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26.冒険の先へ

目が覚めると、視線の先に牛の顔がある。

師匠はヒマにかこつけイタズラをていた。しかし、本人は見当たらない。

僕は顔を拭き、体を調べる。

痛みのあるが無理なく動けるレベルだった。

僕は、目の前のミノタウロスの素材を整理し背嚢に詰める。

そして、マップを開き第4層の先と第5層を確認する。

マップ5層には、最深部の文字があった。

師匠が戻り、僕の背後から声を掛けマップ情報の補足をする。

師匠の話では、30年前までは第3層が最深部だった。

しかし、ここ10年で第5層まで発見されたという。

師匠は冒険者たちの探究の心を称賛していた。

マップの第5層にも、第4層の様に開けた空間の記載がされている。

僕はいやな予感を感じ、師匠の顔色を窺った。

師匠は察したかのように、ダンジョン主は今はいないと語る。

ギルドの話では1週間前に討伐済みで、当分は最下層の魔力だまりからソレは再発生しないらしい。

僕たちは、格子門を左右に開き第5層を目指す。

第3層入口の様に長い階段がそこにはある。

階段を下ると第5層の空間が足元から見えた。

そこには天井に届くほどの巨大な石像が現れた。

石造の足元には祭壇の様なものが存在する。

この空間には魔力を感じない。

僕は最後の段を下りると、空間の異様さに息をのんだ。

魔物が居ないことは分かっている。

しかし、造形の異様さとその大きさに恐怖心をあおられた。

師匠は、周りを見渡し何かを探す様に歩き出す。


「これはヒューマンの言うところの邪神像らしい。」

「古代魔法王国では、魔神の巨像と呼ばれてもいたな。」


ここは神々時代から古代魔法王国が滅ぶまでは、魔神崇拝の中心地だったという。

説明する師匠は、古文書の様なものを片手に辺りを見回す。

そしてまた、何かを探すように歩き回る。

師匠は、ある壁のレリーフ像の前で止まると魔法詠唱を始めた。

辺りを淡い光が包み空間に魔法陣が広がる。

レリーフ像は轟音と共に壁に押し込まれていく。

音が止むと、師匠は詠唱をやめた。辺りに静寂がもどる。

彼女は新たに現れた通路を躊躇なく進む。

その先には執務室の様な空間が広がっていた。

そこは地図にはないエリアだ。

既に主がいなくなってから時間は経っているはずなのに、大して時間が経ってない様に見えた。

師匠は机の近くにあった宝箱を開ける。

そして、そのの中から小さな箱を取り出し、中身を確認した。

それが目的の物だと確認すると、その箱を僕の背嚢にしまう。

そして、宝箱を閉め、僕を部屋の外へ促す。

僕が部屋を出ると、師匠は入る時の様に魔法を唱えた。

また、轟音が鳴り響きレリーフ像は動き出す。

レリーフ像は元の位置に戻ると、最初から何もなかったように壁の継ぎ目は消た。

師匠は満足そうな顔をして僕の背中を押す。


「じゃあ帰ろう。くれぐれも気は抜くなよ。」


色々疑問が残るが、今はいい。僕は無事帰ることだけ考えた。

途中で、スケルトン2体、グール2体と遭遇したが、敵ではない。

僕たちは遺跡から帰還し、ギルドへ依頼報告に向かう。

遺跡攻略の結果は、スケルトン5体、グール3体、ミノタウロス1体。

スケルトン討伐依頼達成で銀貨2枚、素材売却で銀貨18枚、銅貨50枚になった。

相場より若干高く売ることができた。

これは最近、国に怪しい動きがあるらしく、魔鉱石や魔結晶の取引価格が高騰しているからだという。

僕たちはギルドを出て、その足で街を離れた。

予想はしていたが、師匠はあの部屋の存在を報告していない。

夕焼けを背に、馬車に揺られるうちにウトウトと寝てしまった。

数日馬車に揺られ風景は見慣れた場所に近づく。

道は悪く、腰をぶつけ僕は目が覚めた。

隣を見ると師匠も寝ているが、起きる気配がない。

山を超えれば庵の近くの町だ。

その日は蒸し暑く、山に吹く強い風が心地よかった。



遺跡から戻り1年経つ。

今日は修行がない。

日は真上にきているが、師匠は起きなかった。

僕は日課の修練をこなし、馬の毛にブラシを入れていると庵の扉が開く。

ぼさぼさな頭を搔きながら、あくびする師匠の姿が目に入った。

彼女は目をこすりながら手招きされた。

部屋では、椅子に座り、腕輪を眺める師匠の姿がある。

その腕輪は、遺跡で発見した物だった。

師匠は口を開き、腕輪の説明を始めた。


「この腕輪は魔導具だが、使い物になるかは怪しいところだ。」

「効果は、魔力消費を数倍にし、火水風土光の5属性以外の効果を倍以上に増幅させる効果があった。」

「これは、消費が等倍であれば国宝級の魔導具だぞ・・・まあ、着けると外れなくなる様だがな。」


そもそも闇属性を操るものは王国にも帝国にも居ないはずだ。

さらに言えば、ヒューマン文化圏では穢れたものと嫌われる存在である。

普通に考えてゴミだ。

僕がそう感じていると、師匠はニヤニヤし話を続ける。


「物の価値というものは、自分が"ある"と思えればそれでいい。」

「考えてみろ、ルシア。この魔道具は、入れる魔力量を強制的に倍化させる。」

「作者の意図かは知らんが、術式の結果は出力を3倍以上にした。」

「これは面白いアイテムではないか?」


ではないか?ではない。僕は嬉しそうに話す師匠に疑問を感じた。

僕は闇属性など使えなし、師匠の考えは分からない。

師匠は僕の反応を楽しむように続ける。


「魔力は変換できないと抜けていくのは分かるな。発動ミスだな。」

「お前の場合、発動できない。では魔力を抜ける段階で操作すれはどうだ?」


それは、属性変換の前に操ることを意味した。

慣れは必要だが成功すれば、消費以上の効果で魔力譲渡が行えることになる。

師匠は説明を終えると、その腕輪をこちらに放り投げてきた。

そして、含みのある言い方で師匠は話した。


「私から教えられることは大体教えた。」

「その腕輪は、お前が使え。私からの卒業記念だ。」

「後は自分で考えて、色々試したら良いさ。」


彼女の言葉には威厳があった。彼女は言い終えるといたずらな笑みを浮かべる。

師匠は最後に、腕輪が取れない効果は解除したと言っていた。

僕はこの表情の彼女が好きだ。

結局、あの遺跡と師匠の関係性は聞くタイミングがなかった。

ただ単に古い文献から導き出したのか、それとも何か関係があるのか。

翌日、師匠に別れの挨拶をすると、王都にいるライザ宛の手紙を託された。

ぼくがライザの手紙を背嚢にしまうと、彼女は中腰に屈み、僕と視線を合わせる。

そして長い髪を耳に掛け、僕の頬に唇を重ねた。

ゆっくりした時間が流れた後、彼女は僕の頭を雑になで、後ろ姿で僕に言葉をかける。


「お前はまだ若い。世界を見てこい。」


久しぶりに聞く名前に、4人での生活を思い出した。

僕は師匠と別れ王国へ向かった。

この時期の身体能力は並の冒険者と同等になり、魔力量なら並みのエルフよりは確実に上だ。

僕は、冒険者としては十分やっていけるまでに成長した。

奴隷になって8年が経つ。

今まで僕は流されて生きてきた。それでも、大切な人たちができた。

まだ、母の言葉の真意は分からない。

落ち着いたら、一度母に報告に行こうと思う。

風は心地よく、山々は春の到来を告げていた。

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