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2(28).猫と山賊

僕は街道に戻り、薄暗い森を進む。

鳥の声はしないのに、先の方がさわがしくなり始めた。

それは動物の起こす音ではない。

僕は小走りに進み、木陰から状況を確認する。

そこでは1台の馬車が山賊に襲われていた。

賊は見える範囲に10人程度、対峙している獣人は3人、2つの魔力は大きい。

馬車の造りから貴族だと分かる。

僕の脳裏には若干下種だがいい考えが浮かぶ。

それは、"貴族を助けて恩を売れば、王都まで馬車に乗せてもらえるかもしれない"である。

僕は目視で確認できない魔力へ向かう。

そこには、4人の弓兵が木陰から獣人をねらっていた。

弓兵はコチラに気づいていない。

僕は手が届く間合いまで詰める。

音を立てないように、一人を羽交い絞めにし、口を押させそのまま瞬間魔力譲渡を行う。

押さえた口から静かに泡を吹き崩れ落ちた。

まだ魔力には余裕がある。

次の賊との間合いを詰め、鉈で首を横薙ぎに飛ばす。

倒れ込んだ音で、残りの弓兵に気づかれる。

しかし、もう遅い。こちらの間合いだ。

僕は突進し、盾を押し込み一人を転倒させる。

倒れ込む男はその表情を歪ませ声を上げた。


「なんだお前は!食うに困った俺たちを、お前も邪魔するのか!」


僕は倒した男に馬乗りになりつつ、残りの一人に視線を飛ばす。

残りの一人は体を翻し逃げようとする。

僕は、それの足に目掛けて鉈を投げつけた。

鉈は賊の右足の腱を切り裂き、地面に刺さる。

悲鳴が森に響く中、倒れ込んでいる賊を手で抑え、魔力譲渡を行い無力化。

地面に刺さった鉈を抜き、這いずり逃げる賊の頭を鉈で勝ち割り4人の弓兵を排除した。

僕は息を整え、襲われた馬車に目を移す。

賊は5人になっていた。

獣人は3人のまま、危なげなく立ち回っている。

僕は、賊を背後から襲い加勢する。

鉈は迷いなく首を宙に飛ばす。

その血しぶきに、一人の賊がこちらに意識を向けた。


「あんた、なんで獣人なんかに肩入れするんだ。ヒューマンが獣人を食い物にして何が悪いんだ。」


僕の目の前には思想に凝り固まった宗教家がいた。

王国帝国共に貴族を中心にヒューマン至上主義がここ1000年ほどで広がっている。

僕はその考えに眉を顰めた。


「ここは引いてくれや・・・なぁ嬢ちゃん。」


僕は踵を返すふりをし、回転し体重を乗せた斬撃で胴を2つに断つ。

その間、残りの賊は排除されていた。

人との戦闘は、気分のいい物ではない。

それでも、ろくでもない相手だった為か今回は救われた。

戦闘を終え、振り返ってみると今回の戦闘は及第点だろう。

剣術は師匠のお陰でそれなりだ。

魔力譲渡は、師匠にもらった腕輪の効果で非常に余裕がある。

僕は怪我も無く、獣人を救えたことに無でをなでおろした。

3人の猫の獣人は頭を下げ僕に礼をする。

男性の猫獣人はアンリ・イシュター・フォンランドと名乗った。

彼はここから南にある街の領主の三男だという。物腰は柔らかだ。

女性の猫獣人はミーシャといい、彼の妹だという。残りの一人は御者だった。

馬車は、外装の破損や馬の怪我もなく、すぐに利用できる。

残念なことは、御者が一人殺されてしまった事だ。

地面に転がる山賊だったモノは大した装備はしていない。

戦いも、あっさりやられる程度だ。

あの戦い方では、傭兵や冒険者崩れではなく、貧困村民の成れの果てだろう。

4人で御者と賊を埋め、死者を弔った。

考え方は寄り添えない賊だったが、戦争は闇が深い。

アンリから馬車に同乗することを勧められ、僕は二つ返事で同乗させてもらう。

王都への向かう馬車の中でアンリ達の目的を聞く。

彼らは、王国より従軍要請があったに王都に向かうのだという。

彼らには2人兄がいて、1人は帝国軍の騎士だったという。

その兄は1か月前に戦争で亡くなっていた。

その代わりの従軍要請だという。

拒否はできたが、貴族の彼らでも獣人は肩身が狭いそうだ。

その為、従軍していないことは、他の貴族からは良い顔をされないという。

既に1人失い、さらに二人も従軍させるなんて、親もたまったもんじゃないだろう。

彼らは、それでも明るく振る舞っていた。

貴族の馬車は乗合馬車と比べ揺れも少ない。

そして、椅子も詰め物が入っているのか尻も楽だった。

森を抜け暫く草原が続く。

窓から見える畑で働く者は、女性や小さな子供たちばかりだ。

男達は戦争に駆り出されているのだろうか。

馬車から見る風景は、以前とは違い色を失っていた。

太陽が傾き、空が紅く色づき始めた頃、遠くに王都の城門が見えた。

城門は警備を強化している為か入場手続きに時間がかかる。

そんな状況でも商人というのはどこでも逞しい。

列に並ぶ人々に簡単に食べれるモノや、飲み物を販売している。


「猫の貴族様、いかがですかな?」


アンリは、鳥串を3本かいそのうちの1本を僕に手渡す。

ミーシャは尻尾の先を振り、嬉しそうに頬張っている。

商人はソレを見るとさらに商品を提示した。


「女性に人気の甘味もありますよ。どうですか2人分」


アンリはその発言に笑う。

商人は何を間違ったのか分かっていなかった。

獣人には僕が男だと分かっているようだ。


「君は可愛いもんね。ヒューマンは間違えるわけだ。」


面と向かって言われるとムッとするより赤面してしまう。

それを見ていたミーシャは僕の頭を優しくなでる。

それは、ファルネーゼのそれとは違う。

むしろライザや師匠の様だった。

列は進み、馬車は城門を無事通過する。

僕は彼らに礼を言い馬車を下りた。


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