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29(167).天羅の暴君

草原を抜け、優しい風と共に街を目指した。

道行く人の服装は、僕達を目立たせる。

荷物を背おう姿は変わらないが、その衣装は何処か寝衣を彷彿とさせた。

見た目が違えど、そう言葉が変わることは無い。

行きかう人々は、皆明るく清々しかった。

とは言え、大きな街と村では、さすがに貧富の差は目に見える。

これが、師匠の言う人の業なのだろう。

僕達は、村を抜け大きな街を目指す。


「ラスティ、こっちへ来い。」

「攫われでもしたら、かなわんぞ。」


師匠は、膝をつき小猫をフードへと納めた。

小さな淑女は、ソコから後方の景色を眺める。

過ぎていく風景、流れ行く世界を彼女は堪能している。

そして町に着く頃には、小さな寝息を立てていた。


「師匠、付いたね・・確か楼臨って天羅国の首都だね。」


「うむ、よく覚えていたな、えらいぞルシア。」


「・・・師匠、褒めてくれるのは嬉しいけど・・」

「僕も、いい大人なんだけどな。」


「フフッ、お前の言うこともわかるよ・・」

「だがな、私にとってルシアはルシアなんだよ。」

「・・・可愛いルシアではダメか?」


「・・・」


僕は、眉を顰め目を細める。

その表情に不満げな師匠は、咳払いしを僕を諭す。


「しかし真面目な話、お前は、魂を魅かれその影響で・・」

「だから、お前の体は成長しないんだ・・・」

「その影響か、精神もどことなく可愛いままだ。」

「・・・私としては、構わないのだがな。」


「・・・少しは大人扱いしてよ。」


師匠は、そんな子供じみた事を言う僕を抱きしめる。

通り過ぎる人々は、それに目もくれず自身の事を考えた。


「すまないな、ルシア。」

「私は、お前に甘いのかもしれないな。」

「フフッ、しかし、私はどんなお前でも好きだぞ。」


「アリシア・・・」


夕日と共に街からは銅鑼の音が響く。

街の門へと急ぐ波に僕達も乗った。

ここでは、意外にも冒険者証が役に立つ。

そのおかげで僕達は、時間を取らされる事は無かった。

街には、木造の家が建ち並ぶ。

そこ光景は、西の国々とは全く違った。

目抜き通りには、四方を尖らせた様な屋根を持つ赤い柱の建物。

そして、温泉街で見た蒸篭を使った食べ物。

その湯気は、我が暴君を目覚めさせる。


「ルシア、あの湯気の奴を食べよう。」

「あれは美味そうだな。 いや、旨いに決まているぞ。」


スルスルと引きずられながら、僕は店へと誘われた。

言葉巧みな店主、それに目を輝かせる暴君。

彼女は、既に商品を受けっとっている。

ため息と共に開く財布は、銅貨10枚との別れ。

少し軽くなった財布と、笑顔に満ちた彼女の表情。

僕は、このジレンマに苛まれる日々を考え、またため息をつく。


「ほら、ルシアも喰え。」

「・・・な、旨いだろ!」

「これは、肉まんと言ってな。」

「餡子の代わりに、肉や野菜を詰めて蒸したんだそうだぞ。」

「・・・んーーー! 美味いなルシア。」


騒ぐ師匠の声と、匂いに目を覚ますラスティ。

彼女もまた、師匠と同じ行動にでる。

親子は似るというが、いらない所は似なくていい。

西と同じ様に、笑顔で通り過ぎる人々も変わらない様だ。

活気ある街を僕達は進み、大きな宿へ部屋を求めた。

静かな受付は、香が焚かれ心さえも癒す。

僕達は、部屋に案内され、その日はゆっくりと床に就いた。



翌日、僕達は、情報取集がてら街を散策。

街に流れる水路には船が浮かび、人を運ぶ姿もある。

一歩路地裏に入ると、その華麗さは消えた。

木材の素の色や白や黒を基調とした建物。

基本構造こそ似ているが、質はかなり落ちる。

しかし、西の国の様に、野垂れる者はいなかった。

進む先には、仰々しく縦に高い建物。

そこでは、手を合わせる人の姿。

師匠は言う。


「偶像崇拝・・・なのだろうな。」

「ルシア、これは、悪い事ではないぞ。」


「其々の人が想いの形を持つ事は、自由だからだよね。」


「そうだな・・・」


「どうしたの師匠?」


「フフッ、子ども扱いはダメか?」


「ダメだね。」


「フフフッ、可愛い奴だよ、まったく。」


師匠の笑いにラスティが、悪い笑顔で刺激する。

それは、やはりハーレの影響だろうか。


「アリシアも可愛い奴だね!」


「まったく・・あまりからかうなよ・・・」

「また吸ってしまうぞ、コイツは!」


フードに手を回す師匠から、逃げる様に僕に飛びつくラスティ。

最近の彼女は、自然体なのだろう。

彼女の優しい悪戯は、日々の癒しになった。

そして太陽は天辺へと昇る。

街はまた、暴君をめざめさせるのだろうか。

そんな、期待と絶望をあざ笑うかのように、師匠は僕を引き連れる。

向かった先は目抜き通りの大きな食堂。

中からは、食材を気持ち良く炒める音が響く店内。

そして、白い湯気と共に、水蒸気が上がる音。

遠くでは、揚げ物だろうか、食欲を抑えられる者などいない。

気づいたころには席で注文を待っていた。

机を賑わす料理は、油を使ったものが多い。

その中で目を引いた物は、赤いスープの中に肉と共に何かが入った皿だ。

豆腐と呼ばれる大豆料理と、挽いた肉、そしてネギを炒め、そこに香辛料。

そして、ジャガイモから作った粘りあるスープ。

従事は麻婆豆腐と言う料理だと説明した。

僕達は、ラスティには別の料理をよそい機嫌をとる。

彼女もジャガイモと聞き、悲しい表情を浮かべた。

しかし、後の師匠の反応に表情を戻した。


「はぁーーー! なんだこの辛さは・・・」

「なんだルシア、なぜ笑う。」


「だって師匠の唇、少し腫れてるよ。」


「なんだと・・・あまり見るな、恥ずかしいだろ。」

「・・・」


彼女は俯きながら席を立つ。

そして外へと向かう。


「師匠どうしたの?」


「察しろ・・・唇を冷やすんだ・・・まったく。」


「フフフッ、ウチ食べなくてよかった。」


師匠の背中を見るラスティは、何処か勝ち誇っていた。

そして、皿に盛られた、豚の丸揚げの芳ばしい皮を音を立てて頬張った。

時間が過ぎ、料理は冷め始める。

それでも師匠の戻る様子はない。

僕は、ラスティを連れ、店主の元へ。

支払いを済ませ、師匠を探す。

店員からは、有力な情報は得られない。

僕達は、彼女の足取りを追う事にした。


「ラスティ、師匠の匂いを追えるかい?」


「うん。まかせて!」


ラスティは、僕の腕から降り彼女の匂いを追う。

尻尾を立てた小猫は、店の裏口を出て、路地へと入り、さらに奥へ。

進むにつれ、治安の悪くなる街並み。

街の視線は、子猫から僕へと変わっていった。

路地を塞ぐ2人の獣人。

ヒューマンにしては毛深すぎる。


「へー毛無の女の子かぁ~。」


「たまには、こんな趣向も良いかもな。」


「バーカ、俺たちはネタ探しだろ。」

「手なんか出してみろ、奉蘭(ほうらん)様に何されるか・・・」


「それもいいかもしれないな・・・」


「ターコ、奉蘭様は男だぞ。」


僕は絡まれたが、放置されている事に少し空しさを覚えた。

行く手を阻む様に壁に突き出された脚を僕は潜り抜ける。

しかし、2人の剛毛人は邪魔をする。


「おい、小娘。 勘違いすんなよ。」

「お前が俺らに掴まった事は変わんねえんだわ。」


「大事なのは、そのあと奉蘭様にどうされるかだ」


「この発情猿が・・・奉蘭様はどうもしねぇよ。」

「どうかして欲しいなら、一人でやってくれや・・・」

「で、小娘。 俺らから逃げようだなんて考えんなよ。」


僕は、奉蘭という人物の事だけ頭に入れ、男達に手を当てる。

そして、魔力を流し込む。

しかし、それは叶わない。

彼らは、ニヤニヤと嫌な表情で無駄口を叩く。


「あっと、それはダメだぜ。」

「さっきのデカ女といい、西じゃ碌な技を使わんな。」


「はんっ! 抵抗ってのはもっと物理で来てくれよ。」


真面な男は、無駄口と性癖を垂れ流す男を睨みつける。

それは、大きな一瞬だった。


「お前、少し黙っててくれな・・・」


僕は、葉衣を真似て、右掌底を男の脇腹へ深く突き刺す。

それは、簡単に真面な男を区の字に曲げその場に沈める。


「このガキャ、何でそいつからなんだよ。」


僕は頭が痛い。

この一方通行で自由なノリは、あの精霊と同じだ。

しかし、糞野郎でも一応は斥候なのだろう。

直ぐに間合いをとり、体勢を整える。

僕は男を睨み、疑問を投げかけた。


「おい、デカ女ってなんだよ。」

「居場所を知ってるのなら、サッサと話せ・・・」


僕は、いつになく気が立っていた。

周囲には、僕の魔力が放出されていく。

それは、沈んでいる男の腕輪を音を立て砂へと変えた。

そして、沈む男は痙攣し泡を吹く。

それを目にした糞野郎は、後ずらし表情をひきつらせた。


「おいおいおい、物理っつったろ。」

「こんなんで逝きたくねえよ・・・」


「ふざけんなよ。 僕は、アリシアの居所を聞いている。」

「さっさと言えよ!」


一歩、また一歩と進む足取りに反応する糞野郎。

彼もまた、同じように歩を退ける。

そして、彼は路地から大通りと移し何かにぶつかった。


「なんだてめぇ、何処に目ぇつけてんだ、馬鹿野郎が!」


「お主は、私が悪いとでも・・・」


糞野郎は、振り返り、その姿に顔を更にひきつらせた。

そこには、白い狼の姿をした巨大な山伏が立っている。

そしてどこか機嫌が悪い。


「あ、いえ、その」


「謝るのか謝らんのか、はっきりせい!」

「猿獣人とは、もう少し頭が回るものではなかろ?」


白狼は、糞野郎の肩を掴み、そしてストレスを吐き出すかのように爪を立てる。

糞野郎は、肩の痛みと押さえつけられる力で膝をつく。


「痛ぁーー、俺が悪かった、俺がぶつかったんだよ。」

「あんたにゃ何もしてねぇだろ。」


「では、誰に何をしたのだ、申候。」


さらに山伏は、力を強める。

糞野郎は既に両膝をつき、何を拝むような体制だ。


「ほれ、申せ。」

「あの娘に何かしたのであろう?」

「さっさと吐かんと、腕がもげるか知れんぞ?」


白狼の口元は若干緩く、何かを見つけた様だった。

そして、糞野郎は、情けない顔で涙を流す。


「すいませんでした。俺たちは ──────── 。」


糞野郎は、白狼から解放され、捨て台詞を吐き消えていく。

それを鼻で笑う白狼は、僕に視線を向け優しく声を掛けた。


「奉蘭か・・・董巌(とうがん)の小姓め。」

「大丈夫であったか、西の娘よ。」

「私は、呀慶(がきょう)という旅の僧だ。」


白く美しい被毛には、赤い模様が神々しさを与えていた。


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