24.冒険者と古代遺跡
僕たちは、遺跡の第2層にいる。
索敵すると正面に3つの魔力があるが、すでに確認済みである。酒場の冒険者だ。
パーティーの一人は肩を借り足を引きづっていた。
あの時の男と謝った女性はいない。
彼らは2階層下でミノタウロスに襲われたという。
僕たちの目的地は、さらに下の階層だ。
僕が師匠の顔色を窺うと、彼女は少し悩んでいるのか、顎に手を当てて思案している。
僕は師匠の思考がまとまったことを確認し、ミノタウロスについて質問した。
その質問には師匠は笑顔で答える。
「相手を見て、考えながら戦えば大丈夫だろ。」
彼女の笑顔は不思議と安心する。
僕は彼女が何に悩んていたのか疑問に思い質問する。
彼女から返る答えは予想外だった。
その答えはミノタウロスの調理法についてだった。
僕は不安にかられた自分が馬鹿らしくなり、ため息を漏らす。
第三層に下り、ソコに広がる光景に僕は愕然とした。
第二層から続く階段はどこまでも長く、眼下にはこの階層は地下とは思えない空間が広がってる。
そこには町並みが広がり、奥には王宮までもが存在した。
師匠は僕にこの風景を説明する。
これは死者の街だという。ここは死後の王や王族貴族が暮らす場所として建設されたのだという。
古代エルフは1000年もの命があるだけに、死というモノは恐ろしい事だそうだ。
そして、死後の世界があるのなら、生きていた環境で生活したいと考えたのだという。
そんな話をしながら、僕たちは長い階段を下りきった。
町には、かなりの数の魔力を感じるが、まとまっているわけではない。
下層への階段は、マップと照らし合わせると、王宮の中があやしい。
薄暗く冷たい町並みは、遠くからうめき声や、何かを引きづるような音がした。
僕たちは目抜き通りを避け横道から小走りに王宮を目指す。
僕は少し先のわき道に魔力を感じた。
近づくにつれ、うめき声も大きくなる。周囲にはソレだけだ。
僕はソレが正面に入るように前に出る。
想像していた通りだった。
この遺跡で死んでいった冒険者の屍が、魔力によって魔物化した存在。グールだ。
能力は生前の冒険者を元に、オーバードーズで身体強化したようなものだ。
しかし、肉体の耐久度は低いが、死体だけに物理攻撃の効果は薄い。
救いは知性がないことだろう。
その為、グールなどの知性の無いアンデットは、共食いをすることもある。
この点から物理攻撃より、魔法攻撃で倒すことが定石になっていた。
そんなグールだが、僕の魔力を感じていた為か襲い掛かて来る。
僕は体当たりを盾でいなし、後ろから壁に抑え込む。
そして背後からグールの心臓付近に手を当て、"魔力放出"を使い魔力を空にする。
グールの足掻く力は、次第に弱くなり動かなくなった。
今回は何とか倒すことができた。もし二体以上いたら厳しいだろう。
僕の魔力放出は、時間がかかりすぎる上、ゼロ距離でなければ効果はない。
僕は課題を残しつつも、グールの心臓を取り出した。
これは討伐確認素材で、心臓の形をしていがる魔力結晶である。
僕は素材を背嚢に入れ、師匠と共に先を急ぐ。
眼前には、王宮に伸びる階段があった。
付近には魔力を感じないし、遠くの魔力が近づいてくる様子もない。
路地を抜け王宮へと続く階段を駆け上がる。
王宮の広間は深い闇が続く。
そこは、手持ちのランプでは王宮のすべてを照らすことはできなかった。
町の様なうめき声や引きづる音はない。静寂がそこにはある。
師匠は、僕に道を示す。
謁見の間らしき上層へ続く階段の裏に、下層へ延びる階段があった。
この空間には、下層へ続く階段以外には複数の部屋が存在している。
僕たちは、その一部屋で休憩することにした。
遺跡に入り、だいぶ時間がたっている。
しかし、気を張っていたのか空腹を感じない。
師匠は、少しは腹の中に入れて置けと、干し肉と水袋を僕に手渡す。
喉に染みわたる水は、張りつめた糸を解すのに時間はかからなかった。
一息つき、師匠と共に下層の状況を予想する。
マップでは、下った先は小部屋になっており、その先は広くはない通路が長くの伸びている。
通路の左右には、いくつも小部屋。今いる部屋の大きさと比べると恐ろしく小さい。
細い通路の先には、この階層と同じくらい広い空間がある。
師匠によると、この広い空間は闘技場の様なものらしい。
小部屋は、闘士やそれに準じるものを入れておく場所だという。
僕は何故そんな場所が墳墓にあるのか疑問に思った。
僕の顔を見ながら師匠は答えを話す。
「この古代遺跡は、5500年ほどの前に墳墓として築かれた。」
「当時の人は、皇族は神の眷属がこの世界に降り立った姿であり、死後その魂は神の国にもどる。」
「そして幾星霜のち元の肉体に戻ると信じ、そのため防腐処理を行い埋葬した。」
「そして、その魂の輪廻をつかさどる祭壇が最奥の存在だ。」
「彼らは、その神に剣闘士の血と魂を奉納していたのだろう。」
師匠は遠く悲しい目で話している。
彼女の話からこの下に広い空間があることは確実なようだ。
ということは、その広い空間にミノタウロスはいるのだろう。
ミノタウロスは、今までに両手で数える程度は目にしているが、直接的な戦闘経験はない。
以前に潜った魔生洞窟では、中層以降で沸く可能性がある魔物だった。
僕は実力は、よく見積もっても中層前半がいいところだ。
出来ることは、魔力操作、盾を使った戦闘術、鉈を使った剣術
自分へのオーバードーズは、師匠に禁止されている。
師匠は僕の不安を察したのか、真剣な顔で僕を諭す。
「自分を信じろ、お前の出来ることをするんだ。」




