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24(162).新世界

大隧道を東へと進む日々。

幾つかの町を越え村を越え歩き続けた。

大隧道には、多少なりとも商人達の往来がある。

彼らは活気よりは希望を抱き、皆粛々と先を急いだ。

しかしそこには、馬などいない。

起伏の激しい大隧道では、大きな蜥蜴が荷を運ぶ。

とは言え、整備されていない訳では無い。

正面には、疎らな列を遮る様に巨大な扉。

僕は、門番に法王から貰った通行証を見せる。


「・・・あんたは、商人じゃないんだな。」

「しかし、聖人には見えん。」


僕は、経緯を説明するも、それは無用だった。

彼は、笑顔で言葉の意を伝える。


「わりい、そういう事じゃねんだわ。」

「まあ、気を付けていけよ。」

「ここからは、ヒューマンが容易く住める世界じゃねからな。」


僕達は、笑顔の門番に見送られ、数カ月ぶりの光へと足を踏み入れた。

久しい風は優しく僕達を迎え、太陽は瞼の上からでも瞳を刺す様だ。

隣では背伸びする二人。


「んんーーーーーー! 気持ちいな。」


そこに広がる緑は、日の光に煌めき美しく香る。

その光は彼女の横顔を美しく彩った。

僕は、視線を外すことができない。


「んっ? どうしたルシア。」

「・・・フフッ、挙動がおかしいぞ。」


彼女は、戸惑う僕の手を握り、ラスティの後を追う。

小さな淑女は、子猫の様に辺りを満喫していた。

山岳地帯を抜け、辺りは草原へと姿を変える。

遠くにはテントにしては、がっしりとした建物が幾つも群れを成す。

そこには、いくつかの人影。

初めて見る人種に僕は戸惑ったが、大切なことを質問した。


「アンタらは、山の向こうから来た人かい?」


「は、はい。」

「あの、よかったらこの辺のことを教えて欲しいんですが。」


正面の人影は、頭を傾げ、腕を組む。

その姿からは悩んでいる様に読み取れた。


「そうだな、俺じぁあ、うまく伝えらんねぇな。」

「あそこのテントに行くといい、長老がいるからそこで聞きなよ。」


優しいい表情であろう人は、奥のテントへ指を向ける。

僕達は、男であろう優しい人に礼をい言いその場を離れた。

テントへと向かう道、僕は師匠に尋ねた。


「師匠・・・アレも獣人ですよね?」


「・・・ああ、たぶんそうだろ。」

「書物では、グラシュティンと呼ばれる獣人だそうだ。」

「私も初めてだ。」


ラスティは師匠のフードで身を強張らせた。

そして二人に声を掛ける。


「ウチ、言葉を話す馬は初めて見た・・・」


そう、僕達が言葉を交わした男性は馬の頭をした獣人だ。

それは、ダンジョンで幾度となく戦った、ミノタウロスにも似ている。

大きな違いは、意志の疎通が取れる事だろうか。

僕達は疑問を擁きつつ、長老のテントの前に辿り着いた。


「すいません。この町の長老様は、おりますか?」


直ぐには返答はないが、優しい声がその答えを返す。


「あぁ、おりますとも。どうぞ中へお入りなさい。」


テントの扉は優しく開き、日の光を導いた。

僕達は、入り口を開ける女性に頭を下げ、中へ入る。

そこはテントとは思えない程に充実していた。

床には板が敷かれ、必要な場所には絨毯。

中心にストーブと炉の様な設備を備え、周りを家具が賑わせる。

テントの奥に佇む白髪の獣人の目は優しい。


「これはこれは、どうなさいましたか?」


「お時間を頂き、ありがとうございます。」

「僕の名はルシアといいます。 山脈の西から来た冒険者です。」

「僕達は、この土地の事を知りません。」

「勝手な願いなのですが、この土地の事を教えていただけませんか?」

「貨幣が同じなら支払いもできます・・・」


長老は目を瞑り考えに耽る。

彼の耳はピンと立てはいるが、口元は緩い。

そして、目を開け僕達に提案する。


「あなた達は、冒険者だとおっしゃいましたな。」

「では、一つ願いを聞いて欲しい。」


「私達は、此方の世界に疎いが大丈夫か?」


「ええ、大丈夫ですとも。」

「私共は人手が欲しいのです。」

「それは、戦力でも作業を手伝う者でも嬉しい。」

「まずは、あなた方の等級と戦術を聞かせていただけませんか?」


僕達は、簡単に自己紹介し、長老の話を進める。

一通り聞くと、長老はその目的を僕達に話した。

その静かな瞳は、奥深くに強い力を湛えている。


「今年は、5年に1度の土地の取り合いがありましてな。」

「勝てば、好きな土地を持つことができるんですよ。」

「私共は何としても今年こそはと励んでいるのですが・・・・」

「まぁ、力では牛民が1枚上手でしてな。ハハハッ。」


長老は明るいが、僕にはその意味がつかめない。

聞く限りでは、戦争の様に思えるからだ。

僕は、その真意を確かめるべく質問を投げた。


「長老は、戦争がお好きなのですか?」


「滅相も無い。」

「・・・いやいや、これは戦争ではないんですよ。」

「戦争などは無意味です。」

「あれは、人も気持ちも失う。」

「私共は、牛民達と協定を結び、その範疇で競うのです。」

「ですから、その体作りには、時間も人手も必要なのですよ。」


長老の言葉に、軽く数回頷く師匠。

彼女は納得したのか、長老の声を掛ける。


「あぁ、かまわないが、何をすればいい。」


「ふむ、話の早い御仁だ。」

「まずは、その力を見せていただけませんか?」

「報酬は・・・そうですね、この地図と私の知るこの世界の事でどうでしょう?」


師匠は、僕に視線を飛ばす。

僕はそれに頷き、長老へ答える。


「うん、それで問題ありません。」


僕達は、長老に連れられ、馬民の集う草原へ向かった。

風は温かく、近づく夏を感じさせる。


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