1.男の娘、村を出る
僕は小さな農村で生まれた。
周りの子供に比べ体は小さく力も弱い。
それでも魔力を多く持っていた。
魔力を多く持ちそれを操作できる者は、体格は小さく、筋肉も付きづらい生まれになる。
そんな体質持ちは、魔導士、魔導技師、軍師、文官、ギルド事務職や、商人などに重宝された。
しかし、その職の多くは、貴族や裕福な者たちが占めている。
養子として取り立てられる事もあるというが見たことは無い。
魔術は魔力と属性が無ければ魔法を発動できない。
普通、魔力を多く持つ者は属性を1つは持っている。
しかし、僕は何も持ってはいない。
それは魔法が使えないことを意味していた。
村では5歳になると、教会で祝福を受ける。
ここまで健やかに育ったことを神に感謝する儀式だ。
この時、その子供に魔力があるのか、属性適正があるのかを見る。
両親は体の小さい僕に魔力があることを喜んだ。
でも、僕は属性を持っていなかった。
それでも、神父からは育つうちに発現するかもしれないと伝えられた。
それは、属性を持たない者は、神父の知る限る前例がなかったからだ。
数年経っても、属性の発現はない。
母は、それでもと数字や計算を教えてくれ、ずっと愛してくれた。
父も、最初は母の意見を尊重してくれたが、月日が経つごとに人が変わった。
ヒューマンが文字など覚える必要はないと母や僕を罵倒した。
8歳になり、僕は畑仕事を手伝うようになっていた。
農民には体や力が必要だ。
僕は力がなく、農地を耕す効率が悪い、力作業も同じ。
見た目が幼い僕は、年下の村民からも馬鹿にされノロマや無能、出来損ないと言われ続けた。
それでも僕は畑作業を嫌いにならない。
畑作業は、天候が良ければ、やった分だけ結果が出るからだ。
そんなに日常でも、母以外に優しくしてくれる存在がいた。
それは、隣に住む幼馴染のロゼッタだ。
僕たちは、畑仕事が終わると、日が沈むまで仲良く遊んで暮らしていた。
11歳になるとロゼッタとお互い意識するようになり、翌年僕から告白し付き合い始めた。
それから数か月も経つと、ロゼッタは周りから見ても綺麗な女性へ変わっていく。
畑仕事で土にまみれても、彼女の汗は日に照らされ彼女を彩った。
そんな彼女に興味をもつ男性は日ごとに増えない訳がない。
それでも僕は、ロゼッタと一緒に暮らす日々が続くと考えていた。
小麦の花が強く揺れる日、父は金と共に姿を消した。
それからは残された借金を返済する日々が始まる。
僕は、体の弱い母と畑作業以外にも、できる出来ることは全てやった。
今まであった幸せな日々は、必死に働く日々に変わる。
それは、ロゼッタと会える時間が減ることを意味していた。
肌を焼くように熱い日差しの日に、ロゼッタの誕生日がおとずれた。
僕にはお金は無い。あるモノは工芸の手伝いで培った木彫り技術だけだ。
僕は心を込めて髪飾りを作り、ロゼッタに贈くった。
収穫が終わり、週末には収穫祭が控える少し肌寒く感じ始めた夕暮れ時。
僕はロゼッタを収穫祭に誘うため探しまわった。
時間はいたずらに過ぎ、太陽は空を赤く染める。
そして、人気のない木陰で彼女の後ろ姿が目に入った。
そこにある風景に僕の思考は止まる。
目の前には、ロゼッタが領主の息子ザインとキスをする姿。
僕の頭の中で何かが壊れていく。
日が沈むと共に、膝から崩れ落ちる自分がそこにいた。
次の日、僕はロゼッタと会った。
彼女はいつも通りの彼女で昨日の出来事が嘘の様だ。
しかし、毎年話題に上がる収穫祭の話は彼女の口から出ることはない。
そして週末の収穫祭の日、僕は数年ぶりに母と過ごした。
収穫際から3日経つが、僕は幼馴染を見ることはなかった。
仕事に追われ、気が付くと4日経つ。
村の中心にある広場には人だかりができていた。
その人だかりの中心で中年の男が頭を垂れ唇をかむ。
その足元にはボロ布に包まれた女。
それを抱きしめ泣き崩れる中年の女がいる。
人だかりからは、憐みと噂の囁き以外にはない。
二人の中年は幼馴染の両親だ。
僕はその光景を見ても、何故か何も感じなかった。
人だかりの噂では、幼馴染はザインの許嫁を怒らせたという。
その結果、雇われた男どもに嬲られ廃人なったと。
しかし、その事に憤慨する者は村にはいない。
少し経つと薬師の婆さんが駆け付け、幼馴染を抱いた母親と共に家に帰っていった。
僕の足は無意識に雑貨屋を訪ねていた。
そして、僕の瞳は幼馴染への見舞いを探す。
現実とは無情である。
そこには、あの木彫りのブローチがほこりをかぶり売られていた。
僕は何も買わず、近くの川へ足を向ける。
川のせせらぎは、全てを忘れらせたが心を癒すことはない。
この年の冬は、寒く厳しいものだった。
肌寒さが和らぎ、日差しが心地よい日。
母は言葉を残し帰らぬ人となった。
その言葉は、僕には間違った理解しかできないモノになってしまう。
「人に期待はしちゃいけないよ。あなたが傷つくだけだから・・・」
数カ月後、僕は借金の支払いができなくなり、領主に全てを売り飛ばされた。
それは、母の形見どころか僕自身もだ。
僕は全てを恨んだ。
母を捨てた男と、この世界を・・・
この時僕は、これから起こる事を想像していなかった。
売られた先で、僕の目の前に広がる世界は変わる。
僕は両手で白磁の水差しを持ち男性客を接客。
そして、その服装は薄手のヒラヒラしたかわいい服だった。