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3(179).差異遊記

川のせせらぎは、爽やかな目覚めを与える。

遠くの山から日が顔を出す頃には、港は人で溢れた。

僕は、宿の庭を借り、日々の鍛錬に励む。

静かな動きから鳴り響く樋鳴りは、淀みなどない。

しかし、その姿はどこか悲しい。

空を切る剣先は、元の半分ほどだ。

しかし、同じように円を描く白い淑女は、別の表情をしている。

心なしか、その表情や振る舞いは喜びを感じさせた。

僕は剣を納め、その陰に頭を下げる。


「ミーシャ、すまない。」


返答の無い白い影は、風と共に消える。

僕は、俯き宿へと踵を返す。

そこには、いるはずのない存在が僕を受け止めた。


「すまない、ルシア・・・」

「私が、もっとしっかりしていれば・・」


その表情は、いつものそれでは無い。

僕の表情は、独りだと思い込んでいた為か、彼女の空気を重くさせた。

僕は、目の前で立ち尽くすアリシアに笑顔を投げる。


「違うよ。アリシアのせいじゃない。」

「僕が、もっとうまく使いこなせていれば・・」

「僕がもっと・・・」


「もうやめてくれ・・・私が迂闊なせいだ・・」


そこに流れる空気は重い。

そして、川のせせらぎが、逆に気分を落ち込ませる。

しかし、その空気を破る小猫は賢い。


「二人共、おはよ。」

「ウチは、良いことを覚えているの!」

「ガッサン?ってトコで、ミーシャの剣、打ち直せばいいじゃん。」

「もっとキラキラになって、ミーシャも喜ぶよ!」


「そうだね。モノは直るね。」

「アリシア、だから自分を責めないで・・ねぇ?」


僕は、ラスティの話に乗り、彼女を慰める。

俯き涙ぐむアリシアは、何処か重い表情だが、頷き笑顔を返す。

僕は、彼女の背中を押し、3人で朝餉へを求め部屋へ戻った。

朝食は、3人の中を修復し、一行にまた笑顔を与える。

太陽は徐々に上るも、未だに東の中程。

僕達は、宿を後にし、ギルドを訪れた。

ギルドの扉を開けると、併設する酒場から大きな声が聞こえる。

そこでは、激しく口論する二人の獣人の姿があった。


「さっさと、お食べなさい豚野郎!」

(わたくし)達は、糞坊主様を助けなければなりません。」


「豚野郎で何が悪いか!」

「そもそも俺は、豚だよ、オークだよ。この猿娘!」

「飯がまずくなるわ・・・」


意味をなさない口喧嘩に興味を持つラスティ。

それは、エリックさん例がある。

僕は、彼女の口を押え、アリシアへ預けた。

しかし、悪い空気は避けられない。

口論の席に掛けたもう1人が、僕に視線を送る。


「あーら! 可愛いお嬢さんじゃあないの?」


視線を外すことなく、近づいてくる緑の生物。

それは、少し背を丸くしているが、それを除けば美しい姿勢だ。

彼の顔の作りも整っている?と言えた。


「ねえ、アータ可愛いわよね。」

「ウチの猿なんかよりも、とってもキュートよ。」


「は、はあ・・・」


僕は、どこかでこの雰囲気の人間にあった事がある。

それは、違和感を除けば僕にとって大切な家族でもあった。

ただ、違和感だけが独り歩きした存在に僕は委縮する。


「なぁにぃ・・縮こまっちゃって・・きゃわいい♂」

「アータ、あたしとご飯食べない?」

「ねぇ、アータそんな身なりだけど・・・付いてるんでしょ、アレ♂」


僕は、押し迫る恐怖に1歩、また1歩とたじろぐ。

そこにアリシアが割り込んだ。


「おい。緑の・・なんだ貴様は!」

「コイツは。私の連れだ。・・・ んー・うま・・」

「ゴホン・・そう、私の連れなんだよ。」

「・・・あっちへ行け、この両性類(けだもの)!」


意気揚々と割り込んだ彼女の手には、何か甘い香りの飲み物。

めちゃくちゃな表情になりながらの助け舟は、既に沈没気味だ。

それを見守るラスティも、同じ飲み物を抱えている。

僕は、ため息を吐き、改めてアリシアと緑の男性?の間に割り込む。


「そういう事だから、諦めてくれるかな?」


「そういうの・・燃えるわぁ・・・」

「あたし、好きなのよ、そういう・カ・ン・ケ・イ・♂」


僕は、頭を抱え深いため息を吐き出したいと思った。

この緩い空気に嫌な緊張感は、どうしても慣れることは無い。

だが、3人と言うのは、相手でも心強い。

殴り合う猿と豚の席からは、1本の棒が飛んで緑の生物に直撃。

その存在は、涼やかな表情で机に勘定を置く。

そして、豚を引きずり近づく赤毛の美しい猿娘。


「すいません! 勘定を置ておきます。」

「・・・」

「色惚け両生類、何をやっているのですか、このタコ野郎・・」

「すいません、嬢さん。」


「ありがと、おねえさん・・」


彼女は、自分より上背のある緑の生物の顔を鷲掴みにする。

そして、引きずる様に2人を連れてギルドを後にした。

それは、ギルドに安寧が訪れたという事だ。

ギルドは、静かに毎朝の作業を続ける。

僕はあっけに取られたが、ラスティの声で意識を戻す。


「ルシア、依頼書取られちゃうよ。」


彼女は、アリシアの肩に器用に腰かけ、甘い香りを啜っていた。

僕は我に返り、掲示板へと歩を急かす。

流石にまだ、冒険者は少ない様だ。

そこには、昨日は無かった依頼が張り出されていた。

それは人探し、しかも報酬は銀貨10枚と割高だ。

僕は依頼書を取り、受付へ向かった。


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