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6(182).西風と樹果

独立した巨大な塔の様な岩々が山を成す。

静かに流れた風は消え、黒く渦巻く大気は重苦しい。

5人は、辺りを見まわます。


「クソッ、ババアが消えた・・・」


「美斉、気を付けなさいな・・・」

「剛蓬、下がって、陣形を・・」


三人は攻めの陣を解き、守りに徹し辺りを警戒する。

僕達はそれに倣い、互いの背を預け警戒。

部屋を包む空気は重く、そして奥の部屋から洩れる熱が体力を奪う。

空気を壊したのは、場違いな優男の声。

その声と共に、その奥の部屋の扉は解き放たれる。


「お嬢さんは・・ダメでしたか・・・」

「いつまで経っても、心は変わらないモノですね。」


「糞坊主様・・ご・ご無事で何よりです・・・」


赤毛の猿娘は、優男に駆け寄り、一瞬表情を明るくするも、直ぐに元に戻る。

そこへ、残る2人も駆けよった。


「師匠、ご無事で。」

「美斉、師匠を頼む。」

「沙簾、警戒だ!」


僕達は、それをしり目に探知を強化するも、そこは魔力で満ちていた。

ただその場には、妖艶な笑い声が響く。


「クックックッ、ハッハッハッ・・」

「判るまい、貴様らの様な阿呆ではなっ・・」


「アリシア、上じゃないよ。」

「床の黒い霧!」


アリシアのフードから、小猫の視線がそれをとらえる。

それに応じる様にアリシアは術式を完成させた。


「払うぞ!」

「ルシア、準備しろ。」


僕は、視線をそのままに頷く。

そして彼女の発動と共に走り出す。

どす黒い霧は、光の孕んだ風に晒され、その姿を現した。


「やはりですか・・・黄風様。」

「・・・天淵様に破門されたとお聞きしましたが・・」


「破門・・フッ、私から辞めてやったのさ・・・」

「あんな・・・あんな奴・・」


そこには、妖艶なフチカリ(テンの獣人)の女性が眉を顰め、優男を睨む。

それに対し、優男は表情一つ変えない。

彼女は、手を横薙ぎに、魔力の嵐を放つ。


玄褘(げんい)、貴様の命で人神果を作り若さを取り戻すのだ。」

「・・・そして私は・・もう一度・・」


「・・・そんな事で貴方が救われるのであれば、それもまた師の教え。」

「好きにするといい・・」


その会話に被せる様に、美斉が優坊主の前に割り込む。

そして、妖艶なフチカを睨み、背後の優坊主に声を投げる。


「糞坊主様、貴方は(わたくし)以外に殺させはしません。」

「無暗に命を投げる様な事は・・・この私が許しません!」


そして彼女は、魔力を吸い続ける如意金箍棍を片手に、構えをとる。

その言葉で気圧される程黄風は軟ではない。

彼女は、不敵な笑みを浮かべその体を風へと変える。

それは、閉められた窓を破り、内苑に消えた。


「おっ師匠さま、更生なんか無理よ。」

「呀慶様も、黄風様にお会いになっているのでしょ?」


「・・・そうだが・・それでも私は見捨てたくはありません。」

「それが、私にできる、天淵様の教えなのですから。」


沙簾は師の背中を慰める様に視線を送る。

その先で、窓の外を望み、静かに呟く玄褘の視線はどこか遠い。

その彼らの空気を壊す小猫とそれを撫でる女。


「まだ庭に匂いがあるよ。」

「どこにも行ってない!」


「アイツ、飛べるわけではないのだな・・・」


僕は、ムッとする3人へ苦笑いを投げ彼らに合流。

そして軽い挨拶と目的を告げる。

7人は黄風を追った。



両開きの扉を開け放ち、目の前には庭園に鎮座する巨大な樹木。

それは、長い年月で少し形状は違うがドライアドの木だ。

だが、瘴気と死臭が辺りを覆っている。


「これは、誰にも渡さないわ。」

「んっ、ん。 私はこれを食べて美しくなるの・・そして・・」


その木の枝にみのる人の形を成す果実。

それを外見無く貪り喰らう黄風。

それは、何かを逆恨む様な形相で、髪を乱し、呪いの儀式さながらだった。

アリシアは、その姿にため息をつく。

そして、彼女は俯き言葉を投げる。


「お前、人を食わせたな・・・」

「しかしな・・・魔力は得られても、人は若返る事などあり得ない。」

「・・・時間は戻らないんだよ。」


「わかったような口をきくな下郎!」

「私は、私は・・・」


手に持つ果実は、重力に引かれ地面へと零れ落ちる。

そして、俯く女性からは、嗚咽と共に流れ落ちる涙。

その姿に、声を掛ける玄褘。


「黄風様。私が天淵様に取り合ってみます。」

「だから、安心してください。」


その言葉には複数のため息が聞こえた。

そして、剛蓬は自らの師の肩に手を掛ける。


「師匠、アンタは無垢すぎるよ。クチャクチャ。」

「とりあえず、ここで出来る事は何もありません。」

「さぁ、旅を急ぎましょう。」


「しかし・・・」


「ほら、行きますよ。ゲップ。」


三人は、後ろ髪を引かれる優坊主を引き連れ、五荘洞を後にした。

残された僕達は悩んだ。

死んだ者は、生き返る事などない。

僕達は、この結果を希望を抱き待つ町人へ報告するしかできないのだ。

ドライアドの根に絡まった遺品を集め、女仙を残し五荘洞を後にした。

吹き降ろす風は冷たく、火照った体を癒す。

町に着き、依頼は果たされるも、達成感などない。

その夜、町人は大きな篝火を炊いた。

それは、もう会うことのできない想い人への祈り。

闇は、悲しむ表情を隠し、その鳴き声を優しく包んだ。


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