23.古代魔法王国の遺跡
修業を始めて4年経った。
僕は師匠と共にとある街へやってきている。
ここアナスタシアから馬車で10日の距離にある閑静な街。
目的はこの領地内にある古代遺跡の調査だ。
これは修行の一環でもあるため師匠は戦闘には参加しない。
まずは、ギルドで適当な討伐依頼を探すことにした。
ちょうどスケルトンの討伐依頼があったので、明日から5日の契約をする。
契約時に登録証の提示も必要だったので、師匠の登録証を見る機会があった。
師匠の登録証は銅等級であった。
彼女はダンジョンボスやそれに準する魔物の討伐など、面倒だからやりたくないという。
確かにそうだ。必死に等級を上げ、その末に死ぬなど馬鹿らしい。
それなりに稼いで、気楽に生活する方が自分に合っていると思う。
それは実際にケイブリザードと戦い、死の恐怖を感じているからかもしれない。
街で探索の準備をしてから、師匠と共に酒場へ向かう。
二人でと食事をしていると、調子のよさそうな冒険者がパーティーずれで店に入ってきた。
彼の声は大きく、自慢の様な会話が不快感を高めた。
男は酔いに任せて客に悪がらみしている。その流れで僕たちも絡まれた。
「よぉう、女二人で食事かい?俺様に杓してくれよ。」
僕は眉を顰めたが、それより先に師匠はその男に正論を静かに告げる。
「君の席はココではない。忘れてやるからさっさと行け。」
男は事実を淡々と告げられたことに激昂する。
そして、師匠の襟を掴み殴りかかる。
僕は気が付くと、男に馬乗りになり気絶させていた。
師匠は僕を抱えて場を納めた。
その後荒事にはならず、パーティの女性は、僕たちに頭をさげる。
そして、お詫びにと食事代を支払った。
男達がそそくさと酒場を出ていくと、酒場は沸き立つ。
師匠は僕を抱えたまま、優しく言葉をかけた。
「ルシア、おまえも男だな・・・嬉しかったよ。」
師匠の表情は見えない。
視線を向けようとすると、彼女はそれをさせない。
彼女の腕と顎による3点締めで僕は動けないが、これはこのままでいいと思えた。
背中には彼女の温かさと心音を激しく感じた。
酒場の喧騒は、遠くに感じられるほど静かな時間が流れる。
僕は師匠に抱えられたまま部屋に戻った。
すれ違う人々は笑顔で笑っている。
僕は恥ずかしかったが嫌な気はしなかった。
翌日、師匠が寝坊してしまった為、ギルドで日程を変更した。
街には昨日のパーティーはいない。少し気にしていたので気が楽だ。
僕たちは、師匠の提案で甘味巡りをして過ごした。
太陽は顔を出し空は青く澄み渡る。
街から馬車が出ていたので、遺跡までは半日もかからなかった。
遺跡は高い壁で周囲を囲われている。
そのためか、太陽が昇っているのに薄暗い。さらに霧も立ち込めていた。
門をくぐり、敷地に入る。
そこには枯れた草木が寂しいの世界を演出し、美しいとはいえない光景が広がる。
僕たちは遺跡の入口を目指した。
何組かの冒険者も目に付くが、今は注意する必要もない。
少し進むと眼前にははすり鉢状に傾斜し、その中心に神殿があった。それが遺跡の入口だ。
師匠は、この遺跡は2000年前に滅んだ古代の魔法都市の一部で墳墓だと教えてくれた。
この王国は古代エルフが治め、様々な人種が生活していた。
そこではヒューマンを奴隷として扱った。
それは、他種族に比べ身体的能力や魔法能力が低い為、地位が低かったからだという。
魔法王国は高い技術力で大陸を支配し、5000年の栄華を誇っていた。
しかし、今から2000年前に、ヒューマンの中に突出した能力を持つものが現れる。
それを機にヒューマンは、古代エルフのやり方に反感を持つ種族と共に軍を率いた。
そして古代エルフの王を打倒したという。
その後、100年の間に古代エルフ族は追いやられ、古代魔法帝国は滅亡したということだ。
これを分かりやすく描いた書物や詩歌が、今の王国や帝国に広まる英雄伝説や勇者の伝説だ。
小さい頃は、村のお祭りに立ち寄った吟遊詩人にねだり、そして夢みた話。
僕たちは、遺跡の中に進む。
この遺跡は、魔生洞窟に比べ肌寒い。
第一層は一部表層まで吹き抜けており、日を取りこみ照明代わりにしている場所が多い。
その為、昼間は割と明るいが、風の流れも感じた。これが肌寒さの原因かもしれない。
師匠は厚手の外套を持ってきていたので少し誇らしげだった。
僕はそんな師匠に納得した表情をむける。
いくつになっても性格というものは変わらないのだろうと。
人は繰り返すものだ。それは幾度となく繰り返す事で、僕は師匠にどつかれる。
男という者は馬鹿なのだろう、僕は、ルーファスがライザに注意されていた事を思い出した。
そんな他愛もないやり取りをしていると、大分先だが通路の角に3つ魔力を見つける。
背面に魔力を感じないことを確認し、僕は前に出た。
注意深く且つ迅速に進み、魔力の主のと対面するように角を曲がる。
眼前には、少し距離を置いた先に3体のスケルトンが佇んでいた。
それぞれのスケルトンは少し距離をおいている。
僕は一気に距離を詰め、手前のスケルトンを鉈で袈裟懸けに殴り倒す。
その間に、スケルトンの一体が手の届く範囲まで迫ってきた。
僕は振りぬいた勢いをそのまま利用し、右手に持つ盾の縁で横凪に殴り倒す。
2体のスケルトンの頭蓋骨は粉々になり魔力は消失した。
残る一体のスケルトンは、自らの腕を振り上げ襲いかかる。
以前の僕なら盾を利用していたが、半身を引きそれを躱す。
前のめりになるスケルトンを、背後から後ろ蹴りし、倒れたところを頭蓋骨めがけて鉈をふるう。
4年間の成果だ。うまくできたと思い師匠の顔色を伺うと、満足そうな表情がソコにはあった。
僕は、スケルトンから討伐確認部位の魔結晶を回収する。
魔結晶は、スケルトンやグール、レイスなどのアンデットから取れる宝石のようなものだ。
魔鉱石と同じ性質を持ち、同じような取引価格の素材である。
スケルトンは、実入りがこれだけなので人気がない討伐対象だ。
僕はマップを取り出し、下層への階段を確認する。
師匠の目的地はこのダンジョンの最下層だという。
階段はこの先にあった。
第二層に進み、マップを確認しながら階段を探す。
この階層は中央に大きな通路が走り左右に部屋が並ぶ、そして最奥に第三層に続く階段がある。
壁には古代魔法王国時代のランタンが掛けており、魔力でできた青白い光を放っていた。




