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9(185).崑崙の白狼

大河から陸揚げされる荷と人が入り混じる。

仲の良い3人の若い冒険者達は、希望を抱き街へ消える。

既に太陽は真上に昇っていた。

ここは、悠安の北に位置する街、江東。

この港は、大河と海洋が交わる場所。

港には、様々な船が停泊している。

街としてみると、北洲とあまり変化はない。

しかし、食文化は、海産物が増え、味に可能性を与える。

となると、淑女二人の行動に注意が必要だろう。

僕は、横を歩くアリシアに視線を送る。

その視線に返る笑顔には、無邪気さしかない事が心を抉る。


「なんだ、ルシア。」

「腹でもいたいのか?」


「何でもないよ・・・」


「フフッ、はぐれるなよ、ルシア。」


彼女は、そっと僕の手を握る。

人混みの中、僕達は潮風に見送られ街へと向かった。

服装も相まって僕達は街に溶け込み、問題が起こることは無い。

1泊の後、僕達は馬車に乗り、悠安へと足を進めた。

ゆっくり進む馬車から見る風景は、寂れた畑に堆肥を播き土壌改良する姿。

川では、洗濯をする集団と朗らかな風景が続く。

遠くの空には渡り鳥の群れだろうか、編隊を組み遠ざかっていく姿があった。

馬車は轍で上下し、その車体を揺らす。

僕の肩で寝息を立てるアリシア、そして足の上でも同じようにするラスティ。

肌寒い季節は、暖かく心地よい。

僕は、彼女の肩からずれた毛布を戻す。


「あっ・・起こしちゃったね。」


「んん、気にするな・・・」

「お前も寝るか?」


彼女は、目を擦りながら自分の膝の上を軽く叩く。

そして、僕の視線に優しく微笑んだ。


「さぁ、こいルシア。」

「一緒に寝よう。」


僕は、その誘いに思考を支配されかける。

しかし、それは状況的に問題だ。

これは寄り合い馬車である。


「アリシア、ダメだよ・・・・」

「僕の肩で寝てなよ。」



「あぁ、ありがとぅ。」

「おやすみ、ルシァ。」


彼女はまたスヤスヤと寝息を立てる。

それを見る対面の老夫婦は笑みを溢す。


「フフフッ、こまったお姉さんね。」


「娘さん、これをお食べ、おいしいよ。」


優しく微笑むお爺さんは、捻じれた焼き菓子の袋を手渡す。

そして、馬車は止まり彼らは降りていった。

手渡されそれは、サクサクとした触感が面白い。

口の中では、さっぱりとした甘さと深みのあるコクが残る。

僕は、脚を小猫、肩を甘党、そして小脇をこの揚げ菓子に抑えられ身動きがとれない。

少し悲しい表情は、前を通る者達に苦笑を強いる。

ゆっくりと進む馬車は、西の空を黒く染める頃、目的の街へ入った。


「はい。おつかれさんね~。」

「終点の悠安だよ。」

「忘れ物しても返せるか分からんから、忘れんなよ~。」


適当そうだが、最低限の必要事項を抑えた説明で僕は我に返る。

そして、もたれ掛かる二人を起こす。


「ラスティ。アリシア。着いたよ。」

「悠安についたんだよ。起きて。」


「・・・もう朝なのか?」

「・・ユウ・・餡・・?」


「・・・」


僕は、寝ぼけたアリシアを引っ張り馬車を下りる。

ラスティは、先に降り僕達を待つ。


「フフッ、アリシアダメだよ。」

「ウチみたいに起きないと。」


そう胸を張る淑女も、少しの寝ぐせがその淑女感を阻害する。

僕はラスティの頭を撫で、寝癖を直す。

それを見るアリシアは、未だに虚ろな目だ。


「アリシア、大丈夫?」


「あぁ、大丈夫だ・・・」

「夕餉は、悠餡だったか?」


「アリシア、たぶんそんなの無いよ・・・」


僕は、彼女らに水を与え、正気を取り戻させる。

そして一息つくと、目の前の華やかな景色に気が付いた。

奥には巨大な城が鎮座し、その周りを彩る様に光を擁く建物達。

それは、天羅の首都に勝るとも劣らない美しい夜景だ。

目抜き通りは、商人達が客引きをし、賑わいを作る。

そこにいる人々は、皆笑顔で会話し街を歩く。

僕達も人混みにまみれ、宿を探し、夕餉をとった。

そして、街はゆっくりとその明かりを落としていった。



悠安の朝は早く、白み始めた頃には、人の息遣いがあった。

僕は、宿の庭を借り、いつもの鍛錬を済ませる。

そして、部屋に戻ると、小さな淑女が伸びをしていた。


「んーーー。おはよ、ルシア。」


「うん、おはよ。」


彼女は、小さな手で顔を拭うと、窓から外を覗き見る。。

そして、その瞳は何かを期待していた。


「ラスティ、散歩に出かけようか?」


「アリシアは?」


「大丈夫だよ、鍵は2つあるからね。」

「書置きもしてくし・・・ねっ。」


彼女は、表情を和らげ頷く。

僕は、彼女を肩に乗せ、部屋を後にした。

街には、様々な香りが漂っている。

何かを焼く香りや、蒸す香りはどれも芳ばしい。

それの数々の匂い達は、小猫の鼻を惹きつける。

それでも、彼女の行動を僕は制御する。


「ラスティ、アリシアと一緒に食べようね。」

「後で買って帰ろ。」


「・・・うん、3人で食べると美味しいもんね。」


僕達は、街を散策し、公園の先にある霊廟で声を掛けられた。

そこには、少しだけ懐かしい白い被毛に赤い模様。

礼儀正しいが、どこか雑な言葉使いの白い狼。


「ルシアではないか。ひさしいな。」


「呀慶さん、あの時はどうも。」


彼は、微笑み、手を上げる。

そしてゆっくりと静かに歩き、手前で止まる。

彼は、肩に乗るラスティを見ると、優しく撫で彼女にも声を掛けた。


「ラスティ、元気であったか?」

「ほれ、これをやろう。甘くてうまいぞ。」


「ありがと、ガキョー。」


彼から手渡させた物は、先日老夫婦から貰った揚げ菓子だ。

僕達は、彼と共にゆっくりと宿へ向け歩いた。

その道中で、彼は僕達がここにいる理由を尋ねる。


「その表情を見れば女は救えた事は分かるが、どうして崑崙へ?」


「僕達は、封印について知りたいんだ。」

「・・・深くは、ここで言いづらいけど・・・」

「僕にとって大切な事なんだ。」


彼は、僕の言葉に腕を組み顎を撫でる。

そして、ゆっくりと目を瞑り思考した。

僕は、ラスティの口を拭き、彼の回答を待つ。

彼は、深く息を吐くと静かに目を開ける。


「ルシアよ、昼飯でもどうだ?」

「ここから見える、あの青い屋根の赤い柱の建物だ。」

「・・・この前の礼だと思ってくれ。 女も一緒で構わんぞ。」

「少しぐらいは、力になれるやもしれん。」


彼はそう話すと街へと静かに消えていく。

僕らはそれを見送り、アリシアの元へ帰った。


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