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1(177).東の町の日常

踏み均された道をポツポツと距離を置き疎らに樹木が彩る。

遠くには広大な山脈があり、爽やかな風が駆け抜けた。

馬に乗り大きな背嚢を背負う男。


「おーい、ちょっとごめんよ。郵便が通るよ!!」


風に乗り通り過ぎるそれは、3人の前を通り過ぎていった。

太陽の位置は、まだ東にあるがこの時期はやや低い位置。

2人の前を小猫がチョコチョコと駆け回る。

それは、時に蝶と戯れ、時に花と会話した。

隣から彼女に注がれる視線は、いつもの様に優しい。


「フフフッ、アイツは何時までも可愛いな。」

「なぁ、ルシア。次の町でこちら側の服装にでも着替えないか?」

「・・・どうも、こうボロボロでは・・・」

「・・・流石の私でも周りの目が気になってしまう・・・」


僕にチラチラと送られる上目遣いの視線。

そこには、複数の意味があるのだろうが、主に”服が欲しい”だろう。

僕は、腰にぶら下げた財布に視線を落とす。

確認するもそれは、その重さに比例している。

ため息が漏れるも、諦めず袋を上下させた。

しかし、あの懐かしい重さのある音は帰ってこない。

隣から、眉を上げ、目を細めた彼女の覗くような視線は遠慮がち。

僕は、財布のひもを締め、彼女に提案する。


「アリシア、次の街で冒険者ギルドを探さない?」

「何か依頼をこなして、路銀を稼ごうよ。」


「・・・そうだな、何か魔物でも狩ろうか?」

「アイツの払いせに、スカッとしたいものだな・・・なっ!?」


彼女は僕に、気晴らしの同意を求める。

しかし、僕を挟むように冷たい視線が足元から彼女を襲う。

足元の淑女は、僕の体を器用に駆けあがり定位置に収まる。

そして、彼女に向けてその想いを告げた。


「アリシア・・懲りてない。」

「ウチ・・・ルシアがボロボロになるの嫌!」


「・・・すまない、ラスティ。」

「私は・・・・すまない、ルシア。」


場は少し重くなるも、小さな淑女は優しく彼女を窘める。

その姿は、さながら小さなミーシャだ。


「アリシア・・ウチも服欲しい!」

「だから、安全な依頼にしよ・・ね?」


「そうだな。 安全が一番だな。」

「・・・ラスティ・・まだ怒っているのか?」


アリシアは、また少し俯き彼女を伺う。

ラスティは、顔を明るくし、彼女の胸に飛び込んだ。

そして彼女に頭を擦り付ける。


「もう怒ってないよ。」

「ウチ・・・アリシア大好きだもん!」


「お前は・・・可愛い奴だ!」


お互いに顔を埋め合う姿は、僕には少し眩しく見えた。

太陽は徐々に高さを増す。そして小さな町へ到着する。



町には人だかりがあった。

そこには、数刻前に走り去った馬とその主。

そして彼は、町人から封書や荷物を預かり、同じように渡す。

僕は不思議に思い、アリシアに質問を投げた。


「アリシア、あれは何なんだい?」


「フフッ、お前もその喋りが板についたな。」


「嫌かい?」


「私は嬉しいぞ・・・では、本題に入ろうか。」

「お前は、手紙をライザに届けた事を覚えているか?」


「うん。アリシアが持たせたヤツだね。」


「よく覚えていたな。えらいぞ・・・」

「なんだその目は・・・」


僕は、目を細め彼女に視線を送る。

彼女の優しい誉め言葉は、嬉しい反面どこかこそばゆい。

そして僕は、だいぶ歳を重ねた。


「いいではないか、いつまでたっても私の可愛い弟子に違いはあるまい。」

「・・・私は、何時までも変わらぬ可愛いいお前を愛でていたいのだ。」


「「アリシア・・・」」


前半は、真顔だったが、後半はどこかで見た緩んだ笑顔だ。

僕は。少し寒気を感じ、辺りを見回すもその姿を確認する事は無い。

彼女に擁かれ呆れる小猫は、ジタバタと彼女の腕を払いのけ、僕のフードへ入り込む。

アリシアは、少し頬を染めながら咳払いをし話を続けた。


「んんッ、では、話しに戻ろう。」

「西側では、修道士が行っていた仕事だな。」

「それを、国の仕事として行っているのだろう。」

「そのおかげで道も綺麗だったろ?」


僕は、彼女の解説に納得し人だかりを眺めた。

人だかりは消え、僕達は、町の酒場を探し歩き出す。

町の規模のわりに人々は明るく活気があった。

僕達は、空腹を刺激する香り漂う少し大きめな建物に入る。

中では、気のよさそうだ女性が迎え入れた。


「いらっしゃい・・・アンタら、客かいそれとも仕事かい?」


僕は、アリシアに視線を送る。

そこには、目を煌めかせた彼女の顔があった。


「ここは、何がおいしいんだ?」

「・・・いや違うな・・・私たちは客だ。」


受付をする女性は、表情を崩すことなく僕達を机に案内した。

そして、僕達に温かい茶を振る舞う。


「でっかいお姉さん、この辺は内陸だろ。」

「だから香料をよく使うんだ。まぁ、少し辛いモノが多いよ。」


「・・・そうか、では、女将のお勧めを3人分頼む。」

「それと、1つは、柑橘系やネギ類は抜きにできないか?」


「・・あぁ、猫族かい。わかったよ。任せときな!」


女将は、ラスティにチラッと視線を送ると笑顔で奥へと消えていく。

そして、彼女の明るい声が厨房に響き渡った。

やる気ない返答が返り、その声とは裏腹に作業音が耳を楽しませる。

リズム良く刻む音、蒸気をあげ炒める音そして、その香りが店内に広がる。

少し経つと、やる気のない男の声は、女将に完成を告げた。

食事を待つ2人の淑女からは笑顔しか読み取れない程だ。


「はいよ、お待ちどう様。」

「少し辛いが、あたしゃ美味いと思うよ。」

「それと、あんかけには芋は使ってないから安心しな。」

「でね、これは食後に食べるんだ。」

「杏仁豆腐てんだよ。 」

「まぁ、ゆっくりしてっておくれ。」


そう言いながら笑顔で皿を並べ終わると、女将は受付へ戻っていく。

残された僕達の机を様々な料理が彩る。

どれも鮮やかな色合いで目も楽しませた。

皿に盛られ蒸気を上げる野菜は、シャキシャキとした食感が気持ちいい。

そして、青物独特の味を不思議と味わい深い旨味が包んている。

それは、どことなく貝類の味にも感じられた。

その皿を一心不乱に食べる小猫の唇は、茶色の口紅に染まる。

それを諭す、アリシアもまた言える立場ではない。

僕は、二人の淑女に柔らかい布を渡す。


「二人共、口。」


「「わかてるよ!」」


雑に返される言葉は、いつもの事だ。

僕の箸は、その野菜の炒め物と、こちらで覚えた米を交互に行き来する。

そして、楼臨でも出された麻婆豆腐。

辛みの中にある旨味、そして豆腐の甘みが食欲を煽った。

僕達の口元は、油で輝いている。

そこには、3人と笑顔であろうことは理解できた。

最後に残ったのは、女将の説明があった杏仁豆腐。

これからは湯気は立っていない。

しかし、その匂いは、甘味中毒者を引き付けた。


「ルシア・・これは素晴らしい匂いだ!」

「んんーーー!!・・これは素晴らしいぞ!」


僕は、アリシアの発狂に辺りを確認。

それは、予想していた通りで、周りの客は優しく笑う。

僕は、この優しい世界に救われた。

しかし、この杏仁豆腐という物は食後には最適だ。

アレだけ、食べた後でも、その重さを感じさせなくさせる力がある。

僕は喜ぶアリシアとラスティを優しく見守った。

太陽はまだ天辺にある。

僕達は風と共に次の街を目指した。


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