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23(199).拠り所

崑煌から悠安までは、馬車で1年ほどかかる。

これから向かう北の空は黒雲が蠢く。

そして、時折光る稲光は巨影を映し出す。

それは東の地に存在する3神獣の内の一柱。

目にする者に様々な想いを与えた。

僕は、遠くを眺め、先にある旅の安全を願う。

傍らでは、1つの愛のカタチに当てられて居心地の悪さを感じた。


「糞坊主様、お食事をご用意しました。」


「ありがとう、美斉・・・」


ソコには、確かに愛が見受けられる。

それは、限りなく重い想い。

彼らの師の掲げたモノとは程遠く感じる。

それは、僕だけではない様だった。


「美斉、アータ、その想いは一方的じゃなくて?」

「想いの押しつけは、教義の外よ。」


「今は食事時です。押し付けている訳ではありません。」

「その為、教義に背いてはおりません。」


沙簾は、首を左右に軽く振り、頭を抱える。

それに助け船を出す者は、もういない。

ため息を吐き、玄褘に緯線を投げるも、彼は眉を顰め口元を緩めていた。


「お師匠様、それでは、修行になりませんよ・・・」

「ちょっと、剛蓬。 アータも何とか言いなさいな。」


「クチャ?・・クチャクチャ・・ゲップ。」

「あれで、互いが繋がってんだからいいんじゃねぇか?」

「お前だって言われたろ? 天淵様にさ・・・クチャ。」


以前よりも、温度の高い美斉の想いは馬車の空気を温めた。

僕達は、馬車の前に移り、話題を変える様に呀慶に質問を投げる。


「ねぇ呀慶。西と東で神様の考えって違うの?」


「そうだな・・・私の考えでもいいか?」


呀慶は、馬の耳から視線をこちらへ移し、僕の意を確認する。

そして、目を瞑りゆっくりと首を回し、言葉を返した。


「うむ、まずは、東と西での違いは、ないと思える。」

「それは、呼び名は違えど、根幹にある神自体が同じ存在だからだな。」


「盤光王父とヴェスティアみたいな?」


「そうだな。」


彼は、目を開き笑顔で僕を撫でる。

しかし、なぜかあまりいい気分にはならない。

僕は、アリシアに視線を向けるも、帰ってくるのは苦笑い。

彼は、撫でるのを止め、視線を道の先に向けて話を続けた。


「それな、私は違いも感じるんだ。」

「西ではヒューマンが、それを我が物とする様に偶像に価値を持たせる。」

「・・・そうだな、法王庁とは違う宗派といえばいいのか・・」

「救いを先導する者は、物や人を奉り、神の使いとするだろ・・・」


「聖母とか?」


呀慶は顎を擦り目を瞑る。

そして、また視線を空に向ける様に悩む。

ゆっくりと流れる雲を感じる姿は、何処か心が洗われた。

彼は、ゆっくりと深い息を吐き言葉を返す。


「まぁ、それで救われるのであれば、それも答えであるのだろう。」

「東でも偶像崇拝はあるが、それは霊場であったり、霊木であったりだな。」

「それを先導する者は、代々その場を守る存在としてのみだ。」


「神主みたいなものかな?」


「ほぉ、勉強しおるな。アリシアの教えか?」


呀慶の視線の先で、小猫とジャレながら舟をこぐ我が師匠。

彼の不意の言葉で、おぼろげな視線を向ける。


「・・・ふぁあー、るしあの師匠は私だぞ・・」


「ハハハッ、良い天気だからな。」

「まぁ、神主だ。 この後向かう蓬莱の帝も、その職に就く者から選ばれる。」

「彼らは神を崇め、祀り、国の行末を占う存在だ。」

「私は、彼らの補佐をしながら両国の橋渡しをしているんだがな。」


そこには少し、自慢げに鼻を鳴らす狼の笑顔があった。

それは、リヒターのオルフハウルと重なるモノがある。

彼は、締めくくる様に僕に言葉を投げた。


「私が感じた所では、この程度だな。」

「ルシアよ、答えにはなったか?」


「うん、ありがと。」


僕は、彼が見つめる先に視線を乗せた。

馬車は、巨大な門を潜り、2年半ぶりに悠安の街へ到着する。

出発したあの日とは、大分変っていた。

僕達は、馬車を売り払い、宿を探す。

呀慶は、僕達に言葉を残し、一人帝の元へ向かう。


「ルシアよ、謁見日が決まり次第、連絡する。」

「宿が決まったら、この店に伝えておいてくれ。」

「明日、また会おう。」


僕達は、尻尾を大きく振り、小さくなっていく影に手を振り送り出す。

後方では、甘ったるい空気に浸る2人とその空気に気圧される2人。

そして、その空気などどこ吹く風の赤いマント。

僕達は5人と別れ、宿をとった。

悠安は、地上にも星が光り輝く。

この賑わう街は、時間の概念などないのだろう。

空が白み始める頃、街は静けさに包まれた。

そして、遠くの地平線に一筋の光が昇る頃には、街はまた活気ずく。

宿の庭で汗をかく僕は、かけた剣先を眺める時間が増えていた。


「僕の心にも人は巣くっているんだろうな・・・」

「直ると良いな・・・レイピア。」


ふと視線を落とすと、足元には、小さな毛玉

最近の彼女は、早起きに変わっていた。

僕はレイピアを鞘に納め、足元の淑女を抱きかかえる。


「おはよ、ラスティ。」

「ご飯会に行こうか?」


「おはよ! 」

「ウチ、しょーろんほー食べたい。」


「フフッ、勉強してるね。」

「じゃ、小籠包買いに行こうか。」


僕は、眠り姫を宿に残し、街へ買い出しに出かける。

屋台では、蒸篭から湯気が上がり、僕達を誘うには十分すぎる光景だった。


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