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22(160).神の樹木

闇を晴らす様に、低い音色が鳴り響く。

そして、冷たい明かりが街を包む。

相変わらずの光景に、ため息と笑顔が漏れる。

隣のベットは相変わらずだが、師匠の寝ぐせは少しだけ減った。

薄暗い街は、朝の鍛錬と共に明るくなっていく。

行きかう人々は活気はあるが、その全てが希望に満ちているとは言えない。

街からは、芳ばしい香りと売り子の張りのある声。

雑踏が街を包む頃、2人の淑女は眠気眼を擦りながら姿を現した。


「おはよ、ルシア」


「相変わらず早いな。」


二人の笑顔は、僕に元気を与える。

誘われた先には、柔らかい布を広げる師匠。

その顔には裏は無いように感じられた。


「ありがと、師匠・・・何かあるの?」


その言葉に、眉を顰め切れ長の瞳を細める。

しかし、口は緩んでいた。


「フフッ、何でもないよ・・・なんでもな。」


僕は、少しだけ早く起きた2人に連れられ朝餉に向かった。

宿の食堂は、優しい香りで3人を包む。



3人は、宿を引き払い工房地区へ向かう。

金属の擦れあう音、ぶつかり合う音が、その活気を物語る。

そこには、それぞれの時間を過ごす2人組が溢れていた。

どの連れ合いも、似た様な会話を楽しむ。

チョコチョコと前を進むラスティに師匠は声を掛ける。


「ラスティ、あんまりじろじろ見るなよ。」

「さぁ、こっちへ来い。」


ハーレの様な表情を浮かべる小猫は、そそくさと師匠の腕に抱かれた。

そして、大きな瞳で世界を眺める。


「ねぇ、アリシア。」


「ん? どうしたラスティ。」


「アリシアは、甘えないね?」


不意をつかれた師匠は、焦りからかその口調を荒げる。

その姿は、平時の彼女とはかけ離れていた。


「バァ・・私は・・・違うぞ・・・」

「んんッ・・・・いいんだ・・・いいんだよ。」


「いいじゃん。 ウチ知ってるもん。」

「ウチ、二人が仲いいの好き!」


「・・・ラスティ。」


二人は、会話を楽しみながら先を行く。

雑踏に取り残される僕は、どこか物悲しく思えた。

それは、単に一人だからではない、場の空気がそうさせている。

それを感じたのか、先を行く2人は振り返った。


「ルシア、どうした? はぐれるぞ。」


「・・・ありがと、師匠」


手を伸ばす彼女の顔は、一際はまぶしく思えた。

目的地に到着し、僕は扉を開く。

閉店と書かれた扉は、優しく軋み中へ誘う。

呼び鈴が冷たい店内に響き渡り、家主にソレを伝える。

そして、しばらく経つと、明るい声が返ってきた。


「いらっしゃい。」

「ごめんね、こっちから行けなくて・・・」


「大丈夫だよ。僕にもその気持ちはわかるから。」


二ティカは不思議そうな顔で3人を見渡す。

その視線に、師匠は苦笑いしか返せない。

その懐に抱かれたラスティは顔を背ける。


「フフッ、あんまりからかっちゃダメよ。」

「ルシアくん、親しき仲にもってあるからね。」


「そうだぞ。ルシア。」

「女には準備に時間がかかるんだ・・・」


僕は、少し顔を赤くした師匠に、目を細め視線を送る。

しかし彼女は、視線を外しそっぽを向く。

共に過ごす時間と共に、増えていく彼女の表情。

そんな姿が僕には嬉しかった。

4人で雑談をしていると、階段を下りるタプリス。


「よう、早いなお前ら。」


「タプリス、アンタが遅いのよ。」


「ハハハハッ、そんなに睨むなよ。」

「・・・俺が悪かった、すまん・・・な。」


その姿は、以前にライザとルーファスでもあった光景。

それは、時代と共い受け継がれる習慣なのだろう。

二ティカの表情はすぐに戻り、彼にお茶を出す。

彼は一杯の紅茶を飲み干すと僕達に声を掛ける。


「お前ら今日行くんだったな?」

「途中まで送るよ。」


彼らには、外に出る準備など出来ているとは思えない。

僕は、あの時もそうだが、軽装過ぎる彼らに疑問を感じた。

それは、ラスティも同じなのだろう。

大きな瞳は、二ティカに問いかける。


「ねぇ、二ティカ。 身軽だね、良いの? 」


「んん? あぁー、私たちは大丈夫よ。」

「・・・お姉さんたちは大丈夫なの。」


不思議そうにその答えを受ける彼女は腑に落ちていない。

首を傾げ、その先を求めた。

しかし、師匠は声を掛ける。


「ラスティ、人にはな、踏み込まれたくない事があるんだよ。」

「お前の探究心は良い事だ。」

「でもな、その先を考える事も大事だぞ。」


「・・・淑女のたしなみ?」


「フフッ、ああそうだ。」

「 ミーシャ嬢も言っていただろ?」


「・・・?」


「・・・なぁルシア?」


師匠の優しい表情は、苦笑いに覆われる。

そして、助けを求める様に視線を飛ばした。

僕は、眉を顰め考えをめぐらす。

そこに映るミーシャの姿。

彼女は、ガサツではないが師匠の様な面が多い。

悩む2人に、吹き出す2人。

少し重かった空気は、いつの間にか消えていた。

戸締りをして、一行は街を出る。

既に昼の鐘は静かに鳴った後だ。

軽鎧以下の二人は、僕達の後ろを歩く。

大隧道の起伏にとんだ道は、その先の世界を守る様にも思えた。

進んだ先は、大きく開け、天上からは太陽の光が差しこむ。

そこには、正面を覆いつくす巨大な樹木。


「相変わらず元気そうだな。」


タブリスは、巨木を見つめ、声を掛けるように呟く。

隣に控える二ティカも古い友を見るような表情だ。

彼らは、巨木に手を当て、話を続けた。

その言葉は、僕にはわからない。

時間と共に、彼らの周りには宝石生物が群がる。

その光景に戦慄はない、ただ静かに、ただ優しく。

師匠は、そこ光景を見つめながら僕に呟く。


「なぁ、ルシア 」

「玉の守り人という題の本を覚えているか?」


「うん、たしか、ゲニウスっていう神の眷属の話だよね。」

「師匠よく読んでたよね、その本。」


「そうだな、長い時をその任と共に生きる存在。」

「昔は、悲しく思えたよ・・・悠久の時を生き続ける事にな。」

「もしそれが、彼女達なら・・・」


「そうだね。僕には幸せそうに見えるよ。」


彼女たちは、優しく僕達を呼ぶ。

彼女たちを囲む動物たちは、僕達の歩みを恐れない。

二ティカは、世界樹の根もとでその成り立ちを話した。


「あなた達は、繋ぐ者を追っているのよね。」


「二ティカ、繋ぐ者とはなんだ?」


「そうね、繋ぐ者とは、魔を解放する者、世界を繋ぐ者よ。」

「ルシアくんの父親は、きっと魔を解放しようとしているわ・・・」

「そうね・・・アリシア、貴方の向かう先もきっとそこに在る。」

「だから、あなた達には知って欲しいの・・・世界樹の成り立ちを。」


世界樹の揺れることのないその姿は、雄大さの中にどこか儚さを感じさせた。


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