17.冒険者、古巣へ潜る
「久しぶりだなルシア。戻ったのか?」
懐かしい顔がチラホラすれ違う。
僕は元奴隷仲間たちに挨拶しダンジョンを進む。
全く知らない顔もあるが気にはならなかった。
今回の目的は、第2層にいるトカゲ:ケイブリザードを3頭以上を討伐することだ。
依頼の期日は最大5日、攻略は2日を2回繰り返す流れを予定している。
これはダンジョンの中で1泊し一度帰還、再度ダンジョンに潜り1一泊する中で依頼を達成ものだ。
1回目は一気に第2層の最奥まで潜り、そこから1~2体目標の討伐を目指す。
休憩できる場所まで探索したら1日を終了する。
翌日、魔鉱石を探しながら帰還する。この時、目的の魔物に遭遇するなら討伐していく。
僕は第2層の最奥を目指した。
第1層はスライムや植物系の魔物がいたが無視し奥へと向かう。
僕と同い年位の冒険者がパーティーを組んで、スライムたちと交戦している姿が目に入った。
苦戦している。しかし、だからと言って助ける義理はない。
残酷なようだが、同じ立場になっても助けてもらえる保証も無いからだ。
ギルド職員からは、助けた相手に殺されかけた冒険者の話を聞いていたからより慎重になる。
第2層に入ってもケイブリザード以外は無視。
入ってからだいぶ時間がたつからか、大分空腹だ。
第3層へ続く階段で索敵範囲を広め安全を確保する。
近くには魔物の気配は無いようだったので落ち着いて食事ができた。
相変わらずのパンと干し肉、そしてチーズ。
街の食事が愛おしく感じた。
僕は気を取り直しダンジョン探索を続ける。
第3層の階段からは、戻る様に右側の壁に添い第2階層を進む。
分岐があれば、そこは後に回し、第一階層への階段まで探索した。
その道中、目的のトカゲを見つけた。
奴隷時代は数えるほどしか戦ったことのない魔物だ。
トカゲはまだこちらに気づかれていない。
今回は鉈での戦闘を経験し鍛錬することも目的としている。
僕は鞘から鉈を抜き、トカゲの背後から襲う。
それは簡単に気づかれてしまい距離を取られた。
ケイブリザードは体制を整えこちらを威嚇。
お互いに睨み合い、場に緊張が走る。
ケイブリザードが先に動く。
体勢を落とし急加速から牙をむいた。
僕は右手の盾でそれをいなし、ケイブリザードの首すじに鉈の刃を立てる。
刃は途中で止まりケイブリザードは暴れた。
鉈の柄を両手でおさえ、全体重をのせ首を断つ。
勢いよく青黒い血しぶきが舞い、岩壁を黒く染める。
ケイブリザードの体は痙攣しているが、その命はもうない。
僕は武器屋のオヤジの言葉を思い出した。
この鉈は持ち手が少し長い、力のない僕でも両手持ちにすればソレなりになった。
オヤジには感謝しかないが、あのどや顔が脳裏に浮かぶ。
それは戦闘以上に精神力を奪い、脱力感が襲った。
僕はケイブリザードを引きずるながらダンジョンを進んだ。
半時ほど探索すると、こちらに近づく魔力を探知した。
今日は運がいい、早くも2匹目だ。
引きずるケイブリザードを洞窟の脇に放り体制を整える。
魔力の主は加速しコチラに近づく。
見える距離になると魔力の主はさらに加速。
そしてケイブリザードは飛び掛かる体勢をとった。
僕はケイブリザードを左に躱し、両手で鉈を振り下ろす。
樋鳴りだけがむなしく岩窟に響く。
ケイブリザードはすぐに体勢を整え、獲物に飛び掛かる。
右手に持った盾で横凪に殴りつけケイブリザードの勢いを殺す。
僕は殴りつけた反動を利用して体ごと回転する。
そして遠心力を乗せた左手の鉈をたたきつけた。
ケイブリザードは流血しつつも、後ろに下がり間合いを取る。
岩窟は足元を流れる風の音以外なにも聞こえない。
僕は肩で息をしつつ、体勢を整えた。
睨み合う中、位置取りを調整しつつケイブリザードを壁際に追いやる。
そして、ジワジワと間合いを詰めた。
後がないケイブリザードは勢い無く飛び掛かる。
僕は振りかぶった鉈でトカゲの頭をかち割った。
膝に手を当てゆっくりと息を整える。
どうにか討伐できた。
僕は周囲の魔力を確認し地図に記載のある安全地帯を目指す事にした。
大きな魔物が通れない程度の横穴に入り、その奥の空間へ向かう。
目的の場所にたどり着いた。
ソコは地下水脈もある冒険者が利用する安全地帯だ。
先人たちが年月をかけ拡張した空間だという。
ソコには別のパーティーもいた。
僕は彼らから距離を取り休憩の準備をする。
2頭のトカゲの血抜きを行い、トカゲから討伐確認部位である右前足を断ち切る。
残りの素材になる部位も綺麗に剥ぎ取りトカゲを解体した。
スムーズに解体ができたのはミランダの教えのたまものだろう。
終わるころには他のパーティーは見張りを立て休んでいた。
僕は焚火でケイブリザードに火を通し口に運ぶ。さっぱりした味だがそれだけだった。
洞窟の天井は高く煙が抜ける穴もある。もちろん風が通っているので籠ることはない。
マントに体を包み壁に体を預けた。
僕は魔力探知をしたまま目を閉じ休憩する。
4時間もすると、先ほどまであった5つの魔力は空間から移動し始めた。
僕は目を開け、地上に戻る準備を始める。
洞窟に流れる地下水は疲れた体を目覚めさせた。
今日はまた第2層最奥まで行く。そして魔鉱石を探しつつ上層の入口を目指す。
僕は数個の魔鉱石を採掘し1層まで戻った。
今回の成果はトカゲ2頭、低純度の魔鉱石10個。
ダンジョンを出ると爽やかな風が心地よかった。
僕は宿に荷物を預け街へ向う。
この街にはギルド以外に復興後に建てられた施設がある。
それは公衆浴場だ。
僕はこの施設に興味があった。
先日ファラルドから勧められた施設だからだ。
彼の話では貴族の風呂を大きくした様な施設だという。
農民がお湯につかる事など年に1度あれば贅沢といわれるくらいだ。
それが目の前にあるのだ。入らないわけにはいかない。
浴場は想像以上に広く心地よい暖かい空間だった。
そこは全裸ではなく肌着で入る場所で、女性も同じ空間にいる。
僕は赤面しながら、そそくさと流し場へ行く。
体を洗いさっぱりした気分で浴場の奥を眺める。
そこには大きな浴槽がある。
初めて見る風景に心が躍った。
何人も脱力した表情でお湯につかっている。
初めて浸かるお湯は得も言われぬものだった。
お湯につかると無意識に声が出る。
「フハー。」
どのくらいたっただろうか、天井を見つめボーとしていると、女性客の会話を耳に入る。
「マッサージしてかない?」
「いいわね。最近、足がむくんで辛いのよね。」
いくらか払えば、体をほぐしてもらえるサービスを受けることができるという。
興味はあるが、ここで浪費しては本末転倒だ。
僕は楽しみを残し、公衆浴場を後にした。




