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18(194).神の弟子

渓谷を伸びる石階段は、吹き上げる風が行く手を拒む。

それでも、足元を違える事なく進む一行。

崖下に投げ捨てられる肉の残骸。

それは、忘れた頃に、風音に紛れ着水音がかすかに聞こえる。

その光景に、沙簾は剛蓬の背中をどつき、彼を諫めた。


「ちょっと、剛蓬やめなさいよ・・・」

「山で捨てると、落石の原因になるって知ってるでしょ?」


「・・気を付ける・・クチャクチャ。」


ため息を返す沙簾の後ろを、俯き静かな呟きを続ける一人の女性。

彼女は1つの言葉を繰り返す。


「糞坊主様・・糞坊主様・・糞坊主様・・」


暗く重い状況は、沙簾のため息をさらに増やす。

それ光景に頭を悩ます一人の白狼。

僕は視線を感じ苦笑いを返した。


「お主達、昨日の説教は理解できなんだ様だな・・」

「弟子がこれでは、師も同様か・・・」

「・・・天淵様がお労しい。」


ため息だらけの空間で、二人の淑女は風景を楽しむ。

彼女の髪は風に遊ばれ、美しく輝く。

その煌めきに手を伸ばす小猫もまた、日の光で輝いた。


「ルシア、沙岸の山が見えるぞ。」


「ハハッ、そうだね。大分登って来たんだね来。」


彼女は僕の手を握る。

その手は、いつもの様にやや冷たい。

僕は彼女を引き寄せる。


「アリシア、寒いからくっつこ。」

「そうした方が、少しは温かいよ。」


「フフッ、お前の手は温かいな。」


その姿に、フードからは温かい視線が突き刺さる。

僕は、ラスティに笑顔を返し頭を撫でる。

すると彼女は、満足そうに遠くの世界を見つめた。



少しずつ頂上が見え、残りの石段も数える程だ。

少し広くなった空間には朽ちてはいるが立派な門。

その先に、立派な寺院が姿を現す。

奥からは巨大な魔力が3つ。

呀慶は、横へ腕を伸ばし、一行を制止する。


「まずは、話をしてみよう。」

「ダメならば、致し方があるまい・・・」

「しかし、気を抜くなよ。」

「彼らは、天淵様の兄弟弟子。」

「無理だけはするなよ・・・」

「立ち入ったのは、お前らの師の行いだ。」

「お前らが、師の為に命を張る必要などないのだ。」


彼の言葉に3人は頷くが、その背中は小さく見える。

僕達は4人に続き、寺院へと足を踏み入れた。


「失礼いたす。金嚇業君はおられるか?」


「・・・ほぉ、誰かと思えが天淵の犬か。」

「なに用でここに来た?」


恰幅のいい赤髪の男は、顎髭を擦りながら視線を向ける。

その横に控える青髪で均整の取れた体格の男は、冷たく視線を向けた。


「師の兄弟子に物申す事は憚られますが、ここは・・・」

「玄褘の解放をお願い致す。」

「あ奴があなた方に働いた無礼は、申し訳なく思います・・」

「しかし、それも彼の理解した師の教え。」

「あ奴はまだ未熟故、どうかお怒りを追沈めください。」


平伏し、師の兄弟子たちに礼を尽くす呀慶。

それを眺める赤髪はどこか含みある表情だ。

そこに、同じように平伏する3人の弟子たち。


「「「師匠の無礼、どうかご容赦を・・」」」


それを見つめる赤髪は、御満悦の表情だ。

しかし、青髪の視線は尚も冷たい。

そこで、赤髪は口を開く。


「ほぉ、お主らは只で許しを請うのか?」

「今日日民草でも、それ相応の対応はするがな・・」

「・・・フン、そういうことか。」


彼の視線は僕達をとらえ、舐める様に頭から脚先をなぞる。

そして、赤髪は口元を崩し、豪胆に笑う。


「ガハハハッ、坊主でも、理解はしているという事か。」

「珍しい姿の女・・・大小二人か。」

「フハハッ、まぁ考えてやっても良いぞ。」


その言葉に、呀慶は立ち上がる。

そして、正面の豪胆な表情を諫めた。


「仙に欲など・・・金嚇業君様。」

「彼らは私の友・・・それを取引の道具になどに致しません。」


「ほぉ、人は己の欲の為に、繋がりなど簡単に捨てるではないか?」

「我ら仙とて元は人、そこに違いはあるまい?」


ため息を吐く呀慶に対し、金嚇は尚も笑う。

そして、銀郭の肩に手を置く。


「師の教えなど無駄なのだ。」

「民草など、辛いときだけ慕い、そうでなければ倦厭する。」

「世の中なんぞ、他人の幸せよりも金と権力・・・それだけだ。」


肩に手を置かれた青髪の男は、視線を下げるも表情の変化はない。

同門とは思えない相手に、眉を顰め視線を投げる呀慶は、最後に問う。


「これが最後です。」

「金嚇業君様、銀郭徳君様、あなた方は無条件で、この者らの師を返さないと?」


「貴様も業が深いのう。天淵の犬よ。」

「師父の教えは、心に自分を住まわせろ、ではないのか?」

「お前の心には、その友とやらが居ついているのではないか?」


「金嚇、銀郭よ。彼らは無関係。」

「他人を巻きこんでまで、弟弟子を得ようとは思わんよ・・・」

「しかし、貴様らは我らを解放する気なんぞあるまい?」

「なんだ、この空間は・・・」

「解放するなら手を引く・・・玄褘は諦めよう。」


その言葉で僕は動いた。

背後の扉を押し引きするも動く気配はない。


「退け!ルシア。」


後方からは、アリシアが放った炎弾。

直撃するも、変化のない壁から僕達は理解した。

僕は、2人の仙を睨みつける。


「あなた達は、僕達をどうする気だ!」


「ほほぉ、活のいい娘達よ。」

「金にする前に、味わってからでも悪くないな。」


僕の前の3人も姿勢を直し、陣形を組む。

呀慶は、唇を噛み、一瞬憂うも表情を戻す。


「仕方あるまい、馬鹿な弟弟子の様に降る気はない。」

「沙簾、援護だ。」

「美斉、剛蓬は我に続け!」


「「はい、呀慶様。」」


呀慶は印を結び魔力を高める。

そして、その魔力を四肢に纏う。


「師の兄弟弟子だが、これ以上は見るに堪えん。」


「吠えるなよ。呀慶!」


互いの拳はぶつかり合う。

そこには、駆け引きなど一切ない。

衝撃破だけが互いを突き抜け空気を震わせる。

金嚇は、呀慶を抑え込み言葉を投げた。


「呀慶、魔力を抑えられて、尚この力とはな・・・」


「鍛錬の差だ。私は貴様ほど俗物ではない!」


二人の会話に割って入る様に美斉が飛び込む。

しかし、そこには余裕すら残す金嚇の表情。


「呀慶様、退避を!」


その声と共に側面から迫る美斉は、如意金箍棒で金嚇を襲う。

加速する質量は、甲高い音を立てる。

しかし、赤髪の男は容易く片腕で受け、美斉ごと壁へと飛ばす。

そこには、鈍く重い音だけが残る。

しかし、壁には傷突ない。


「美斉、大丈夫か・・・」


その体を、包むように剛蓬が受け止める。

しかしその衝撃は、彼の肉体を蝕んだ。

地面には、彼の食べかすと、その口から垂れる紅い血だまり。

後方で術式を組む、沙簾は自問自答する。

そこへ、アリシアは答えを乗せる。


「なによ、何で発動しないのよ・・・」


「おい亀、貴様の魔力では無理だ。」

「無駄に使うくらいなら譲渡しろ。」

「ルシア、私達で青いのをやるぞ・・・」


彼女は僕に視線を飛ばす。

そして、僕に向け術式を発動させる。

それは、光となり僕を包む。

そして、力を与えた。

しかし、難解な構築のわりに効果が低い。


「ありがと、アリシア。」


「空間が魔力を制限している・・・」

「すまん、ソレで手いっぱいだ・・・」


僕は、頷きレイピアを抜く。

そして、レイピアを紅い魔力の揺らめきが包む。

それとは対照的に、青髪は目を瞑り、印を結び続けた。

縮まる間合いは、まだ僕の制御下にはならない。

盾はなくとも、時計回りで距離を詰める。

そして、僕は体勢を沈め、白猫の様に突きを放つ。

加速する刃は、樋鳴りと共に青い髪を宙に躍らせる。

その動きは、アインのそれに近い。

その刹那、彼は目を見開き、覇気と共に魔力を解放する。


「喝!」


その衝撃波は、剣ではどうにもできない。

衝撃に跳ね飛ばされ、僕は天井に背をぶつける。

そして、抗うことなく地面に打ち付けられて横たわった。


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