表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/325

25(163).馬頭の戦士

草原に集まる戦士達は、皆見上げる程に大きい。

そして、彼らの視線は師匠よりも高い。

様々な被毛は、どれも美しく輝く。

そしてその引き締まった筋肉は、男女問わす目を引いた。


「これは長老。 どういたしましたか?」

「今年は、負けませんよ。」

「あの美しい戦姫に一泡吹かせてみますよ。」


「・・・フォフォフォ、その意気ですよ馬観さん。」

「今日はね、すばらしい冒険者さんたちを連れてきました。」


馬観と呼ばれた、青黒く美しい光沢を放つ男性は、僕達に笑顔を向ける。

そして、片方の拳を包むように手を合わせお辞儀した。


「私は、馬観と申します。」

「・・・で、あなた方は、雑務を手伝ってくださるのですか?」


彼の言葉には裏は無い。

爽やかに響く声と表情は、それを裏付ける。

しかし、長老は笑い声でそれを遮った。


「フォフォフォ、よくありませんよ馬観さん。」

「人は見かけではありません。」

「貴方は、優しく聡い。しかし、詰めが甘くはありませんか?」

「それじゃぁ、いけません。」


「ハッ、長老。 意識を改めます。」

「では、戦士としてですか?」


「どうでしょうね・・・その力を検めましょう。」


「ルシアさん、準備はどうです。」


長老は、煽るような言葉を掛けながら馬観へ説いていく。

それは、さながら師匠と弟子の姿。

僕は、苦笑いを浮かべながら、長老の問いに頷き答える。


「では装備はどうしましょうかね・・・」

「それでは、一度構えてもらってもよろしいですか?」


長老は、構えた僕をまじまじと観察する。

そして、天を眺め、考えに耽った。

寝てしまったかのような安らかな表情から目は見開かれる。


「ルシアさん、貴方は体術も行けますね。」

「それなら、武器等不要ですよ。 それは・・・」

「それは、痛いですからね。」


笑顔の長老に流されるまま、僕は師匠にレイピアを預ける。

そして盾を預けようと外す。


「ルシアさん、ダメですよ防具を外しては。」

「いくら武器が無くても、守るものは必要です。」

「痛いのは出来るだけ減らしましょうね。」


僕は、盾なら使っていいのかと長老に問いかける。

その答えは、"可" だ。

何をしてもいいという。

ただ、ルールの範疇ではあるのだが。

しかし、僕はその言葉の意味をまだ理解していなかった。

僕は、準備をし馬観の前に立つ。

風は優しく二人を撫で、草原の緑を輝かせる。

長老の掛け声でそれは始まった。

僕は、盾を前に状況把握に徹する。

馬観は、その身を沈め、反発も利用し加速。

風は彼を後押しする様にその速度を強化する。

迫りくる彼は、左腕を突き出し距離を測る。

そして、間合いを理解。


「いきますよ!」

「ハァーーーー!」


左腕は下がり、その反動で右腕が迫りくる。

僕は、軸をずらし、いなす体勢へ。

腕は、盾を無視し、背中まで伸びて止まる。

地面には2本の大木が刺さる。


「甘いですぞ!!」


美しい黒光りする筋肉が浮き上がる。

そして突き出した腕を強引に腕を引っ張り寄せた。

そこには強く握り合わされ2つの拳は巨槌を形づくる。

その肉の槌は横薙ぎで加速した。


「クッッ!」


「ルシアーー!!」


後方で師匠の声が響く。

僕は、ギリギリ間に合わず、肩を強打し、空を舞った。

しかし、視線は彼から離してはいない。

馬観は、目の前にいる。

僕は迫りくる第二撃の対処に思考を巡らせた。

しかし、思考させない程に豪雨の様な打撃が始まった。

僕は盾に魔力を流し、そこから馬観へ。

彼は眉を顰め、目を見開く。


「すいませんが、これで終いです!」


彼は、腕を大きく振り被る。

まだ地面には到達しない。

踏ん張りなど効かない筈のソレは、魔力の風により加速。

後方からは、師匠の悲鳴のような声が聞こえる。

僕は集中し、彼に魔力吸収を掛けた。

空間は急激に魔力を失い、彼の魔法はかき消される。


「何を・・・君が魔術師だと・・」


「このーー!」


迫りくる巨大な拳に僕は、レイピアを持つ様に構え、それをいなす。

そして、がら空きになった脇をめがけ、脇を閉め盾を立てて構える。

瞬間、地面は僕の背中を強く叩く。

そして、馬観の引き締まった鳩尾に盾を食い込ませる。


「グフッ・・ね・狙いましたね。」

「小さ・な娘なが・・・・」


力なく覆いかぶさる馬観。

僕は彼の下からはい出し、彼に手を差し伸べる。


「大丈夫?・・・あと、僕は男だよ。」


「・・なんと・・珍妙な・・」


彼は、最後の言葉を残し気を失う。

後方では、師匠が胸を撫で降ろす姿。

そして、ラスティと共に駆け寄る。


「ルシア・・・」


彼女は昔より泣く事が増えた。

僕は、そんな彼女に擁かれる。

そして、頭の上からは彼女の囁き。


「ばかやろう、心配させるな・・・」

「・・・どこも、痛くないか?」


「うん、大丈夫だよ・・ゴホッゴホッ・・」


「ばかやろう・・」


師匠は離さない。そこに加わる小猫。

僕は二人の抱擁の受けた。

それを優しく見守る長老は策士だ。

彼の不敵な笑い声が、草原に木霊する。


「フォフォフォフォ・・・」

「若いとは良いものですねぇ。馬観さん。」


「面目ございません。」


「いやいや、これで今年は私たちの勝利です。」

「ハッハッハッハッ。」


遠巻きに観戦するグラシュティン達の気持ちは複雑だ。

しかし、彼らもまた、新たな仲間を迎え入れた。

風は優しく吹き、太陽の陽ざしと共に夏を告げる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ