が苦手なんだ。」


「・・・フフッ、あたしは辛いのが苦手。」

「でも、すーききょー様がね、大きくなれないから残したらダメって・・」


「じゃあ、辛いのは無しにしよう。」

「無ければ、残すことも無いからね。」


「うん! ありがと、ルシアさん。」


僕は二人をやさしく撫で席を立つ。

足お向けた料理人たちの戦場には、聞き覚えのある懐かしい奇声。

僕の足取りは、次第に早くなった。


「んーーー! 美味いなー!」

「オヤジ、3人分だ!!」

「んーーー! 美味い!」


「アンタ、喰い過ぎじゃねえか?」

「幾ら死地でも、一人で3人分は頂けねえよ。」


「よく見ろ、私は独り身ではない。」

「家族だっている・・・ほら、ここだ・・・」


長身の浅黒いエルフは、肩掛けを見せる。

しかし、そこには、先ほど修道女から貰ったパンが半分だけ。

オヤジは覗き込み、ため息。

そして眉を顰め、女性の顔を下から覗く様に視線を動かす。


「ただのパンじゃねえか・・・」


「ラスティがパンに食われた・・だと・・・」

「いや、それは無いか・・・」

「おい、オヤジ・・・小さな少女を知らないか?」


僕は、料理人と口論するアリシアに声を掛ける。

無意識に頬を伝う僕の涙と裏腹に、アリシアは加勢だとばかりオヤジをまくりたてる。


「ルシア、探したぞ・・・まったく。」

「ほら、見ろオヤジ。私の連れだ。」

「私には家族がいる・・・さぁ、人数分頂こうか?」


「・・・はぁ、で娘と2人分でいいのか?」


「いや、娘と3人分だ。」

「・・・こいつは娘じゃない・・・なんだ・・・」

「世間でいう彼氏?」

「いや、ミーシャ嬢から了承もあった気がするしな・・・」

「という事は・・・フフッ、もう夫かもしれない!?」

「もぉーー、恥ずかしい事を言わすなよオヤジ!」


少しだけ赤らめた長身エルフは、その腕の長さを利用し手の平を加速させる。

それは空を切り、ためらいなくオヤジの肩へ吸い込まれた。


「ぬうぉおおおおああぁぁぁぁぁ!」


野太い叫び声は、衝撃音と共に薪の崩れる音へと変わる。

何故か顔を覆うアリシアに、僕はため息をつく。

そして、オヤジの元へ。


「ごめんね、料理人のおじさん。」

「僕達3人家族なんだ・・彼女の言っていることは本当だよ。」

「で・・実は4人分にして欲しいんだよね。」

「・・・嘘とか、たかりじゃないよ。」


「いててて、わかったよ。」

「さっさと持って、どっかに行ってくれ。」

「ラスティさんよぉ、アンタの母親か姉か知らんが・・」


「フフッ、ラスティは僕の娘だ。」

「彼女は・・・まだ妻じゃないけど・・・」

「僕にとって掛け替えの無い大切な女性さ。」


「あんた、その成りで男かよ・・・ってかお前、幾つだ?」


オヤジは、アリシアを見つめる僕の横顔に声をぶつける。

しかし、僕の耳には、ほとんど入っていない。

返答を諦める様にオヤジはため息をつき背中を払う。

そして、ゆっくりと料理場へと戻った。


「ほれ、デカ女。 4人前だ。」

「彼氏と仲良くな・・・・さぁ、いったいった。」


「4人前・・・?」

「 オヤジ、突き飛ばしてすまなかった・・・」

「しかし、頭は大丈夫か?」


アリシアの言葉に血の気をたぎらせるオヤジ。

僕はアリシアの背を押し、そそくさとその場を後にした。

無意識につなぐ手には、久しぶりの彼女の温もり。

何気ない事だが、僕はこの時間が愛おしく思えた。

前を歩くアリシアは、僕の好きな表情で手を引き声を掛ける。


「ルシア、ただいま・・・恥ずかしいな、こう改まって言うと・・」


「・・・そうだね、お帰り、アリシア。」


「フフッ・・・あっちの料理も持って行こう!」

「ラスティが喜ぶぞ。」


久しぶりに見る彼女の笑顔。

僕は、もうこの笑顔を失いたくはない。


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