4(180).消えた村人たち
朝のひと時を楽しむ受付嬢。
早朝の張り出しを終え、紅茶をゆっくりと口に運ぶ。
そこには、余裕から来る優雅さがあった。
彼女の前には、少女が佇む。
「どうしたの、はぐれちゃった?」
受付嬢は、ボロボロの身なりの少女に声を掛けた。
しかし、幼い顔のわりに、やや声は低い。
そして口調も、大人びている。
「いや・・・僕は、依頼を受けに来たんだ。」
「これ、頼めるかな?」
淡々と、慣れた手つきで進める少女を、彼女は興味本位で見つめた。
それを気にしない少女は、冒険者登録証を提示する。
「これで良いよね。お姉さん。」
「僕は、西方から来たルシアって言います。」
「一応、銀等級だから、受注条件は満たしているよね?」
彼女は、呆然とする。
一見、ボロを身に纏い、くたびれた路地にでもいそうな見た目。
しかし、その提示した登録証は銀等級。
彼女は、ハッと意識を戻し、混乱しながらも対応を始めた。
「る、ルシアちゃんですね。」
「受注は・・・問題ありません。」
現実を引き寄せる彼女は、思慮深く少女の顔を見つめた。
そして、そこにある、無駄に明るい笑顔に彼女は眉を顰める。
「・・・アンタ、大人をからかっちゃダメだよ。」
「ねぇ、あっちのお姉さんは、連れなんでしょ。」
「呼んできなさい・・・怒ってもらわなくちゃ・・・」
彼女は少し熱気を上げて、僕を叱る。
そして、視線をアリシアへ向けた。
アリシアは、受付嬢の視線を感じ、トコトコと受付へ足を延ばす。
「どうしたんだ?」
「すいません。この子、妹さんですよね。」
「躾、どうなってるんですか?」
「服装もボロボロだし、何なんですか、この笑顔。」
「大人を舐めてるとしか思えませんよ!」
彼女の説教を聞くアリシアは、小さく笑いを堪えている。
そして、その対応が彼女の熱気をさらに上げた。
「さっきからなんですか、クスクスと!」
「いやまて、コイツは大人だぞ。」
「私の・・・彼というか・・あまり言わすな、恥ずかしいだろ・・」
「何ふざけてるんですか、貴方は!」
「私は本気だぞ! なぁ、ルシア。」
「ボロボロなのだって董巌が悪いのだ。」
それは平行線を辿るも、昨日のミノスの老人が場を納める。
彼は、このギルドを取り仕切る主任。
熱を上げる受付嬢を落ち着かせると、僕らに頭を下げた。
そして依頼証を眺める。
「これは、申し訳がない事を致しました。」
「・・・はい、問題ありませんね。」
「依頼のあった町は、ここより西にある沙岸。」
「2日も歩けば着くでしょう。」
「どうかお気を付けて・・・」
僕達は、頭を下げる2人に別れを告げ、ギルドを後にした。
僕の後ろには、僕のマントを握り、保護者面のアリシアとラスティ。
これでは本当にロクでもない妹ではないだろうか。
僕は、眉を顰めアリシアに視線を送る。
帰ってくるのは小さな笑いだ。
「フフフッ、すまん。 あんな風になるものなのだな。」
「私は、フフフッ、少し残念だが、妹と言うのも悪くないな。」
「ハハハッ・・・すまん。」
「アリシア、ひどいよ。」
僕は、足早に店をめぐり、小さな抵抗をする。
それに気づくアリシアは、少し不満そうだ。
空が赤く染まる頃、僕達は宿に戻った。
夜は更け、隣のベットでは2人の淑女が寝息を立てる。
僕は、その寝顔から視線をレイピアへ。
そして、折れたレイピアの刀身を眺めた。
それは、月明かりに照らされ美しく光り輝く。
しかし、先端へ伸びる光は、折れたところで鈍い光の揺らめきへと変わる。
僕はため息をつき、そっと鞘へとしまう。
僕達は空が白けた頃に、北洲の街を後にした。
整地された街道を僕達は着実に西へ進む。
流石に欠伸をするアリシアは、僕のマントを掴んで後に続く。
しかしラスティは、僕のフードで世界を観察していた。
まだ、暖かい風は僕達を押す様に吹く。
街道では、警戒する騎馬兵士とすれ違うことがあった。
それは最初、緊張が走った。
しかし、日に3度もすれ違うと、そういうモノかと気にも留めなくなる。
ただ、何事も起きない街道は、警備あってのモノだろう。
3日目の昼頃、僕達は沙岸の町に着いた。
そこは、町ではあるが、村の様に人が少ない。
僕は、刈り入れが終わった畑で作業する農夫に声を掛けた。
「すいません、村長さんは何処にいますか?」
「はぁ・・・村長なんていねえよ。」
「ここは村じゃねっ、町だぁ!!」
僕は、頭を下げ謝る。
そして、静かに顔を上げると、農夫は、ばつが悪そうに声を返した。
「わかりゃあいいんだ。」
「町長は、奥の倉庫にいるべ。」
僕達は、足早に農夫に教えられた場所を目指す。
そこでは、秋の収穫を確認する中年のハヌマンがいる。
僕は、彼に挨拶し、依頼について話を始めた。
その話に彼は感謝し、僕達を家に誘う。
「この度は、本当にありがとうごぜぇます。」
「依頼の通りなんですがね・・・」
「ここより、西に見える大きな山がありまして。」
「そこに女仙が入ってから、町がおかしくなっちまったんですわ。」
「一月に一度くれぇの間隔で村人を攫うんですよ。」
「・・・どうしろっちゅうだよ・・まったく・・」
彼は、涙を浮かべ僕達に懇願する。
どうか、攫われた町人を救ってくれと。




