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至らせ剣士は魔法使いの男の娘 -酔いどれエルフの謡う詩-  作者: 齋藤ミコト
第六詩節 ~ 徳と教 ~ 
188/325

12(188).崑崙の女帝

厚く重い城門が、ゆっくりと悲鳴を上げ動く。

広がる光景は、何処までも続く石畳。

そして、その奥に何者にも束縛されない居城が鎮座する。

後方からは、あの重苦しい悲鳴にも似た城門のゆっくりと閉まる音。

辺りには、街とは違い冷たい視線が感じられる。

そんな中で、黒い帽子の様な物を被った男性が僕達に近づく。


「ルシア殿で間違いございませんね。」

「呀慶様がお待ちです。 こちらへどうぞ。」


彼は確認すると、踵を返し僕達を引き連れ、長い階段を上り始めた。

正面のそれは、首を痛める程に高い。

アリシアは屈み、小さな淑女に声を掛ける。


「おいで、ラスティ。」


小猫は、振り返り足早に駆け、彼女に飛び付く。

そして、彼女の胸に頭を擦り付ける。


「ハハッ、違うだろ。」

「今日はこっちだ・・・」

「上に着いたら、また歩こうな。」


「うん。 アリシアありがと。」


小猫は彼女の胸から器用に肩掛けに移る。

そして、後方へ視線を向けた。

石階段は、人の階級差を見せるつける様にも思える。

先を行く、官職の男は淡々とそれを昇る。

僕の横からは、明るい声が静かに聞こえた。

そこの声でアリシアは足を止め振り返る。


「アリシア、街が見えたよ。」


「フフッ、そうだな。」

「遠くまで来たものだ・・・」


そこに広がる世界には、世界を隔てる山脈はない。

独特な山が点在し、空には鳥たちが舞う。

そして、眼下には整えられた街並みが広がる。

僕は、2段下を歩く彼女に手を指し出す。


「アリシア、行こう。」

「みんなで、たくさん思い出を作ろうよ。」


彼女は、僕の隣まで上がり、差し出して手を取る。

そして、いつもの悪戯な笑顔で微笑む。


「・・・期待しているぞ、ルシア。」


官職の男は既に石階段に姿は無い。

僕達は、足早に正面のソレを駆け上がる。

そして、静かにこちらに頭を下げる男に付き従った。

正面には巨大で荘厳な建物。

扉の前に待ち構える兵は、静かにソレを開ける。

そして、僕達を導く官職の男は、深く頭を下げ横へと下がる。

開かれた風景の奥には、何時かの暴君にも引けを取らない威圧。

そして、それ以上の魔力の塊が鎮座する。

僕は、その光景に呆然と立ち尽くした。


「おい、ルシア、膝を突け。」

「アレはこの国の女王だ・・・」


僕は、彼女の声で我に返り、急いで平伏した。

その姿に、玉座の女帝は、クスクスと微笑む。

そして、隣に控える白狼に耳打ちした。


「アレが、お主の鍵か・・?」


「はい、事を変える力はありませんが、治める可能性はございます。」


「珍しいな、お主が買い被るなど。」

「まぁ、彼奴の事もある・・どうせ、喰えない奴なのだろ?」


「アレとは違います・・・」


女帝は手に持つ扇をパチンと閉じる。

そして、妖艶な鈴の音を僕達へと飛ばす。


「西の冒険者よ。 よく来たな。」

「ちこう寄れ・・・あまり遠いと喉が痛む。」


僕達は、指示されるままに重苦しい空気へと近づいていく。

そして、玉座を祀る様に作られた階段の下で跪く。

頭上の女帝は、それを確認し声を投げた。


「呀慶からは、聞いておる。」

「お主らは蓬莱へ渡りたいのだな?」

「今一度、お主らの言葉で理由を申せ。」


彼女は、片膝をつき、その巻かれた蛇の様な尾の先を動かす。

そして、金色の瞳は、全てを見透かす様に光を讃えた。

その言葉に僕は、女帝に視線を向け想いを告げた。

それを静かに聞く女帝は、頬杖する手で唇をいじる。

一通り言葉を聞くと、彼女は目を瞑り、深く息を吐いた。


「・・・そうだな、お前の言葉に嘘偽りはない。」

「だが、見ず知らずの冒険者風情に渡航許可を出すわけにもゆかぬ。」


僕は、視線を落とし、静かに深い息を吐く。

それでもと、視線を戻す僕に、女帝は眉を顰め目を細める。


「とはいえ・・・呀慶に西を調査させたのも私だ。」

「・・・呀慶よ、まだ状況は動いてはおらんのだろ?」


「はっ。」


呼ばれた白狼は、頭を下げその言葉に間違いはないと意を返す。

それを、横目で流し、彼女は僕達に告げる。


「なぁ、冒険者よ。お主達の人となりを見せてみよ。」

「・・・そうだな、西竺の天淵に書簡を届けてくれ。」


女帝の言葉が終わると、官職の女性が前に出る。

彼女は、小さな机に乗せた1本の巻物を僕に差し出す。

そして、小さな机ごとその場に置き、また、下がっていった。


「お主らが戻る頃には、信頼に足るか判ろう。」

「旅路は長い、配慮して行くがよい。」


女帝はそう告げると、扇で下がる様に指示を出す。

しかしその姿には、嫌味も蔑む様子も感じられなかった。

静かに閉じる廟堂の扉。

目の前には、整えられた美しい街並みが広がている。

遠くの空には黒灰色の雲が浮かび、稲光が走った様に見えた。

玉座では、未来を見つめるラミア(龍獣人)が、白狼に耳打ちする。


「呀慶・・・力になってやれ。」


「女媧様のお心のままに・・・」


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