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19(307).魔導の極致

洞窟を進む先には、何処か甘ったるい空気を感じた。

進むごとに感じる違和感は、やがて真実を見せる。

僕は、後に続くファルネーゼ達に声飛ばす。


「ファルネーゼ、これ以上はダメだ。」

「サラマさん達が配ってた魔導具をしっかりと握ってて。」


「わかったわ、ルシアちゃん。」

「貴方は、どうするの?」


僕は、彼女に振り返り、笑顔を返す。

そして盾を軽く叩く。


「僕には、魔法も装備もある。」

「この先は、僕に任せて。」


「無理はしないでね。」


ファルネーゼは、振り返り二体を制止させる。

そして、僕の言葉を部隊へと伝えた。

僕は振り返る事無く、先発部隊の最前列へと走る。

そこには、女性を抱きしめ魔力の炎に包まれたサラマの姿があった。

僕は、彼の正面に立ち辺りを見回す。

辺りには、生き絶え絶えの戦士達の姿。

そして、この元凶を作っているであろう女性。

僕は、魔力の中心から視線を外す事無くサラマへ声を飛ばす。


「もう大丈夫だ。」

「ここは、僕が引き受ける。」


僕は、舞姫を抜き、全ての武具に魔力を喰わせた。

それは、僕を通し外部から吸収した物だ。

空間の魔力は徐々に薄くなる。

それでも、未だに残る魔力。


僕は、武具に与える魔力量の調整を止める。

そして、魔力吸収を最大化させた。

それにつられる様に、サラマを包む炎も消えた。

そこは、ただの闇深い洞窟へと変わる。

僕は息を吐き、改めて元凶を睨みつける。

そこには、だた跪き祈り続けるボロに包まれた女性の姿があった。

それは、あの時の聖母と呼ばれた女、マリアルイゼの面影はあるが明らかに幼い。

さらに、その肌は花仙郷で亡くなった女性達の様に継ぎはぎだらけ。

僕は眉を顰め、祈る女性に近づく。


「もう、やめるんだ!」

「これ以上は、君の命も危ない!」


僕の叫びは、彼女には響かない。

そこには、ただ両手を組み跪く無表情の女性の姿がある。

しかし、変化が起きた。

地の底から響くような男の声。

記憶の彼方に捨て去ったあの男の声だ。


『魔力を解放しろ・・・』


それは、祈る彼女への言葉だろう。

それに応える様に高まる魔力。

辺りに広がる偽善に満ちた魔力。

それは、先ほどよりも明らかに濃い。

僕は、眉を顰め唇を噛む。


「これ以上は、止めてくれ!」

「止めないなら、僕は君を切る!」


僕は眉を顰め赤く揺らめく舞姫を、跪き祈る女性に向けた。

その時、傍らから女性の声が響く。


「アークデーモン、アイツを止めなさい。」

「これは、願いじゃなくて命令よ!」


「御意に・・・」


不協和音の様な声が聞こえた瞬間だった、僕の刃は何かに弾かれた。

しかし、そこには何もない空間。

視線を戻すと、そこには祈る女性を守る様に魔人が立ちはだかっていた。

僕は唇を噛む、僕達には時間がない。

このままでは、ファウダ兵士達は全滅だ。

僕は魔力を更に高め、全身を紅紫の焔で包む。

指先は若干痙攣し、明らかに体には良くない様に感じられた。

意識にもやがかかる感覚の中、僕は構える。

一方の魔人は棒立ち。

僕は、間合いを詰めながら扇状に移動しつつ幾学模様を描く。

魔人は、首だけでこちらを追う。

近づくにつれ魔力を高めるそれは笑みを溢す。

既に僕の間合いに入っっていた。

頭に掛る靄は、予想以上に感覚を鈍らせている。

僕は、額から流れる汗を腕で拭う。

その瞬間、予備動作無しで魔人の指先が、僕の首元を襲う。

僕は腕を下げ、迫りくる刃を止める。

骨刃は、小手を貫き腕を傷つけた。

先ほどからの痙攣に加え傷ついた腕。

これでは握力など皆無に等しい。

洞窟内に響き渡る金属音。

そして、女性の高笑い。


「アハハハハッ、何が()()()()()()()よ。」

「チビが調子に乗るなっての・・・虫唾が走るわ。」


僕は、残る力を振り絞る。

不幸中の幸いだろうか、限界状態は無駄な力を消し去る。

それは、理想とする動きの一つ。

剣盾術の師を彷彿とさせる動き。

それは一介の魔人ごときには、捉えることは出来ない。

刹那、魔人の背中からは魔力の衝撃が抜け、その存在を異界へと消し去った。

僕は勝利したが、この戦に負けた。

僕の視界は天井の位置がおかしい。

地地下ずく地面へ腕を出すが、勢いを弱めただけだ。

起き上がる力は無く、指先は痙攣している。

耳障りな笑い声が少しずつ小さくなっていく。

意識が途切れる瞬間、後方から尋常ではない魔力の塊が僕達を包み浄化を阻止した。

その魔力は、懐かしく温かい。

遠くから聞こえる声は、僕の名前を呼んでいる。


「ルシア、しっかりしろ!」

「お前が()()()どうするんだ!」

「ラスティ、ルシアに水だ。」


「うん、ウチが面倒見るね。」


「あぁ、頼む。」

「あの、まがい物の聖母は、私が相手する。」

「後方の兵士は、あの糞女を拘束しろ!」


振り払われた指の軌道には魔導の光が流れる。

それは、術式すを持たない現象が空間に作り出す。

一瞬、光が全てを包む。

そして、ヴィクシィの作りだした空間を打ち消した。

壁には大きな亀裂、奥には光を反射する何かがめり込んでいる。

それは、彼女から放たれた物だろう。

彼女の後方からは、ラスティの声。


「ルシアの意識、戻ったよ!」


「良くやったな、ラスティ。」

「後は、ルシアを連れて他の奴らを起こして回れ。」


口元を緩めるアリシアは、目を細めヴィクシィに問う。

そこには、怒りのような感情があった。


「聖母モドキ・・・これ以上は止めておけ。」

「私は無駄に命を取る程、悪趣味ではない。」

「やめる気が無いなら、家族に害なす者と見なし、お前を排除する。」


彼女の声に被せる様に、頭の中に響く低い声。

アリシアは眉を顰め、魔力を放つ。

それは、偽りの聖母を包み浄化、そして燃え上がる。

アリシアは、鼻に付く臭いを漂わせる肉塊から視線を外し言葉を残す。


「すまないな。」

「私は、他人の幸せまで考える程、お人好しじゃあ無いんだ。」


燃え上がる炎は風を生む。

銀色の美しい髪をたなびかせる長身の影は、僕に安らぎと心からの笑顔を与えた。


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