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21(159).石の意志

静かな部屋で2人は本を見つめる。

1人の女性は、真剣にそれを読む。

そして残る一人は、1度読み終わった本の項を指で持て遊ぶ。


「なぁ、ラスティ。」

「ルシアの後を付けてみないか?」


「忘れ物、取りに行ってるだけでしょ?」

「ウチ、本読んで待っててもいいよ。」


本から目を離さない小猫。

それに視線を向けるアリシアの表情は小悪魔だ。


「フフッ、アイツの性格で忘れ物なんてありえないさ。」


「そうなの?」


小猫は集中力を切らし、耳だけピコピコと動かす。

それを撫で、本を閉じるアリシア。

そして、装備を整える。


「表情を見ればわかるさ、何か企んでるんだよ。」

「フフッ、相変わらずなヤツだ。」


アリシアは、魔力探知の範囲を広げる。

それは街を覆い、彼女の知る魔力を見つけた。


「ラスティ、フードに入れ。」

「さぁ、行ってみようか。」


魔導の光は、彼女たちを照らすが、その影はすぐに消える。

72番坑道の壁面は白い。

小さな小動物達の視線が、二人を見つめる。

小猫はアリシアのフードに深く入る。


「ウチ、なんか見られている気がする。」


「ああ、でも大丈夫だ。」

「カーバンクルって奴は、友好的な動物でな。」

「昔の貴族は、その優美さを愛し、共に生活する者もいたよ。」


彼女は、奥から戻る3つの魔力を感じる。

それに対し、闇に隠れ、魔力の色を周りに合わせた。


「ラスティ、静かにな。」


「なんで隠れるの?」


「こういうのも面白いだろ?」


「・・うん。」


二人の尾行は続く。

彼女たちの前を3つの魔力は過ぎていく。

通り過ぎた後には、2つの笑い声がクスクスと小さく闇に消えた。



13番坑道は、下へ下へと延びていく。

僕は、ゆっくりと慎重にくだった。

そして、目の前には光の雨。

辺りは、光に包まれて幻想的な空間が広がる。

しかし、水晶が道を塞いで前には進めない。

だが、二ティカはその水晶達を撫で声を掛ける。


「ごめんね、通してちょうだい。」


無機質に見えた結晶は、その声に答えて姿を変える。

そこに魔力の動きは感じなかった。

彼女は、何事も無かったように微笑みを返す。

日常風景の一部であるかの様に前の2人は進む。

下るにつれ外気は暑くなり、僕はマントを背嚢へしまった。

足元を流れる川は紅く沸き立ち、ドロドロとゆっくり進む。

天井には、蛇の様で蝙蝠の様なキラキラ光る生物が疎らに飛ぶ。


「変ね、彼女たち殺気立ってない?」


「そうだな・・・」

「おい、ヴィーヴル達! どうしたんだ?」


タプリスは天井の生物に声を投げる。

しかし、天上を舞う生物たちは、ざわつくばかリ。

声を掛けながら進む先には、巨大な樹木の根。

紅い粘りある川につかるも燃え上がることは無い。

正面には、翼を持つ大きな蛇が一頭。

その体は、宝石の様に硬く美しい光を返す。


「ヴィーヴル。どうしたんだ?」


「タプリス、ダメ!」


目の前の蛇竜は、その美しい牙を二人へ向ける。

軽鎧以上に軽い為か、虚をついた刃は衣服をとらえるだけ。

僕は、彼らの前に立ち、盾を構えた。


「タプリス、二ティカ、下がって。」


「待ってくれ、アイツは正気じゃない。」


「タプリス、僕の言うことを聞いて!」


僕の声の圧は、ダブリスを下がらせる。

そして、それを保護する様に、二ティカが駆け寄った。

彼女は、眉を顰め唇を噛むタプリスに寄り添う。

そして僕に懇願した。


「ルシアくん、ヴィーヴルを殺さないで・・・」

「彼女は、こんなことをする子じゃないの。」


僕は、眉を顰め深く息を吐く。

そして、レイピアの柄に触れた手を遠のける。


「わかったよ・・・」

「君たちは、岩の影に隠れていて」


殺気しか飛ばさない蛇竜は、野生のそれを失っている様にも見える。

何かに突き動かされる様な姿は、2人の心を締め付ける。

8の字を描き飛び回る蛇竜は、それを止め一直線に牙を剥く。

下手に防げば、マグマに転落するだろう。

僕は、盾に魔力を込め、いなす体勢で待ち構えた。

盾には、予想を超える重さが掛かる。

魔力は、盾から蛇竜へ流れていく。

そして急速に吸収された。

それは、限界が見えない魔力量だと思える程だ。

どうにか、蛇竜をいなす事は出来た。

しかし、予想以上に魔力は喰われ、不安が過る。

空中では、あざ笑うかの様に8の字を描き舞踊る蛇竜。

肩で息をする僕に、後方から声が飛ぶ。


「ルシア、逃げるぞ。」

「魔力は、ダメだ! アイツは特殊魔鉱結晶そのものなんだ。」

「高純度の魔結晶の比じゃない。」


僕は声の主から意識を戻し、蛇竜を見据えた。

息を整えながら思考する。

吸われはしたが、魔力には、まだ余裕がある。

重さも、予想は超えたが無理ではない。

しかし、盾では効率が悪すぎる。

僕は、眉を顰め唇を噛む。

そして、息を吐き次の衝撃に備える。

宙を舞う蛇竜は、またその軌道を変え襲い掛かった。

暴風は、僕を巻きこむ様に軌道を変える。

その時、優しく信頼できる声が聞こえた。


「ルシア、横に跳べ!」


声と共に巨大な魔力が、蛇竜を襲う。

重量を持った風は、蛇竜を地面に縛り付けた。

そして、地面から巨木がそれを逃がさない。


「師匠! どうしてここに。」


「フフッ、私もオヤジに用事だ。」


師匠は、悪戯な笑顔で僕を弄ぶ。

それは操る魔力も同様で、僕は不要な蔦で縛られた。


「一緒に思いでを作ると言ってはいなかったか?」


「これは・・・」


師匠の笑顔は変わらない。

彼女は笑顔で魔力を放つ。

それは攻撃的なモノではない。

僕を縛る蔦は、魔力に変わり僕に注がれた。


「ありがとう、師匠!」


「さぁ、終わらせてしまえ。」


僕は両手で、蛇竜に魔力を流す。

その蛇竜は、一瞬力を強くするも、徐々に弱めた。

そして、眠る様に地面に横たわる。


「師匠、ありがとう・・・」


「フフッ、では、言い訳を聞こうか。」


「これは・・・もうすぐ師匠に会った日だろ。」

「僕は、師匠の誕生日なんて知らないから・・・」

「せめて記念の日に・・何か喜ばせたかったんだ。」


「フフッ、お前は可愛いな。」

「嘘をついて、隠す事だってできただろ?」


「師匠に嘘をつきたくないよ。」


二人の会話を聞く3人。

そして彼女達は、二人を優しく眺める。

しかし、彫金師達は、そのもどかしさに限界を迎えた。


「アンタ達、人前でやめてくれよ。」

「こっちが恥ずかしいぜ。」


「フフッ、若いわね。 お姉さんはそういうの好きよ、甘酸っぱいの。」


二人の言葉に優位性を失うアリシア。

煽られた2人の顔を交互に伺う小猫は、笑顔に変わり2人を煽る。


「二人とも顔、真っ赤だよ。」


アリシアは、二ティカに向けて言葉を投げる。

そこには、依然優位性は無い。


「私は若くはないぞ。年寄りを煽るな。」


「貴方が年寄りなら、私は棺桶に両足入ってるわよ?」


アリシアの顔は赤いままだが、疑問符が浮かぶ。

不思議な空気は、タプリスの言葉でかき消された。


「アンタら、すまなかったな。」

「ヴァーヴルを殺さないでくれて、ありがとう。」

「そんじゃぁ、コイツの鱗を貰っていこうぜ。」


タブリスは、横たわり寝息を立てる蛇竜を撫でる。

そして、1枚の鱗を採取。

これで、全ての素材はそろった。

5人で戻る帰り道、僕と師匠はどこか居心地が悪い。

しかし、お互いの手は無意識に握り合う。

離れる事のない手は、洞窟の熱さを感じさせなかった。



店に戻り、僕はダプリスに依頼する。

それは、師匠への贈り物。

小一時間すると、彼は笑顔で箱を渡す。


「ルシア、お前の想い伝えてこい。」


「・・・ありがとう、タプリス。」


僕は受け取り、彼女の元へ。

何処からともなく聞こえる心音。

それは、彼女に近づくにつれ大きくなる。


「師匠、あっちの明るいところに行こうよ。」


彼女は照れるように頷く。

空気を察した二ティカは、ラスティーを呼び、ダブリスをどつく。


「ラスティちゃん、お茶しようか。」


「・・うん!」


「タプリスいくわよ。」


店のバルコニーで、魔導の光を眺めるアリシア。

僕は、彼女に声を掛ける。


「師・・アリシア、誕生日じゃないけど。僕から・・・。」

「初めて会ったあの日から、僕は、アリシアと一緒にいれて嬉しい。」

「ありがとう、アリシア。」


僕は、小箱を彼女に渡す。

そこは雰囲気などない、よくあるバルコニー。

もちろん星空は無く、魔導ランプの街灯で仄かに明るい。

彼女は、小箱を見つめ僕に言葉を返す。


「いいのか、私なんかにこんな・・・」


「アリシアにもらって欲しいんだ。」

「これは僕の気持ち。」

「きっと君を守ってくれるよ。」


アリシアは、小箱を開ける。

そこには、魔力の光を反射して、美しく輝く指輪。

僕は、彼女に声を掛ける。

それは、二ティカに教わった言葉。


「アリシア、僕が君の指にはめても良いかな。」


「・・うん。」


恥じらい俯く彼女の声は、いつもより可愛く感じられた。

彼女は屈み、僕の目線と高さに合わせる。

僕は、箱から指輪を優しくとり、彼女の指へ嵌める。

しかし、第一関節で止まった。


「フフッ、フフフッ。」

「ルシア、下調べは大事だぞ。」


「・・・うん。」


僕は、彼女に抱きしめられた。

そして、耳元で優しいく囁かれた言葉。


「でも、うれしい・・・」

「大好きだぞ、ルシア。」


それを見る3人もまた優しく笑う。

結局、リングは仕立て直され、彼女のネックレスへと変わった。

いつの日か、それを嵌め、ドレスを纏う日の為に。


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