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19(195).寺院の邂逅

天井に舞う少年に、ほくそ笑む赤髪。

その表情に眉を顰め唇を噛む白狼。

彼は思う、この戦線に戦力と言える者が、どれだけいるだろうかと。

赤髪は、白狼をその膂力で強引に薙ぎ払い、新たな目標へ歩を進める。

そこは、拒否されるかの様に飛び交う魔弾の嵐。

しかし、不敵な笑顔で、ソレを跳ね除け、彼は掴んだ。


「ほぉ、黒いエルフか、いつ以来だ。」

「なかなかの上者だな・・・」


赤髪の男は、払われる腕を強引に掴み、片手にまとめ締め上げる。

そして、汚い視線で舐めまわす。


「いいではないか、その表情。」

「・・・あの娘か。」

「娘の前で犯すのも一興だ。グハハハハッ。」


「クッ・・・」


アリシアは、抵抗するも両手を掴まれ、俯くことしかできない。

だが、マントのフードには淑女が控える。

彼女は、その腕に咬みついた。


「アリシアを離せ!」


「フン・・猫にかまれたとて、それも一興よ。」

「長く生きれば、痛みすら楽しみに変わるものだ。」


赤髪は無視し、アリシアを後ろ手にする。

それは、いくら抵抗しても何もできない。

彼女の怒声が部屋に響き渡るも、反応する者は野蛮な赤髪のみ。

ラスティは口を離し、彼の者の元へ走る。



僕は、薄っすらと聞こえるアリシアの怒声に意識を引き戻された。

そして、腕に懐かしい痛みが走る。


「ルシア、起きて!」

「アリシアが!」


「・・・ラスティ・・・」


僕は、その光景に視界が赤く染まる。

そして、無意識に走り出す。

後方では、青髪の怒声の一言。

しかし、宙を駆けたレイピアがその喉を貫く。

空間は、解放され僕の魔力を抑えるものは何もない。

溢れ出す魔力を感じ取る赤髪。


「ほぉ、エルフを犯す前に余興か?」

「貴様を動けなくしてから犯すのも悪くないな・・・」

「いや、此奴の像の前でヤルのも一興よ、ガハハハ!」


赤髪の男は、衣服を裂かれた女を捨て置く。

そして、感情に囚われた男の元へと歩を進めた。

その姿を睨みつける僕には声が聞こえる。

それは、高まる感情に呼応し現れた。

僕は脳裏に響く声に言葉を返す。


「好きにしろ・・・」


魔力の質は変化する。

それは人のそれとは、かけ離れたモノだ。

微かに聞こえる彼女の声も、現実とは思えない程にぼやける。

正面の赤髪男は問いを投げていた。


「おい。貴様名前はなんだ。」


「・・・」


「聞いているのか! 名前を名乗れ!」


僕は跳び、男に手を伸ばす。

その先にある、赤髪の口は塞がれた。


「黙れ、外道が・・・」


そして、赤髪に巡る水分を分解した。

残るのは、男の骨と仙たる魔力のみ

押し当てた手は、そのまま男をのけ反らせ地面へと追いやった。

勢いで押し込まれる枯れた赤髪は枯れ木の如くへし折れる、

そして、水分を失くした頭部は、地面へと衝撃を伝え、その形を失う。

遠くでは、辛うじて息をする青髪。

その呼吸は、空気の漏れる音と、そこから溢れる泡の音で不快を与える。

彼は、首を片手で押さえ、吐血しながら言葉を放つ。


「おのれ・・・下郎の・分際で・・・仙を切るとは・・」


それを見据え、ボロをまとうアリシア。

彼女は眉を顰め睨みつけ、彼の名を叫ぶ。


「貴様は銀郭徳君か!」


「そうだ・・我は銀郭・・」

「それが・・どうした・・」


男は、魔力の渦に包まれ、アリシアの持つ瓢箪に引き寄せられる。

その状況は、余りにも惨い姿だ。

状況を受け入れられない銀郭は叫ぶ。


「なぜ・・吸われているの・・に・・・小さくなれない・・・」

「痛い・・止めてくれ・・止めてくれ・・痛い・・」

「いやぁぁぁ!」


彼女は、男をその大きさのまま吸い続ける瓢箪を手放す。

しかし、彼の状況は何一つ変わらない。

瓢箪は、無慈悲に男を吸い続けた。

寺院には、男の泣き叫ぶ声と、血肉が強引に吸い込まれる音。

それは、強引が故か、そう容易くは終わらない。

砕かれ吸われる骨の嫌な音が鳴り響く。

僕は、全身から大量の汗を吹き出し、その場に倒れた。

そこに、2人は駆け寄り、寄り添う。


「ルシア、お前・・・またボロボロになって・・・」

「アレには関わるな・・・私の体など、どうでもいい!」


「アリシア・・・僕にはどうでもよくないよ。」

「僕は、ラスティに約束したんだ・・・」

「一緒に・・帰ろうって・・・」


僕は、彼女の悲しみに満ちた表情を最後に寺院の記憶は途切れた。

感情の淵で聞こえる声は、その度に少しずつ強くはっきりと聞こえた。

その力の本質を知らぬまま、僕は彼女の為に使う。

今は何も知らぬまま。



アリシアは、地面に横たわる少年を優しく抱き上げる。

そして、転がり気を失う白狼を足蹴りした。


「おい、坊主起きろ!」


「・・・すまない、奴らは・・」


白狼は、顔を左右に振り意識を整える。

そして、その惨状を目の当たりにした。


「赤いのは、ルシアがやったよ・・・」

「青いのは、術式をいじった魔導具で吸った・・・」


「お主らには、いつも助けられてばかりだ。」

「本当にすまなかった・・・」


彼は、アリシアに平伏する。

それを冷たく見据える彼女は、ため息と共に表情を戻す。

そして、辺りを確認した。


「ラスティー、出てこい。」

「もう安全だぞ。」


小猫は、勢いよくアリシアの顔に飛び付く。

そのお尻は、僕の顔の上だ。


「よかった・・・みんな無事だ・・」

「ウチ、心配だったんだよ・・・」


「ラスティ、そのままだとルシアが窒息するぞ。」

「はぁ、マントもアイツのせいでボロボロだな・・・」

「ラスティ、ルシアの体の上に乗っていろ。」


「うん。」


アリシアは、寺の棚をあさり、体に合う服に着替える。

そして、新たなマントを纏い小猫をフードへ納めた。


「よし、行くか。」


「うん。」


彼女は、僕を擁き広間に戻る。

そこには3人の弟子と共い説教される玄褘の姿。

その姿を見据える、紅いマントに身を包む吟遊詩人の様な人影。

その者は頭を下げ、彼女に礼をする。

その日以降、西の商人から錬金寺の噂は消えた。

僕達は、一行に2人を加えて目的の地を目指した。


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