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15.自称冒険者と薬師の依頼

酒場の掲示板に向かい、一通り依頼書を確認する。

その中から安全そうな依頼を探す。

目に留まった依頼内容は薬草の採取。依頼主はこの町で薬屋を営む女性だ。

依頼書を取り、依頼主の家に向かった。

薬屋の扉を開けると、乾燥した様々な草花の匂いが優しく広がる。

僕は母と過ごした家の思い出でが蘇った。


「あの、すいません。薬草採取の依頼を受けに来ました。」


返答はない。カウンターらしき場所まで進み、もう一度呼びかける。


「すいませーん。」


奥にはコップを片手に本を読む女性の姿があった。

彼女はハッと驚いたようこちらを向くと挨拶を返した。

僕が依頼について尋ねると、彼女の顔は明るくなる。

彼女曰く、依頼書を出した日からだいぶ時間が経ち諦めかけていたという。


「お兄さんが受けてくれるのね。助かるわー。」


この町でもそうだが、大体の女性は僕のことを男性と認識してくれる。

酒場の女将の様な人でないことを祈り話をつづけた。

依頼内容は"アモリウム"の採取だ。

この町から見える山の中腹に沼があり、アモリウムはそこに自生している。

この植物は秋から春にかけて青白い花をつけ、夜になると花ビラが優しく発光する。

そのため夜間は特に見つけやすいそうだ。

自生地には白い蛇が出るというが、この蛇は温厚な性格で草食性だという。

ここまで聴く限り難しい依頼ではないように感じる。

山の獣が危険かと聞くとそれもないらしい。

この時は依頼の受け手がいない理由は分からなかった。

他の冒険者が受けない理由は不明だが、僕が受けた理由は2つある。

この依頼は他のモノより拘束される時間と費用から考えると報酬が良かったこと。

そして、酒場の女将さんが少し困った顔をしていたことである。

もちろん、依頼を達成できるが自信はあった。

それは、奴隷時代に荷物持ちではあったが、ダンジョン深層まで潜った経験があることだ。

しかし、この時はまだ後に後悔するとは思わなかった。


翌朝、1週間分の食料を持ち山へ向かう。

季節は冬であった為、目的地までは魔物や獣に会うことはなかった。

山は頂上から中腹にかけて雪化粧し、風音だけが静かに聞こえる。

近くをせせらく川音が一層寒さを感じさせる。

僕は、これほど過去の自分を殴りたいとは思わなかった。

凍てつく想いで、道なき道を進む。

そこにはうっすら霧の立ち込める湿原があった。

アモリウムの群生地だ。

沼に入らないように地面を感じならら進む。

濡れずに採取できそうな場所を見つけ、依頼数を採取する。

一見ただの花の様だったが、触るとわかることがあった。

この花は茎と根の間に膨らみがあり、そこに魔鉱石に似た独特の魔力を感じる。

少し興味がわいたので、僕は追加で4株ほど採取した。


採取がおわり帰り支度をしていた時に空気が変わる。

背後に大きな魔力と共に絡みつくような視線を感じた。

瞬間、地面が遠くに見える。

魔力の主と距離はまだあったはずだ。この感覚は不味い。

沼から森の中まで吹き飛ばさられたが、木々の枝と雪がクッションになり無傷で助かった。

あの嫌な視線はまだ感じる・・・

巨大なモノが地面を這いずり木々がきしむ音が聞こえる。

自分の体を確かめ盾を構た。

見上げる程のソレは鎌首をもたげ、こちらを窺っている。

僕は下唇を噛み、何も考えていたかったことを悔やんだ。

この種の獣は、冬眠しているだろうと高をくくていた。

過ぎたことはどうにもならない。頭を切り替え、蛇の弱点を考える。

しかし、大蛇は暇を与えない。

一瞬で間合いを詰められ、盾を構える右手に重い衝撃がはしる。

後ろに吹き飛ばされたが今回は地上にとどまることができた。

攻撃がアホほど早い上に重い。

僕は今使えるものを考える。盾、鉈、松明の3つだ。

鱗は厚く黒光りしている。

その鱗は、あれだけの攻撃をしているのに傷一つない。

僕の剣技では死にに行くだけだ。物理攻撃は無駄だろう。

では逃げるならどうだ。

ヘビは熱を感知し獲物を捕らえるという。

頭をよぎる考えは無謀だった。

体温を下げればどうすれば・・・川に飛び込むくらいしか浮かばない。

先ほどの川は飛び込めるほど深くもないし、この環境だ。

体温低下は死に直結する。

僕は馬鹿な考えはやめた。

そもそもあの移動速度だ。

オトリが無ければ逃げ切れるものでもなさそうだ。

僕は明らかに混乱していた。

ふと視線を落とすと、左手には炎が揺れている。

「松明か・・・」

僕は、松明を大蛇の顔をかすめその後方へ飛ぶ様に投げてた。

しかし反応が全くない。

その間、大蛇は何度も体当たりを繰り返す。

思考しつつ、攻撃を盾でいなす。

完全に手詰まりだ。

僕は分かったことと予想できることをまとめてみる。

不意を突かれ無ければ、初撃ほどダメージはない。

火に対し全く興味を示さない。

これは熱を感知しているわけではないだろう。

それ以外には大蛇からはあの花に似た独特の魔力を感じた。

様々な記憶をあさり、思考を繰り返す。

一つの記憶の中に光明を見出した。

ダンジョンには、目が見えない代わりに魔力を感知して獲物を捕らえる魔物がいる。

僕はダメもとで、腰に下げた袋から1株の青白い花を取り出した。

そして魔力譲渡を花に行う。

花は魔鉱石に比べ、溜めた魔力の急激な減少はない。

大蛇の後方外向けて投げてみると予想通り。ついに勝機が見えた。

自分の魔力が花のソレより小さくなるように魔力を譲渡する。

そして大蛇の後方目掛け投げた。

大蛇は花を追い、僕への視線が完全に切れたことが判る。

僕は振り返ることなく必死で走った。

後方からの嫌な視線も魔力も無い。あの嫌な這いずる音も聞こえない。

僕は沢を越えたあたりで振り返る。

そこには静で少し寂しげな風景が広がっていた。

ホッと胸をなでおろし、沢の水を手ですくい口に運ぶ。

どうにか大蛇の気をそらし逃げることができた。

あんな化け物がいては誰も依頼を受けないのは当然だろう、報酬の割が合わない。

僕でも攻撃を防げていたので、それなりのパーティーなら討伐もできるだろう。

しかし、それこそ慈善事業でしかない。

あの薬師は人の好さそうな顔をしていたが、彼女もしたたかなのだろうか。

僕は無駄な疑問を浮かべつつ山を下り、最初に野営した場所で休むことにした。


6日後、僕は町に戻った。そして薬師の店に入る。

やはり心地いい香りがすが、ため息が出でた。

奥の方からゴリゴリと薬研で薬草を砕く音がする。


「戻りましたよ。・・・」


「はーい、ちょっと待っててね。」


真剣に調合しているようだったので、近くの椅子で待たせてもらった。

暖炉の火がちょうどいい。

優しく肩が揺らされふと寝ていたことに気付く。

そこには、やわらかい笑顔で薬師が微笑んでいた。


「ごめんなさい。待たせちゃったみたいで・・・フフッ、疲れた時は、これを呑むといいわよ。」


依頼品を背嚢からだし薬師に渡すと感謝された。

薬師に勧められたお茶を飲みながら大蛇の事を伝えた。

すると、薬師の言う蛇と大きさが違っている。明らかにアレは大きすぎだ。

薬師は、その個体はアモリウムを食べ続けて変異したんじゃないかと考察する。

笑い話では済まないレベルだが、笑い話になってしまう。

僕は彼女を疑っていた自分が恥ずかしくなった。

薬師はこの花について興味深いことを話してくれた。


「この花は、この膨らみから下を切って放置しても、花が枯れないことがあるのよ。」

「そのことを研究した魔導士がいてね。」

「ある老夫婦の家で飾られていたものは花は夫婦が亡くなると、枯れてしまったそうよ。」

「また、ある若い夫婦の家で飾られていたモノは枯れた年月が過ぎても色あせないかったの。」

「このことから、その魔導士はアモリウムは、所持者の魔力に関係しているのではと仮説を立てた」

「そして調査を進め、答えをみつけたの。 結果は予想通りだったそうね。」

「その結果が発表されてからは、アモリウムは別名"死を告げる花"と呼ばれるようになったのよ。」


僕は山で死を告げられず澄んだことを神に感謝した。

薬師はアモリウムの話を終え、また僕へ謝罪を送る。


「フフフッ、ごめんなさいね。状況が見立てと変わってたみたいで。」


「いえ、僕が甘かったんですよ。」


「真面目ね、じゃあ、報酬は色を付けてあげるわね。」

「・・そうね、今日はもう遅いし、泊っていきなさいな。」


薬師からは青白い花の話以外にも色々な薬草の話聞いた。

町の帳は落ち、暖炉の炎が色濃く感じられる。

借りた部屋のベットに入ると、心地よい眠気に襲われた。

その夜、僕は4年前に死んだ母の夢を見る。

それは僕がまだ小さい頃の母だった。

勉強や手伝いをしで褒められたり、怪我をして心配されたり、そんなありふれた事柄だ。

僕は久しぶりに母を感じ心が重く苦くなった。

こんな夢を見たのは薬師の雰囲気が母に似ていた為だろう。


翌朝、報酬とは別にマナポーションを2つ渡された。

それは即効性が高いが効果量が少ない物と、時間はかかるが効果量が多い物の2種類である。

マナポーションは効果量にもよるが高価なものだ。

薬師に申し出を断ろうとすると、彼女はこれらの素材がアモリウムだから気にするなと言う。

僕は薬師にお礼を言い町をあとにした。


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