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13(301).魔人将

洞窟内には、天井からしみ出した水が滴る音が響く。

集団は牙を剥き、目の前の巨漢に唸り声を上げる。

巨漢と対峙るドゥルーガは目を細めた。


「あいつ・・・ダッシュウッドの元当主じゃねえか。」

「サラマ! 前衛に加護を追加!!」

「終わったら、ヤツの足止めだ。」

「伝令、本体に使いだ!」

「我々だけでは、手に余る。」


「はっ!」


サラマは、返答せず頷き、魔力の光に包まれる。

それは、形を変え戦士達へと流れ込む。

ドゥルーガとトリジャータ、そして数名の剣士達は武器を構えた。

その姿を見据える巨漢は、目を細め鼻で笑う。


「フン、それでこそ蛮族よ。」

「俺を楽しませてくれ・・・」


巨漢は、熊が両腕を上げ威嚇する様に立ちふさがる。

しかし、そこには威嚇の様に程度の知れた圧は無い。

あるのは、絶対的な自信。

それ以外には何もない。

ただ、その光景は見る者を圧倒する。

ドゥルーガ達は、無意識にたじろいだ。

獣人女性の声は洞窟内に響く。


「行くぞ、ドリジャータ!」


「はい、隊長!」


2人の女性に続き、数名が走り出す。

それを追う様に、サラマの声。


「射線開けろ!」

「お前達、狙うなよ。」

「当てる事だけ考えろ!」


「「「はっ!」」」


残り守りを固める兵士達の間から水撃が走る。

それを追うよに、土属性を孕んだ魔力の塊。

巨漢は笑いを止める。


「水遊びか・・・学習しない番犬だ・・・」


巨漢の腕は、前方の空間を払う

その衝撃は、波及し水撃を散らす。

しかし、その結果に笑みを漏らすサラマ。


「僕は、学習意外に取柄は無いよ!」

「包み込め!!」


巨漢の周囲に漂う水滴は、男の頭部を目掛け集まり始める。

それは、一瞬だった。

水滴は、漢の顔を包み水球へ。

だが、巨漢の反応は薄い。

泡と共に発せられ、空気へと伝わる男の声。


「ゴボッ、だから犬だと・・・ゴボッ、言っているのだ駄犬め。」


巨漢は迫りくる獣人剣士の刃を止める。

そして、刃ごと岩壁へ向け投げ飛ばす。


「ゴボッ、無価値な体に興味などない!」

「さぁ、来なさい・・ゴボッ、鍛え上げられた獣人の女達よ!」


巨漢の視線には、ドゥルーガとトリジャータ以外は生物として映っていない。

しかし、水球は未だ巨漢の頭部を覆う。

その姿に、笑みを漏らすサラマ。


「もう終わりだよ、出来人形!」

「お前達、奴を拘束するんだ!」


「「「はっ!」」」


「無能は君だよ・・・ハァ!!」


空中に漂っていた土属性を帯びた魔力は、サラマの指示で動き出す。

魔力は巨漢の四肢を拘束。

さらに、頭部の水球は、その容積を増し巨大化。

次の瞬間、水球は表面積を減らし内圧を増した。

巨漢の眼球は押しつぶされ、紫の筋を水球に作り出す。

そこには、鼻や口、耳からも同じ筋を作り水は次第に濁りだす。

そして一瞬出来た隙に、ドゥルーガは声を上げる。


「行くよ!!」


「はい!」


ドゥルーガ達は一列になり、次々に斬撃を加えた。

それは、巨漢の両腕を飛ばし、脛を断つ。

跪く様に沈む巨漢。

頭上から首を狙うトリジャータ。

同時に掬い上げる様に刃を走らせるドゥルーガ。

次の瞬間、二つの刃は、交わった様に見えた。

しかし、一方は弾かれ、もう一方は金属音と共に衝撃波を生む。

地面へ向けられた巨漢の視線は、つぶれたはずの眼光から強い光を放つ様にギラついた。

巨漢の歯に押し止まる刃は、首の力だけでジリジリと位置を変えられる。

終いには、並み以上には大柄のドゥルーガを宙に浮かせた。

そして巨漢は、刃に咬みついたままドゥルーガに声をぶつけた。


「クククッ・・・悪くないぞ・・・獣人はこうあるべきだ。」

「だが・・・俺には届かない・・・」


言葉が終わると共にドゥルーガは、自分の体重を忘れる程の遠心力を味わった。

次の瞬間、口の中に鉄の様な臭いと味。

彼女は、薄れゆく意識の中で呟く。


「こんな奴・・・手に負えない・・皆・・・逃げて・・」


巨漢越しにドゥルーガの姿を捉えるトリジャータは眉を顰める。

彼女の愛剣は、刃が曲がっている。

それ以上に、彼女の心は折れていた。

後方からはサラマの叫び声。


「トリジャータ、逃げるんだ!!」


サラマは、魔力を更に高める。

そこには、周囲に漂う魔力を吸収し、自身の限界を越えてる姿があった。

巨漢の頭を覆う水泡は、紫に染まり表情など分からない。

表面積を減らし、水圧を増す水球。

それは、徐々に巨漢の輪郭が判るほどまでになる。

その間に、トリジャータは自身を奮い立たせ曲がった刃を走らせた。


「ヤーーー!」


それは無情にもあっけないモノだった。

背後を衝く斬撃は、視線すら向けられることなく止められた。

そして、ドゥルーガよろしく片腕だけで投げ飛ばされる。

激しい衝撃音と共に漏れる声。

しかし、彼女に痛みが走ることは無かった。


「・・・どうして・・・こんな・・・」


確かに、トリージャタは宙を舞った。

そして、向かう先は岩壁だったはず。

しかし、感じるのは温かさだった。

先発隊は、一人の巨漢により半壊。

そこにある光景は、戦闘ではなく惨劇以外の何物でもなかった。


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